山びこ戦!3
ふつうに戦って、山びこを倒してから、子鹿を回収すればいいのか?
きっと、蘭さんやワレスさんなら冷静に判断して、そうするんだろうな。
でも、僕は子鹿のために自分を犠牲にしようとしてる、心優しい山びこを攻撃するのは忍びない気がしてたまらない。
「山びこ。聞いてくれよ。約束するから。絶対、子鹿を助けるからさ! 山びこだって、ずっとここにいたら、都から軍隊が来て、否応なく倒されるんだよ? それでいいの? 子鹿だって、心ない人に見つかったら、そのまま殺処分されてしまうかもしれないよ? ねえ、お願いだから、僕に任せて!」
説得しようとするんだけど、近づくたびに、守るが発動する。
僕は思った。
この山びこ、ほんとに生きてるんだろうか? 山びこは山の精霊だ。ということは、ここにあった山が切りくずされたとき、その生命を終えてるんじゃないだろうか?
今ここに現れたのは、子鹿を守りたいっていう一念の、魂の残像のようなものなんじゃないかと。
僕は何度もかけよっていった。
でも、そのたびに、はねとばされた。
僕の攻撃をしてないから、ターンは僕で止まったままだ。守るはターンに関係なく起こる反射行動のようだ。
うう、頭がクラクラする。
このままだと、また倒れちゃうな。
どうしよう?
どうしたら、わかってもらえるんだろう?
そうだ。僕に攻撃の意思がないと示さないと。僕がだまし討ちして、子鹿を傷つけると思ってるから、山びこは僕を近づけてくれないんだ。
僕は精霊王のレプリカ剣をさやに戻した。さらには、さやにおさめた剣と盾をその場に置く。
「かーくん! 何しちょうで? 危ないよ。早に攻撃さんと!」
「いいんだ! 僕に任せて」
近づいてこようとするアンドーくんをとどめる。どっちみち、アンドーくんはもう攻撃の順番が終わってるから、回避行動しかとれないんだけど。
僕はゆっくり山びこに近づいていった。
「ほら、山びこ。僕は攻撃しないよ。僕を信用してくれないかな?」
僕のなかに山びこの記憶が流れこんできた。まだここに山があったころ、たくさんの森の動物たちが元気に、幸せに暮らしていたときの光景が。
春の花が咲きみだれ、それを食べるイノシシの親子や、新芽をかじるリス、冬眠の巣穴から出てきて、山野をかけめぐるクマ、お母さんのあとをけんめいについてまわる子鹿の姿が、せきを切ったように次々にあふれてくる。
山びこが彼らをほんとに愛し、慈しんでいたことが、ジンジンとしびれるように伝わった。
あのころに戻りたいと山びこは泣いていた。
「……ごめん。ほんとに、ごめんよ。僕にはこの場所をそのころのように戻す力はないよ。だけど、君の守ってる小さな命を引き継いで守ることはできる。僕を信じてくれないかな?」
両手をひろげて、じっと見つめていると、山びこの姿は薄れて消えた。
信頼してくれたんだね。
僕は倒れている子鹿を抱きしめた。
戦闘には勝ったんだろうか?
でも、むしょうに胸の奥の痛む結末だった。