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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第二部 物語は動きだした 四章 再会の兄弟
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山越えの前に



 さて、僕のひそかな満足がいったところで、いよいよ旅支度だ。

 昨日はへこんでたので、教会と墓地と宿屋しか行ってなかったが、出立前にくまなく見ておかなくちゃ。

 村の人の話も聞かないと。


「ロラン。シャケ。僕、朝食前にちょっと散歩してくるよ」

「そうですか? じゃあ、早めに帰ってきてくださいね。今日は山越えだから、朝のうちに出発しないと」

「うん。待っててね」


 僕はぽよちゃんをお供に、宿屋の客室から見てまわる。

 じっさい、こんなことしたら警察に捕まると思うんだが、僕が他の部屋をあけても、宿泊客は誰も文句を言わないどころか、親切に話を聞かせてくれる。


「知ってますか? あなた。この世の果ての国から魔王の軍勢が侵攻してきているそうですね。ああ、怖い。怖い」とか。


「樹海では大ムカデにご注意めされ。毒消し草は多めに持っていくんじゃよ」とか。


「ここに来る途中、マーダーの神殿によってきたんですが、なんだかゴタゴタしてるみたいですな。転職できるまで待ってくださいと言われて、残念だけど素通りしてきました」とか。


 マーダー神殿で、なんか起こってるのかな? もしかして、それを解決しないと転職させてくれないパターンか?

 あれって、ちょっとイラつくんだよね。せっかく長い道のりを苦労して辿りついたのに、まだダメですとか言われるとさ。牢獄の町は正直、魂がぬけた。


 旅人だけじゃない。村人も親切。

 みな親切。

 NPCって、ありがたないなぁ。


「昨日の夜、東の空が燃えてたんだ。ありゃあ、シルキー城でなんかあったんじゃなかろうか」


 ありましたね。

 でも、僕がそれには答えないでいると、畑をたがやしてたおじさんは、そのまま畑仕事に戻った。

 そのとき、クワが掘りかえした土のなかに、きれいな草がまじっていた。光を帯びて、いかにも怪しい。これはお宝くさいぞ。


「あの、この草、貰ってもいいですか?」

「ああ。いいよ」

「ありがとうございます!」

「昨日の夜、東の空が燃えてたんだ。ありゃあ、シルキー城でなんかあったんじゃなかろうか」


 あっ、うん。それはもういいんだ。


 僕のうしろからヒョイと誰かがのぞく。


「ラッキーやな。かーくん。それは力の種やで。食べると力の数値が上がるんや。めったに手に入れへんねんで」

「あれっ、シャケ。ついてきたのか」

「まあ、序盤から中盤は自分に使うのが無難やなぁ。仲間は途中、なんかの事情で離れてまうこともあるしな」

「ふうん」


 もしかして、幸運の数値が上がったからだろうか?

 だとしたら、すごい効果だ。

 幸運度99998……。



 *


 なんか、雑草にしか見えないけど、しょうがない。僕は井戸の水で力の種を洗うと、生でかじりついた。

 うーん……野菜嫌いにはキツイかも。

 味つけが欲しい気はしたが、一口サイズだし、食って食えないことはない。甘いカブみたいなものだった。


 目の前にテロップが流れる。



 ——かーくんは力の種を使った。力の数値が5上がった。



「おっ、ええやん。力の種はランダムで1から5数値上がるんや。5なら最高やで」


 やっぱり幸運効果か。スゴイ。

 これなら、カジノで一発大当たりとかできるんじゃないか?


 そのあとも幸運効果は続いた。

 道を歩けば、見知らぬおばさんから「主人が昔、冒険で使ってたものなの。主人はもう冒険者は引退したから」と、力の腕輪を貰うし、野原で足がひっかかって転んだと思うと、そこから小さなコインが出てきた。


 なんか、怖いほどついている。

 現実に戻ったとき、ちゃんと平凡な人生に満足できるんだろうか? 僕。


 村中をあちこち歩きまわった。

 武器屋はなかったけど、雑貨屋があった。今のところ武器は破魔の剣ほど強い武器は売ってない。防具もさほどないなぁ。でも、革のブーツというのがあった。裏にスパイクがあって、ちょっと重いけど、山登りには適している。防御力が3あがるので、これを買った。


「あっ、ぽよちゃん、木の帽子が装備できるね。手編みのケープも。買ってあげようねぇ」

「ピュイ」


 見るからにダサイ円錐えんすい形の木の帽子をかぶせ、へたくそな手編みのケープをまとわせたぽよちゃんは、格段に可愛さが下がった。しかし、防御力は上がった。ぽよちゃんは頭突き攻撃をする子だから、固い木の帽子は攻撃にも役立つ。

 可愛いカッコもさせてあげたいが、今は防御力重視だ。

 武器は石の牙だ。石で作った牙のマウスピースみたいなもんだね。


 だ、ダサイ……。

 致命的なくらい、可愛くない。

 でもまあ、ぽよちゃんが喜んでるからいいか。


 最後に教会に行った。

 お祈りをしたあと、裏の墓地へ行ってみた。ぽよちゃんの墓がどうなってるのか、興味があったからだ。結果から言うと、墓はあとかたもなく消えていた。小説を書く……スゴイ技だ。


 ところで、僕はそこで不審な男を見つけた。黒いフード付きのマントで全身を覆った背の高い男。


 あ、怪しい……。

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