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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第七部 決戦! ミルキー城 十九章 ミルキー城潜入作戦
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出立前夜



 その夜のことだ。

 いよいよ明日には出発だと思うと、僕は緊張して、なかなか寝られなかった。

 転移魔法を使えば、ボイクド城にも飛んで帰ってこれるかもしれないけど、わかんないからな。前の廃墟の研究所みたいに、転移魔法がきかない変な場所になってる可能性もある。

 そしたら、一回なかへ入ったら、悪のヤドリギを倒すまではミルキー城から出ていけないかもしれない。


 寝返りを打つと、窓の外はキレイな月夜だ。

 寝られないので、僕は外に出てみた。裏庭を歩きまわっていると、噴水の近くに先客がいた。

 一瞬、オバケかと思ったが、違う。よかった。というかさ。僕の憧れの英雄だよ〜


「寝られないのか?」


 ふりそそぐ月光にブロンドを輝かせて、彼は声をかけてきた。

 昼間に見ても想像を絶する美形だけど、月の光のもとで見ると、もう夢のなかの産物としか思えない。

 あっ、夢だったかって、いったいこのツッコミは何度めだ?


「ワレスさんも緊張するんですね?」


 ははは、とワレスさんは笑う。


「おれは嬉しいんだよ。ようやく、ミルキー城に乗りこめる。四天王の一体を討てるかもしれない」


 ああ、自分に自信のある人は違うなぁ。

 僕なんか貯金一千億超えになって、一回の小銭拾いで十億ずつ拾う勢いなのに、まだ安心できないんだよなぁ。

 なんとなく何かをやり残したような気分は、はたしてなんだろうか?

 こんなとき、いつもなら兄ちゃんがとなりにいて「大丈夫だよ。平気。平気」って、僕の背中をたたいてくれるんだけどな。


「今のおまえの力なら四天王とも互角にやりあえるさ。さあ、帰って、もう寝ろ」


 ワレスさんはそう言って、噴水の石組みから立ちあがった。去っていこうとするので、なんとなく名残おしい。

 僕はよびとめた。

 恋する乙女のような僕。

 でも、自分の小説のなかで一番、愛着のあるキャラクターが目の前にいるんだよ。小説書いてる人なら、この気持ち、わかってくれるはず。


「ロランには精鋭をつけてくれるんでしたね。クルウは別動隊だから、ハシェドかなぁ?」


 ワレスさんの部下や友人として小説に出てくる人物は、この城のなかで何人も見かけた。ホルズとか、ドータスとか。サムウェイ隊長とか、アトラー隊長とか。

 なのに、ワレスさんがもっとも信頼する腹心の部下であり、親友でもあるハシェドを、まだこの城のなかで一度も目にしたことがない。

 だから、なんとなく気になって聞いてみたんだけど……。


 その瞬間、ワレスさんの青い蝶のような瞳が、ピカリと底光りする。

 ワレスさんは険しい表情で近よってくると、僕の胸ぐらをつかみあげた。


 ギャー! 超絶美形に胸ぐらつかまれたー! 近い。近すぎる。

 男でもドキドキするよぉー。


「おまえ、何者だ?」

「はっ? かーくんですけど」


 本名は東堂薫!

 京都在住のアパレル店員だよ〜

 兄ちゃんの探偵事務所の助手でもある。


 すると、どうしたことだろう?

 あれほど何事にも動じないワレスさんの顔色が、やけに蒼白になった。月光のせいでもともと青ざめて見えるのに、血の気が失せた彼は、何か人ではない神秘的な生物のようだ。


 ワレスさんはつぶやいた。


「まさか……《《おまえも》》なのか?」


 うーん? おまえもとは、何が?

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