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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第五部 ようやく王都シルバースター! 十三章 花の都
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山びこ戦!3



 ふつうに戦って、山びこを倒してから、子鹿を回収すればいいのか?

 きっと、蘭さんやワレスさんなら冷静に判断して、そうするんだろうな。

 でも、僕は子鹿のために自分を犠牲にしようとしてる、心優しい山びこを攻撃するのは忍びない気がしてたまらない。


「山びこ。聞いてくれよ。約束するから。絶対、子鹿を助けるからさ! 山びこだって、ずっとここにいたら、都から軍隊が来て、否応なく倒されるんだよ? それでいいの? 子鹿だって、心ない人に見つかったら、そのまま殺処分されてしまうかもしれないよ? ねえ、お願いだから、僕に任せて!」


 説得しようとするんだけど、近づくたびに、守るが発動する。


 僕は思った。

 この山びこ、ほんとに生きてるんだろうか? 山びこは山の精霊だ。ということは、ここにあった山が切りくずされたとき、その生命を終えてるんじゃないだろうか?

 今ここに現れたのは、子鹿を守りたいっていう一念の、魂の残像のようなものなんじゃないかと。


 僕は何度もかけよっていった。

 でも、そのたびに、はねとばされた。

 僕の攻撃をしてないから、ターンは僕で止まったままだ。守るはターンに関係なく起こる反射行動のようだ。


 うう、頭がクラクラする。

 このままだと、また倒れちゃうな。

 どうしよう?

 どうしたら、わかってもらえるんだろう?


 そうだ。僕に攻撃の意思がないと示さないと。僕がだまし討ちして、子鹿を傷つけると思ってるから、山びこは僕を近づけてくれないんだ。


 僕は精霊王のレプリカ剣をさやに戻した。さらには、さやにおさめた剣と盾をその場に置く。


「かーくん! 何しちょうで? 危ないよ。早に攻撃さんと!」

「いいんだ! 僕に任せて」


 近づいてこようとするアンドーくんをとどめる。どっちみち、アンドーくんはもう攻撃の順番が終わってるから、回避行動しかとれないんだけど。


 僕はゆっくり山びこに近づいていった。


「ほら、山びこ。僕は攻撃しないよ。僕を信用してくれないかな?」


 僕のなかに山びこの記憶が流れこんできた。まだここに山があったころ、たくさんの森の動物たちが元気に、幸せに暮らしていたときの光景が。

 春の花が咲きみだれ、それを食べるイノシシの親子や、新芽をかじるリス、冬眠の巣穴から出てきて、山野をかけめぐるクマ、お母さんのあとをけんめいについてまわる子鹿の姿が、せきを切ったように次々にあふれてくる。


 山びこが彼らをほんとに愛し、慈しんでいたことが、ジンジンとしびれるように伝わった。


 あのころに戻りたいと山びこは泣いていた。


「……ごめん。ほんとに、ごめんよ。僕にはこの場所をそのころのように戻す力はないよ。だけど、君の守ってる小さな命を引き継いで守ることはできる。僕を信じてくれないかな?」


 両手をひろげて、じっと見つめていると、山びこの姿は薄れて消えた。


 信頼してくれたんだね。


 僕は倒れている子鹿を抱きしめた。

 戦闘には勝ったんだろうか?

 でも、むしょうに胸の奥の痛む結末だった。

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