まさかの再会?
「誰や? あれ。なんや怪しいやっちゃなぁ」と、三村くんも言った。
だよね。なんかふんいきが、いかにもイベント的なやつ。
男はちょうど、ぽよちゃんの墓があったあたりで立ちつくしている。
僕は用心しながら近づいていった。
さっきお祈りしたから、もしも戦闘になって負けても、そこからやりなおせる……はずだ。
僕はこの世界の住人じゃないから、戦闘で負けたら、じっさいにどうなるのかはわからないんだけど。
目が覚めて夢が終わるだけなのかな?
考えていると、男がふりかえった。
フードの下の顔を見て、僕は仰天した。うーん、まさか、ここで、こいつの顔を見ることになるとは。
「あれっ? 兄ちゃん?」
「ああ、かーくん」
「なんで、ここにいんの?」
「いや、ちょっとな。かーくんこそ、なんだよ?」
「僕は蘭さんたちと冒険してるんだよ」
「へえ。そうなんだ」
「兄ちゃん、この前も地下道で会ったとき、無視して行ってしまったよね」
「ああ。あのときはな。悪い。悪い。そうか。かーくんは蘭たちといっしょか。まあ、それなら心配ないかな」
「何が?」
「いや、ほら、魔王が攻めてくるとかウワサになってるし」
「だよね。RPGだし。てかさ。猛はなんで、僕のことわかるの? 蘭さんも三村くんも、僕のこと覚えてないみたいなんだけど」
猛は考えこんだ。
考えるときの癖は現実世界と同じ。要するに、にぎりこぶしを口元にあてる。
「かーくん」
「うん」
「もしかして、かーくん。この世界のこと、夢だと思ってるか?」
「うん。コタツで寝てたら、いつのまにか夢見てた」
「おれといっしょだな。これ、おれの夢かと思ってたけど」
「ええー? 僕の夢だよ」
「てことは、おれとおまえの夢なのかもしれないな」
「そうか。だから、兄ちゃんだけ反応が違うんだ」
「ああ。たぶん、蘭や鮭児はおれやおまえの記憶やイメージの作る夢のなかの産物だ」
「ふうん。どうやったら現実に戻れるの?」
「それがわからないんだよな。まだ仮定ではあるんだが……」
「うん?」
「ゲームを終わりまでやりとげたら、帰れる——のかも?」
むーん。ジュマ〇ジ的なやつかァー!
なんか変なボードゲームとか拾ったっけ? いや、拾ってないし。
なんで急に兄弟でゲームの世界に入りこんじゃうんだ?
*
「じゃあさ。猛もいっしょに旅しようよ? そのほうが早くクリアできるよ」
猛はためらった。
え? なんで?
僕といっしょじゃ嫌なのか?
あっ、そうか。現実世界同様に僕が兄ちゃんの足ひっぱると思ってるな?
ふふふ。甘くみるなよ? この世界では僕のほうがチートなんだよね。
「心配しなくても、僕、この世界じゃ、ちょっとしたもんなんだ。へへへ。たぶん、旅の邪魔にはならないよ。というかさ。勇者のそばにいたほうがゲーム進行に役立つでしょ?」
猛は心底おどろいた表情になった。
「えッ? 勇者?」
「うん。勇者」
僕じゃないけど。
まあ、それはおいおいに話してやろう。
猛は何やら、ひじょうに深刻な顔で数分間も考えこんでいた。そのうち、ようやく、顔をあげる。
「わかった。ずっといっしょにはいられないんだけどな。ここから山越えて次の街くらいまでは同行しよう」
「ええ? なんでずっといっしょじゃないんだよぉ」
「兄ちゃんにはやらないといけないことがあるんだよ」
「ふうん」
ちょっと不満ではあったけど、まあいいや。しばらくでもいっしょに旅ができる。
「わ〜い。兄ちゃんといっしょだぁー!」
三村くんは、うさんくさそうな目つきをしてるので、やっぱり現実の世界での記憶がないらしい。僕らが仲良しこよしの友達だということを失念している。あるいは兄ちゃんの言うとおり、三村くんや蘭さんは夢のなかの産物で、本物ではないのかもしれない。
「シャケ。これ、僕の兄ちゃんなんだよ。すごく強い(はずだ)から、頼りになるよ」
「兄貴かいな。まあ、そんならええか……」
兄ちゃんはお腹をかかえて笑ってる。
「シャケ……シャケなんだ?」
「うん。僕らが名前のこと、イジリすぎたのかも」
「うわぁ。失礼なやっちゃなぁ。人の名前、笑うなや」
「悪い。悪い。よろしくな」
というわけで、兄ちゃんが仲間になった。