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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第七部 決戦! ミルキー城 十九章 ミルキー城潜入作戦
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ワレスさんとの誓い



「でも、それにしても、おまえがハシェドを知ってることの説明にはならないな。この世界には、ハシェドは存在しないんだから」


 ですよね。やっぱ、気づいちゃいました?


「あのぉ……言っても信じてもらえないと思うんですが、僕、もとの世界で小説を書いてまして。あなたは、それに出てくる主役です。だから、あなたやハシェドやクルウやホルズやドータスのことは前から知ってました。司書長やロンドのことも」

「ロンドはこの世界では、長いあいだ旅に出たまま行方が知れないらしい」

「ロンドを主役にしたスピンオフ作品も三作くらい書いたんですよね。ロンドが賢者になってからの話で、弟子にエンリコっていう赤毛の女の子がいます」


 ワレスさんはまた噴水の石組みに腰かけ、考える。


「おれの生きていた世界は、もともと、こことわりと近い。かつては魔術で繁栄していた。おれが生まれたのは、魔術が消える寸前の時代だ。魔術の世界観ではこの世にはよく似たたくさんの世界が存在していて、その一つずつが少しずつ異なる未来へ進んでいる」

「平行世界ですね。僕らの世界では、それはサイエンスフィクションの概念です」

「そう。おそらく、おれやおまえは異なる平行世界の人間なんだろう。おまえのいる世界には、おれは存在しない。しかし、おまえには魔術的な能力があり、夢想することで別の世界の出来事を感知する。たまたま、その対象が、おれやロンドだったわけだ」

「なるほど」


 それはとても嬉しい考えだ。

 僕の想像した理想の人が、どこか遠い過去か未来の宇宙のかなたには存在しているのかもしれないと思えば。


 よかった。生みの親だから、よくもヒドイめにあわせてくれたなって、つめよられるかと思った。へたすると抹殺されかねないとすら心配してたんだよねぇ。


「じゃあ、僕らはものすごい不思議な奇跡で、こうして同じ世界線に立ってるんですね」

「そうだな。おれとしては予告も選択権もなく勝手につれてこられて、この世界の女神だかなんだか知らないが、ふざけるなと言ってやりたいがな。一日も早く、もとの世界に帰れるよう最大限の努力をする。おまえも協力してくれ」

「わかりました!」


 だけど、ワレスさんはそれでいいのかな? この世界はモンスターの襲撃を受けてはいるけど、現状のワレスさんの立場は、彼のほんとの世界より、ずいぶん平穏だ。


 ほんとの世界でのワレスさんは、愛する人が必ず死んでしまうという呪いのせいで、幼くして家族も全員、亡くした。一人で各地を放浪しながら、知りあう人々と愛情や信頼をかわすようになると、その人たちは死んでいくということをくりかえしてきた。


 過去だけじゃない。

 これからだって、その呪いがあるかぎり、ずっとその運命が続いていくのだ。


「……それでも、帰りたいんですね?」


 ワレスさんはすべてを見通すその目で、僕の思考を読んだのか?

 淡く微笑みながら、うなずいた。


「ここには、おれの愛する人がいない。だから、帰るんだ」


 そうだよね。

 僕だって現実に戻れば、ただの平凡なショップ店員で、ここで貯めこんだ莫大な財産も全部パーだけど、それでも兄と蘭さんとミャーコといっしょに、のんびり暮らしていきたい。


「がんばりましょう。悪のヤドリギを倒して、ほかの四天王も、魔王も倒して、ほんとの世界に戻りましょう。僕も兄もできるかぎりのことをします」

「ああ。約束しよう。目的が同じであるかぎり、おれはおまえを裏切らない。だから、おまえも裏切るな? 絶対だぞ」

「もちろんです!」


 僕たちは誓いあった。

 ふつうに生きていれば、決してまじわるはずのなかった異なる世界の住人同士。

 こうして同じ場所に立っている奇跡を、さらなる奇跡へと結びつけるために。

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