た、宝箱だ〜
歩いていくと、道は二股にわかれた。
「どっち?」
「さあ。僕もここに入るの初めてなので」
「ふうん。じゃあ、右に行ってみるよ?」
「かまいませんよ」
僕らは右手に折れた。
少し進むと、そのさきが袋小路になってることがわかった。
「なんだぁ。行き止まりかぁ。戻ろう」
が、しかしだ。
美しい蘭さんが、急に鬼の形相で僕に迫ってくる。
関係ないけど、蘭さんはちょっぴり僕より身長高いようだ。やっぱり現実のデータが踏襲されている。
うーん、ってことは、ほんとは蘭さん、男なんじゃないのかな?
男の娘?
でも、姫様って呼ばれてたしなぁ……。
「ちゃんと奥まで行ってください! 行かないと後悔しますよ? 行け! 今すぐ、まっすぐ前見て歩いていけ!」
「は、はい。すいません。ごめんなさい」
だって、どうせ行き止まりだよ?
歩数でエンカウントするんでしょ? 回復道具もないし、いきなり初ダンジョンで死にたくないんだけど。
まあ、言われたから行くけどさ。
どうせ、なんにもな——あったーッ!
なんかある。
あれは、もしや?
もしかしなくても、た……宝箱だぁー!
いいの? まだ物語、始まったばっかだけど。もう宝箱ひらいていいの?
宝箱。その言葉に詰まった夢と希望。
嬉しい。
宝箱って百パーセント回収したい派なんだよね。
二択とか三択で、一つしか選べない宝箱は、臓腑をえぐられるようにツライ。
宝箱〜
僕のお宝ちゃん。今、行くよ〜
僕はスキップしながら宝箱にとびついた。と、そのときだ。宝箱の陰からモンスターが現れた。
スライム三匹だ。
か、囲まれたー!
*
「わぁっ! 出たー!」
「かーくん。落ちついてください。言っても、しょせんスライムです。今回は僕も援護しますから」
そう? じゃあ、さっきも援護してほしかったな。わりと痛かったんだけど。
そういえば、さっきのバトルのあと確認してないけど、今の僕のHPっていくつなんだ? 死にかけじゃないよね?
モニターが浮かびあがる。
どうやら見たいと考えると自動で出てくるらしい。
えーと、HP10……えっ? 10? 10ですか?
たった一匹、スライムと戦っただけで、僕のHP半分になったの?
ええーッ! 僕、弱すぎる!
ど、どうしよう。
スライム一匹と戦うのがギリなこの体。
三匹もいるんだけど?
必死じゃん。
この場合の必死は、必ず死ぬ、だ。
死ぬよ。僕。
でも、スライムたちは容赦してくれない。可愛い黒い目を三角にしちゃったりしてさ。いっちょまえに、やってやるって顔してる。
「かーくんさん。行きますよ?」
「はい!」
そうだ。ビビってる場合じゃない。
スライムたちを倒せば、その奥には宝箱だ。
宝箱〜
僕のお宝ちゃ〜ん。
僕は木刀をかまえると、目の前のスライムをタコなぐりにした。
ぽこ。ぽこ。ぽこ。叩く。叩く。叩く。
宝箱。宝箱。早くあけたい。
ここで負けたら、もしかして夢、覚めちゃうんじゃないか?
ヤダー! それだけはイヤだー!
せめて宝箱の中身を見てから死にたい。
ぽこ。ぽこ。ぽこ。ぽこり。ぽこ。ぽこ——
お返しタックル。タックル。タックル……。
イテテ。これが痛いんだよな。
なんか、めまいがする……?
あれ? 大丈夫か? 僕。
そのときだ。
「元気になれ〜」
蘭さんが素敵な笑顔で歌うように言った。
すると、ふわりと白い光が僕を包んで、痛みが遠のく。
治った。ダメージが治った。
もしかして、これが魔法か?
ヒール的な癒しマジック?
とにかく、元気になった僕はあらためて、タコなぐり。
ぽこ。ぽこ。ぽこ。みぽこ。ぽこ。
倒した。
スライム三匹倒した。
チャラララッチャッチャー。
む? この音楽は?