クマの事情
野生の男の子。
もちろん、これも人形だ。
ブラウンの髪でオーバーオールを着ている。むぎわら帽子かぶってね。
さっきの消えた女の子と対になってるようだ。
子グマちゃんのほうは、今度はレモンイエロー。リボンはオレンジ。柑橘系な香りのするテディベア。
またもや、クマりんがとびだしてきた。
ああ……またナワバリ争いが始まってしまうのか。
聞き耳をしてもらうまでもない。
二体しかいないし、すぐに倒してしまおう。
ところがだ。
戦闘直後に男の子が消えた。
よく見ると、ろうかの奥にむかってスターッと逃げていく。
「あっ、逃げた!」
しかも、そのすきに、クマりんが仲間を呼んだ。
ん? 違うぞ。いきなり、テディーキングがやってきた。水色のテディーキングだ。
「あれ? これって、さっきの水色の子? なんでキングで出てくるわけ?」
「変やなぁ。クマりんと合体したわけでもないのになぁ」
おかしい。
僕はもう一度、よくよくテディベアたちのステータスを見なおした。
水色の子はやっぱり見れない。
でも、クマりんの得意技を見て気づいたことがある。
「あれっ? 仲間を呼ぶのランクが上がってるね。ランク1は子グマ呼び。ランク2はパパ呼び。ランク3はまだ使えないけど……パパって、もしかして?」
僕がつぶやくのを聞いて、クルウがクスクス笑う。
「かーくんさん。よくご覧になってください。水色も黄色も《《子グマちゃん》》ではありませんよ」
ん? どれどれ?
あっ、ほんとだ!
子グマちゃんじゃない。
クマちゃんだ。
そう言えば今さらだけど、水色の子はクマりんより身長も少しだけ高いし、全身はひとまわり大きい……ような気がする。
そうか。パパなのかっ!
水色の子はクマりんのパパ!
じゃあ、何?
さっきの壮絶なバトルは反抗期!
「ということは、黄色いクマちゃんは、もしかして……ママ?」
パパの次はママか。
クマりん、ママ活中!
勝たないとママになってくれないとは、テディベアの世界って、思ったよりシビアだ。
「ママ! ママだよね!」
「えっ? どなたですか?」
「クマりんだよ。ママ、どこ行ってたの? 会いたかったよ!」
「えっ? どなた……」
「ママ! クマりんのこと忘れちゃったの?」
「えっと、あの……」
「ママのバカー!」
「イタっ。イタタ! く……クマりん、ね?」
「ママー!」
「えっと、その、うん。まあ……」
そんな会話が聞こえてくるかのようだ。
クマりんは勝った。
今回は楽勝だ。
なにしろ、テディーキング二体がかりで、あばれるからのボディープレスに、がおーだし。
黄色いクマも無事、クマりんのママになった。