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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
十七章 まだまだ鍛えよう
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勇者の悩み



 ら、蘭さんが泣いているっ!

 む、胸が痛い!

 どうしよう。めちゃめちゃ可愛い。

 同居してる兄と同い年の同性の泣き顔が可愛いとか言ったら、世間的にぶっとばされそうだけど、目の前にいるのは蘭さんのようでいて、蘭さんじゃない。今は僕より年下だしね。ドレス着てるしね。抱きよせて、よしよしってしたくなっても、しょうがないと思うんだよね。

 たぶん、世界で一番カワイイ男の娘。蘭さんは心が女の子なわけじゃないから、ただの女装男子か。


「ら、蘭さん……じゃなかった。ロラン。なんで泣いてるの? ケガしたの?」

「……そんなんじゃありません。ほっといてください」


 いやいや。ほっとけないでしょ。

 アンドーくんやスズランもかけよってきた。クマりんやケロちゃんまで馬車をとびだしてくる。


「ね? ほら。みんな心配してるよ? じゃあさ。馬車に乗りなよ。外は僕らが守っとくから」


 僕はなだめるつもりで言ったんだけど、蘭さんの泣き声がいっそう激しくなってしまった。


「ロ、ロラン……」

「どうせ僕なんていなくたっていいんでしょ? リーダーはかーくんがやればいい。僕より強いし、僕より作戦だって、うまく立てられるし、みんなも僕じゃなくて、かーくんについてきたんでしょッ?」


 あれ? これって、つまり、ヤキモチ?


「えーと……」

「僕がいなくたって、かーくんが世界を救えばいいんだ」

「いや、それはムリなんじゃないかな? みんな、ロランについてきたんだよ? ぽよちゃんたちだって、ロランの技で仲間になったんだし。ロランがいなかったら話になんないよ」

「僕が勇者だからでしょ? 勇者じゃない僕なら、いてもいなくても同じなんだ」


 ん。ガンコなすねモード。

 現実の蘭さんは二十代で年上で、僕の前でこんなふうに泣きだすことなんて、まずないんだけど。

 可愛いなぁ。守ってあげたい勇者。


「じゃあさ。風神のブーツと流星の腕輪を交換しようよ。そしたら、ロランはもっと素早く行動できるし、1000%あがったときの数値も僕より高いしさ」

「そんなんじゃありません! それだって、かーくんの得意技で手に入れたものだから、人の力で強くなったって意味ないんだ」


 わあわあ泣きだして手がつけられない。

 僕はもとより、アンドーくんもスズランも困ってる。スズランは自分の兄のこんな姿は見たくなかっただろうな。


 せめてもマシだったのは、この場にワレスさんがいないことだ、と思う僕であった。

 ワレスさんがいたら、めちゃくちゃ罵って、ビンタの一、二発くらいは出てるだろう。弱音吐いてるヒマがあったら強くなれよ、とか言ってさ。

 あの人はどんなときでも絶対に自分の弱さに屈しない人だからなぁ。自分に厳しいぶんは人にも厳しい。


「ロランだって強くなってるよ。もっとたくさん職業を覚えたら、もっともっと強くなるよ」

「ふつうに強くなるだけじゃダメなんだ。勇者だから。他人にできないことができてあたりまえなんだ。みんな、そう思ってるんでしょ? こんなことなら、勇者になんてならなきゃよかった。僕には勇者の資格なんてないんだ」


 ん? そこかっ? 根っこ。


「ロラン。もしかして、怖いの? 勇者だから魔王を倒さないといけなくて、でも、まわりのみんながどんどん強くなるから、自分が成長してないように思えて自信がなくなったんだね?」


 蘭さんは答えないけど、涙がますますあふれてきた。図星なんだろう。


 ムリもないか。

 たった一人の少年が双肩に背負うには、世界の命運は重すぎる。プレッシャーにつぶれてしまいそうになったんだね。


 僕はこの世界で生まれたわけじゃないし、ゲーム感覚だから気軽に考えてたけど、ロランにとってはここが自分の現実なわけで。その世界が滅ぶかどうかが、自分の責任だと思うのは重荷だろう。


「ロラン。僕はロランが勇者だからついてきたわけじゃないよ。友達だって言ってくれたから、ついてきたんだ。友達だから助けたいし、支えたい。それだけのことだよ」

「かーくん……」


 おずおずと、アンドーくんも口をひらく。

「わも、ロランやかーくんは友達だけんね。友達だなかったら、とっくにセイヤのこと探しに行っちょう」


 池野くんか。悪のヤドリギにあやつられたまま、いなくなってしまった池野くん。心配だよね。


「わたしも、お兄さまが勇者でなくても、家族ですから。いっしょにいてくださるだけで嬉しいです」と、スズラン。


 ぐすん、と蘭さんが鼻を鳴らした。

 僕らの目を順々に見つめる。

 ちゃんと気持ちは伝わったんだろうか?


 蘭さんはつぶやいた。

「……みんな、ありがとう」


 麗しいおもてを涙でくちゃくちゃにして、照れくさそうに笑う蘭さん……。


「ギャーーーーッ! なんかキターッ!」

「なんなら、わがお嫁に貰うけんね?」

「キャー。キャー。お兄さま。素敵です!」


 その瞬間、蘭さんの新しい力が開花した。

 テロップが流れる。



 ロランが『みんな、ありがとう』を覚えた。



 何それ?

 みんな、ありがとうって?

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