王都到着〜!
山びこは消えるとき、僕に何かを手渡してくれた。ぼうっと光る澄んだグリーンのボールのようなものだ。
でも、それは気がつくと消えていた。
なんだかわからないけど、とにかく旅は再開だ。
車掌さんがやってきて、たずねた。
「お客様。この人たちはいかがいたしましょうか?」
ダルトさんたちのことだ。
「起きるとにぎやかなんで、王都につくまで、このままにしといてください。いつもあんな戦いかたしてると思えないので、王都にたぶん、仲間がいるんだと思うんです。その人たちに事情を話して引き渡してあげてくれませんか?」
「承知しました。列車の運行を助けていただきまして、まことにありがとうございます」
乗客が二人、お棺のままで乗りこむことになったけど、おかげで後半の旅は気ままだ。これでさわいでも誰にも文句言われないぞ。
子鹿も水と薬草をあげると、すぐに元気になった。ケガも治った。窓の外に、じっと汽車をながめる大きな鹿が立っている。
「あッ! 車掌さん。ちょっと待って!」
僕はバンビをつれて草原に出ていった。汽車を見ていた鹿が警戒しながら近づいてくる。
やっぱり、そうだ。この子のお母さんなんだ。
僕は親子がおたがいの体をなめあい、嬉しそうに顔をすりつけるようすをながめた。
よかった。これでもう、子鹿は安心だ。
山びこもきっと本望だろう。
「バイバイ。元気でね〜」
鹿の親子に手をふって、僕は汽車にとびのった。
「じゃあ、車掌さん! 王都までよろしくお願いします」
「はい。当列車は終着駅シルバースターまでの直行となっております。皆さま、今しばらく列車での旅をお楽しみくださいませ」
走りだす汽車。
草原のなかを走りさっていくお母さん鹿と子鹿。
午後の日差しのなかにとけこむように遠くなっていく彼らを見送りながら、今の平穏がどうか長く続いてくれますようにと僕は願った。
*
やっとだ。
やっと着いた。
王都だ〜!
ボイクド国の王都シルバースター。
駅舎もサンディアナより遥かに豪華で、天井がきれいなアーチを描いている。
都会の空気がただよってるぞ。くんくん。
「わあッ。やったー。都だー。やっとここまで来たんだー!」
「ミルキー城の城下町もにぎやかだけど、ここはもっとガイな街だねぇ」
「キュイ、キュイ〜」
さてと、あんまり大きな街だから、どこから行ったらいいのかな。
やっぱり、まずはギルドかな?
蘭さんたちと合流して、それからお城に行って、ワレスさんと再会するんだぁー!
街並みは、なんちゃってネズミランドの巨大バージョンだ。駅を一歩出ると、右も左もわからない。
駅のすぐまん前にギルドがあってよかった。じゃないと完璧に迷ってた。
「あっちのほうにお城が見えるねぇ。街の見物もしたいけど、お城に行ったあとかなぁ」
のんきに話してたんだけど、僕らはまもなく衝撃の事実を知った。
ギルドの受付にて。
「えッ? まだ到着してない?」
「はい。ロランさんという冒険者は、まだこの王都本社ギルドには来ておられませんよ」
「でも、僕らより三日はさきに出発してるんだけど……」
「馬車なんでしょう? それなら、汽車のほうが早いですから、追いこしてしまったのかもしれませんね」
「ああ、そうですね。そうなのかも」
しょうがないのでギルドの受付のお姉さんに、ロランかシャケが来たら、僕らがさきに到着していることを伝えてもらうように頼んだ。
待ってるあいだ、街の見物を……と思ったら、そうもいかなかった。お城から迎えの兵士がやってきたのだ。
ギルドに入る情報は随時、お城に伝えられるようになっているらしい。
迎えの兵士は……彼をひとめ見て、ハッとしたね。
まちがいない! クルウだ。ワレスさんの右腕。長い黒髪をうしろでたばねた、背の高いスマートな騎士。ハンサムだねぇ。
もちろん、クルウも僕の書いてる小説のなかの登場人物だ。ワレスさんのシリーズに出てくる。
クルウを先頭にして、二人ほどついてきてる。そっちは見たことないなぁ。てか、見るのはクルウだって初めてだけど、わが子ってわかるもんなんだねぇ。あまりにもイメージにピッタリなんだよ。
僕はニコニコしながら近づいていった。
「当ててあげましょう。あなたの名前はクルウですね? もしかしたら、本名のエラードのほうを名乗ってるかな?」
「ワレス隊長からお聞きおよびでしたか? さようにございます。私はクルウ。ワレス隊長のもとで副騎士長をつとめております」
うんうん。さすが、生まれながらの騎士の家柄。礼儀正しいなぁ。
「ワレス隊長の命により、お迎えにあがりました。ボイクド城へ来てくださいますか?」
「いいけど、パーティーのリーダーは僕じゃないんだ。僕も副リーダーかな? ロランがまだ到着してないんだよ」
「先日、サンディアナの街で魔物製造工場の報告をしたのは、あなたではありませんか?」
「僕です」
「では、来てください。そのときのもようを詳細に話してもらいますので」
「は〜い」
クルウの目が笑ってる。
たぶん、クルウにも、僕はぽよぽよだと思われてる。いいもんねぇ。ぽよちゃんと僕は仲間だもんねぇ。
僕らはクルウにつれられてお城へ向かった。
ああ、ワレスさんと再会だ。嬉しいなぁ。