変なおじさん
カジノにはいろんな人がいる。
僕は元手がけっこうあるんで、そのあとスロットをした。
メダル一枚賭け、五枚賭け、十枚賭けの台があり、十枚賭けでやってたら、ものの十分ほどで大当たりが来てしまった。あっというまに五万枚たまる。
さすがは僕の幸運度。
こういうときには、ちゃんと効くんだ。戦闘でも、もうちょっと反映されてほしいもんだ。
「たまりん。今日はもう帰ろうか? 遅くなると明日にさしつかえるしねぇ」
ゆらり。
たまりんも「うん」と言ったし、僕は勝ってるとこで帰ることにした。
ところがだ。
僕がメダルをいっぱい持ってたせいだろう。変なおじさんに目をつけられてしまった。
髪がボサボサすぎて、顔が見えない。ガリガリにやせて、ヒョロリとした男だ。
「頼む。私に投資してくれないか!」
「投資?」
「メダルをめぐんでくれ!」
「負けてるんですね?」
「負けてるわけではない。今のところマイナスに転化しているだけだ。次でとりもどすのだから、結果はプラスだ!」
「…………」
うーん。そういうのを負け越すって言うんだよ。
典型的なギャンブル中毒。
無視して歩きだそうとすると、おじさんは僕の肩をつかんでひきとめた。
「頼む。私に恩を売っておけば、いずれ君の役に立つであろう。そう。この私に恩を売れるなんて素晴らしいことなんだよ。なんなら私の偉大な研究について話してあげてもいい」
「…………」
誇大妄想症だな?
めんどうだ。
いっぱい勝ったから、少しくらい、あげてもいいや。
「はい。どうぞ」
「感謝する!」
僕がひとつかみのメダルを手渡すと、おじさんは喜び勇んで、ポーカーのテーブルへ走っていった。
あんまり、かかわらないほうがいい人だったかな?
勝ったメダルは受付に持っていくと預かってくれた。
五万枚も勝ったから、種セットAとB、それに『みんな、元気になれ〜』の魔法秘伝書を一つずつ貰ってみた。
「これ、アンドーくんに覚えてもらおうか? 後衛から全体回復魔法、ありがたいよね」
ゆらり。
一階におりたところで、アンドーくんやスズランと合流した。
「明日のために帰ろっか」
「そげだねぇ」
と話してたのに……今夜はなんなのかな?
ギルドは冒険者の集まる場所だから、昼間より夜のほうが人の出入りが激しいのかもな。
酒場で一人たそがれてる、キルミンさんを見つけてしまった。
狐みたいな目つきだけど、ちょっと美人のキルミンさん。
あのダルトさんの相棒なんて、よく続けてられるなぁ。
僕と目があったキルミンさんは、僕の思考を読んだ! そんなに顔に出てたかな?
手招きして、僕をとなりの椅子にすわらせる。
「あれでもね。以前は強かったのよ。ダルトもさ」
「そうなんですか」
「あの人の得意技、“気分屋”なのよ」
「えーと? それはどういう?」
「気分によって、職業が自動で変わってしまうの」
「えっ? じゃあ、マーダー神殿に行かなくても転職できるんですか?」
「できるけど、パーティーの役に立つ職になれるわけじゃないから」
「ああ……」
遊び人だもんな。現状。
「あの人、決めてるのよね。『賭けてみる?』で敵を倒すまで、遊び人でいるんだって」
「なんでですか?」
「あの人の親友がね。遊び人だったのよ。ホリデーって名前で、やたらと幸運値の高いヤツだった」
「賭けてみるって、幸運値が関係してるんですね?」
「そう。ホリデーの『賭けてみる』は最強だった。あたしたちがピンチのとき、何度も救われたわ。でもね……」
僕はそのあとの言葉を待っていたのに、キルミンさんは急に黙りこんでしまった。
ふふっと苦笑する。
「ごめん。ごめん。坊や相手にグチっちゃった。忘れてよ」
「はあ……」
ダルトさん。あんな迷惑な人、ほかにいないと思ってたけど、なんだか、深いわけがありそうだなぁ。