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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
三章 勇者ご一行の旅
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さよなら。ぽよちゃん



 北の山脈のふもとに、小さな村があった。ほんとにすごく小さくて、武器屋も防具屋もないけど、宿屋と教会はあった。


 僕はぽよちゃんを抱いて教会に走った。


「お願いします! ぽよちゃんを生き返らせてください!」


 神父さんが僕の抱いたぽよちゃんを見て告げる。


「では教会に百五十円の寄付をお願いします」


 あっ、よし。蘇生できるんだ。


「いいよ。百五十円くらい払うよ。早く生き返らせて!」


 僕は急いで財布から百五十円とりだした。

 受けとった神父さんは神妙な顔でうなずく。


「神の御名において、ぽよぽよの……」

「ぽよちゃん!」

「ぽよちゃんに今一度、生を与えたまえ〜」


 そうだ。生きかえってくれ!

 ぽよちゃん。


 しかし、何も起こらない。

 祭壇に置かれた小さなひつぎ

 どうして、この世界では死ぬと勝手に柩が出てくるんだろう?

 この柩のふたがひらくのを、今か今かと待ちわびた。


 でも、そのときは来なかった。

 困ったような顔をして、神父さんが言った。


「申しわけありません。祈りは神に届きませんでした」

「じゃあ、もう一回やってよ! 百五十円くらい、何回でも払うからさ!」


 僕は泣きながら訴えたけど、神父さんは首をふるばかりだった。


 ぽよちゃんは生き返らなかった。

 それが現実だ。


 僕はその日、ずっと泣きとおした。


 ぽよちゃん。ごめんね。

 僕を助けたばっかりに。

 短いつきあいだったけど、君は僕らのほんとの仲間だったよ。


 蘭さんと三村くんが静かに僕の肩を叩いた。



 *


 一晩中、泣きあかしたんで、僕がそれに気づいたのは、夜明けがたのことだった。


 いつのまにか、うたたねしていた。



 ——かーくん。かーくん。目をさまして。あなたはレベル15になりました。“小説を書く”が使えるはずですよ。



 誰かの声が聞こえた気がした。

 眠い目をこじあけ、そっと明け方の薄闇をながめる。

 今のはなんだったんだろう?

 優しい女の人の声だったような?


 蘭さんと三村くんは同じ部屋のそれぞれのベッドのなかで眠ってる。

 変だなぁ。空耳だったかな?


 なんかスキルを見なさいみたいなことを言われたっけ?


 僕はぼんやりしながら、目の前に浮かぶモニターを見た。

 スキルの項目の文字が明るくなってる。小説を書く、だ。

 そうか。この世界でも僕は小説を書けるようになったのか。


 これまでの人生、つらいことも悲しいことも、みんな小説にしてきた。

 小説こそ僕の人生。

 ほかの人が呼吸をするように、僕には小説を書くことがあたりまえな生命維持活動なんだ。


 というわけで、今、マーダー山脈のふもとの小さな村の宿のなかで、僕はこれを書いている。

 始まりの街から、ここに到達するまでのことをすべて書ききった。

 小説っていうか、どっちかっていうと日記みたいなもんだ。

 ちなみにスマホで打ってるんで、早い。早い。ふだんから小説書くのにスマホ使ってるし、めっちゃ早打ちできる。両手打ちだもんねぇ。


 でも、最後の最後で、僕は考えた。

 ぽよちゃんは蘇生しなかった。

 でもこれは小説なんだから。

 別に生き返ったっていいじゃないか?

 ずっと僕らといっしょに旅をしようよ。


 僕は神父さんが蘇生の祈りをしたあとのところからを書きなおす。



 ***


「神の御名において、ぽよぽよのぽよちゃんに今一度、生を与えたまえ〜」


 チャチャーンチャーンと、お祈りの効果音が鳴り、しばしの時間が経過する。


 僕らは待った。

 小さな柩のふたが、なかからひらくのを。


 やがて、そのときは来た。

 ふたがゴトゴトと動くと、元気よく、ぽよぽよのぽよちゃんがとびだしてきた。


「キュイー!」

「ぽよちゃん!」


 僕はぽよちゃんのもふもふの体を抱きしめた。

 僕らの仲間。

 こうして、ぽよちゃんは僕らと旅をすることになった。



 ***


 書きながら、また涙があふれてきた。

 ぽよちゃん。安らかに……。

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