子グマちゃん
スライムの見ためは、以前のぬけ道で見たときと変わらない。
あいかわらず、プルプルして可愛い。
子グマちゃんは初めて見た。
野生のって言うけど、見ため、ぬいぐるみなんだけど?
めっちゃモコモコしたピンクのクマだ。つぶらな目が僕好み。
そう言えば、ここに来る前、山岳地帯でグリズリーって熊のモンスターがいた。なのに、なんで今さら、子グマちゃん? それも、ぬいぐるみ。
赤いリボンつけて一体五十円で売れば、女の子にバカ売れするだろう。
「ぬいぐるみが動いてる……」
「ぬいぐるみですね」
「ま、モンスターやし、いろいろおるんやろ」
二体しかいない。
しかも弱そうな子たちだ。
ひさびさに、やっつけるのが可哀想になってくる。やっぱり害虫とは、こっちの受ける印象が違う。
「ちゃちゃっと終わらせよっか」
僕は完全に甘く見ていた。
なんか猛が苦笑いしてるなぁとは思ってたんだけど。
僕はそれで思いだした。
ん? 待てよ。
スライムレベル10?
それって、もしや……。
めったやたらに仲間を呼んで、最後には一匹にくっついてスライムの王様になるやつか?
そうか。
あの手強いスライムたちか。
レベルが高いぶん、一体ずつがしぶとい上、倒しても倒しても仲間が増えるから、長期戦になるんだよね。しかもキングになっちゃうと、さらに強敵になるし。
「ロラン。シャケ。ここはスライムから倒そう。やつが仲間を呼ぶ前に」
「うん。わかりました」
「了解やぁ」
「キュイ!」
僕らは勇んで銭湯へGO!
あっ、ミスった。
戦闘へGO!
変換ミスって怖い。意味がぜんぜん違う。
一ターンめ。
まずは蘭さん。
ピシ、ピシ、ピシ、ピシリと鞭連打〜
思ったとおりだ。強い。
スライムは二打で撃沈。
残り二打で子グマちゃんも……って、あれ?
子グマちゃんの挙動がおかしいぞ?
子グマちゃんが仲間を呼んだ。
子グマちゃんが仲間を呼んだ。
子グマちゃんが仲間を呼んだ。
子グマちゃんが仲間を呼んだ。
子グマちゃんが仲間を呼んだ。
子グマちゃんが仲間を呼んだ。
子グマちゃんが仲間を呼んだ。
このテロップ、どっかで見たぞ。
な、なんかイヤな予感が……。
なんと!
子グマちゃんたちが、みるみるくっつき……きょ、巨大化していく。
テディーキングになったぁー!
や……やっぱり!
*
王冠をかぶったピンク色の巨大なクマのぬいぐるみ。
それが、テディーキングだ。
僕らの前に小山のようなラブリーテディーが牙をむいた。
どうでもいいけど、可愛いな。
「ああっー! 合体するの、子グマちゃんのほうだったァー。てっきり、あのゲームに忠実にスライムのほうだと思ったのに!」
ハハハと、爽やかな笑顔で猛が笑う。
いや、今、そんな笑われたって。
「だから言ったじゃないか。テディーキングには気をつけろよって。あいつ、瀕死になると、いっきに仲間呼びするときあるから」
「いやいや、それならそうと言っといてよ? 合体してからじゃ遅いよ?」
「かーくん。ガンバレ」
もう、なんて無責任な兄なんだ。
こうなれば戦うしかないのか。
デカイ。デカイよ。ビルなみとまでは言わないけど、二階建ての一軒家くらいの大きさはある。
合体直後は動けないらしい。
幼児が指をしゃぶる仕草でこっちを見て、僕らのターンを待っている。
「えーと、一ターンめの僕とシャケとぽよちゃんの行動はとばされちゃったわけか。じゃあ、次が二ターンめってこと?」
「そうですね。次の戦闘からは、四回行動できる僕がまっさきに子グマを倒します。今はじゃあ、HPも防御力も高そうですし、呪文を使いますね?」
「一段階は上げたほうがいいね。僕ら防御力は上がったけど、攻撃力がものすごく強いのは、ロランだけだし」
ロランはうなずいて叫んだ。
「みんな、がんばろ〜」
o(^o^)o
この笑顔だ。
蘭さんは顔文字の表情作るのウマイなぁ。
そのあと、ドラゴンテイルが三回舞った。テディーキングに一回40〜50のダメージを与えた。が、クマの王様は倒れない。目に涙を浮かべているが、倒れない。
やっぱり強いな。
巨大化させてはいけなかった。
三村くんが鉄のブーメランをなげる。
スコンと可愛いクマちゃんの耳が、かたっぽ切りおとされた。
ああッ、残酷ぅー!
テディーキングは大泣きだ。
あと、どのくらいのHPが残ってるんだろう?
僕の攻撃で倒れてくれるといいんだけど……。
なんか、これまでのパターンで行くと、たいてい反撃をくらうのは僕。
「破魔の魔法でもいい?」
「いいですよ。一ターンやりすごせば、次の僕の攻撃で倒せるでしょ?」
じゃ、遠慮なく。
「破魔の剣〜!」
ちっさい炎が泣いてるクマちゃんの頭上にパラパラと降った。
あっ……マズかったかも?
テディーキングのつぶらな瞳が燃えている。クマちゃんの怒りに火がついたー!