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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
二章 シルキー城の一夜
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真夜中の冒険



 深夜だ。

 ぐうぐう。ぐうぐうぐう。

 やわらかいベッドは寝心地いいなぁ。

 でも、僕って、この眠りから覚めたら、現実に戻ってるんじゃ?

 ぐうぐうぐう……。


 何者かが僕を呼んだ。



 ——かーくん。かーくんさん。わたしを助けてください。わたしの声はあなたにしか聞こえません。かーくんさん。わたしをどうか……。



「……うーん、誰?」


 目をあけると、目の前に蘭さんが立っていた。

 ああ、よかった。やっぱり現実に戻って…………戻ってない!

 蘭さんはあいかわらず、なんちゃって中世スタイルだ。ただし、ドレスではなくなってる。


「あっ、やっぱり蘭さん、男だったんだね」

「えッ? な、なんでわかったんですか?」


 いや、だって蘭さんだから……。


「えーと、部屋のクローゼットに剣が隠してあったし」

「ああ、なるほど。僕はこの美貌ですから、男だと見抜いた人、今までいなかったので」

「だよね」


 ところで、その男の蘭さんが、真夜中にいったい、どうしたんだろう?

 まさか、よば……あっ、いえ、なんでもありません。健全な子どもたちには聞かせられない言葉。


「さ、かーくんさん。シャケさん。起きてください。逃げますよ」

「逃げる?」

「僕は男だと兄に知れると殺されてしまうんです。だから、今夜のうちに逃げださないと」

「だよねぇ」


 僕は急いで、ベッドをおりて靴をはいた。いつものスニーカーだ。歩きやすくていいんだけど、この世界では防具として認識してくれない。


「ええ? なんやいな? 夜中やで。寝さしてぇな」

「三村くん。そんなこと言ってる場合じゃないよ。行くよ」


 ごねる三村くんに靴をはかせて、旅装をととのえていたときだ。


「こんな夜中に、どこへ行くんだ?」


 むうっ。声だけでカッコイイ……。

 痺れる!

 でも、今は困る。


 かえりみると、戸口にワレスさんが立っていた。



 *


「こんなことではないかと思いましたよ。姫。ミルキー城の姫君はたいそうな美姫だが、美貌に似げなく、とんでもないジャジャ馬だというウワサだったのでね」


 ニヤッと笑うワレスさん。

 ふふふっ。やっぱり僕の創った人だ。

 ちゃんと見抜いてたんだなぁ。

 って、僕はいったい、どっちの味方なんだ?

 ここはやっぱり、蘭さんだよね?

 だとしたら、今の話、聞かれちゃったんだろうか?

 それが問題だ。


「あのぉ、いつから、そこにいたんですか?」と、僕は聞いてみた。


 ワレスさんは答えた。

「姫君が自分の部屋をぬけだすところから、ずっと尾行してきた」

「えーと、つまり、僕たちの話は全部……」

「ああ。聞いたよ。わが王に男の姫を送りこんでくるとは、ブラン王もなかなか、なめたマネをしてくれるじゃないか?」

「…………」


 ど、どうしよう。

 僕は困って、蘭さんを見た。

 蘭さんはため息をついて口をひらく。


「知られてしまったなら、しかたない。腹を割って話そうじゃないか? 僕はこのとおり男だ。しかし、兄はそのことを知らない。兄は単純に政略結婚により同盟国を増やしたいだけ。だが、それはコーマ王だって同じじゃないのか? もしそうなら、僕が男だってことは内密で、形だけ結婚するって手もある。僕は政治には興味ないから、同盟でもなんでも好きにしてくれたらいい。僕とコーマ王はおたがいに利害が一致していると思うが、どうだろう?」


 な、なるほどね。一理ある。

 ところが、ワレスさんは納得してくれない。


「ところが、うちの王様はすこぶるつきのおぼっちゃんでね。世界一の美女が妃になると、たいそうお喜びなんだ。この婚儀を言いわけに、ブラン王がわが国へ侵略してくる心算なのは明らかだ。が、そんなことにも気がつかないほど信じきっているんだよな。これが」


 ああ、なんか、ややこしくなってきたぞ。

 僕のワレスさんは簡単に誰かの騎士なんてしてるようなタマじゃない。なんか変だなぁと思ったら、彼の王様って、コーマ伯爵なのか。僕の小説のなかでワレスさんがお気に入りの城主だ。世間知らずで誰でもすぐに信用してしまうお人よし。こういう人に、ワレスさんは弱い。おれが守ってやらないとって思っちゃうんだよなぁ。


「えーと、つまり……」


 ワレスさんは断言した。


「おれが罪人になるのはかまわない。あなたがたには、ここで死んでもらおう」


 やっぱり!


 ワレスさんはスラリと剣をぬいた。

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