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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
十二章 ノームとの出会い
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ふみだしてみる



「じゃあ、行くよ?」

「……ほんに行くで?」

「い、行こうよ」

「キュイ……」

「ぽよちゃんは僕が抱っこするから!」

「キュイ!」


 僕らは千尋せんじんの谷へと怒涛どとうのごとく流れこむ白滝へと、身をなげだした。

 きっと、なんとかなる!

 今までだって、なんとかなったんだから。

 それがゲーム上必要不可欠なストーリー進行なら、嘘のような奇跡が起こるもんだ——と、信じて。


 楽天家による集団自殺のつどいと化したナイアガラ強行突破作戦!


 ずいぶん長いこと風を切ってる気がするけど、いつまでたっても着水しない。顔にかかるしぶきを感じながら、さすがにこのままじゃ、ほんとに死んじゃうんじゃないか、と僕は不安にさいなまれた。


 死ぬ? 死ぬよね?

 この高さから水面に叩きつけられたら、衝撃で首の骨折るよね? てか、全身骨折? 内臓破裂?

 んん……やっぱりやめとけばよかったかな。まだ死にたくないな……。


 水しぶきのあげる雲のなかに突入した。このさきは上からも見えなかった。どうなってるんだろう? 滝つぼがすごい岩場だったりしたらイヤだなぁ……。


 早く奇跡が起こってくれないと、なんかさっきから失神しそうなんだけど。

 うーん、この落下感。

 苦手だぁ。


 ——と、背後からチッと舌打ちが聞こえた。


 なんだ? 今の。幻聴か?

 ごうごうって滝の音のせいで聞きとりにくいけど、何かがこっちに迫ってるような?

 ビュービューと風がうなる。

 僕の体の落下速度が重力を受けて早まってるだけなのかな?

 んん? やっぱり違う。

 僕以外の何かが風を切る音だ。


 すると、とつぜん、誰かが僕をつかんだ。

 僕がチラリとそっちを見ると、難しい顔をした猛だった。この前のときと同じ黒いマントを着てる。


 ああ、猛だー。兄ちゃんが助けにきてくれたんだー。

 でも、じゃあ、アレはなんなんだろ?

 猛の背中に生えた、コウモリみたいな黒い羽は?



 *



 それはハングライダーで空中を垂直降下するのに近かった。

 それでも、おかげで、どうにかこうにか、ふわふわと風に乗って、僕は無事に滝つぼよこの岩棚に舞いおりた。


 思ってたのと違うけど、いちおう奇跡は起きた。


「猛! ありがとう」

「……ありがとうじゃないだろ? 兄ちゃんが来なかったら死んでたんだからな?」

「そうだけど、来てくれたじゃん。あッ!」

「なんだよ?」


 僕は兄の顔を間近で見て、とうとつに気づいた。


「もしかして、キャラバンが夜営地にいたとき、ピエロに化けて僕のこと見逃してくれた?」

「ああ。そうだよ。可愛い弟がムチャばっかりするから、兄ちゃんは苦労するなぁ」

「その羽、なんなの?」

「知らないよ。こっちの世界に来たら生えてたんだ」


 またまた僕は気づいた。


「あッ! ララバイのときの猛なんだ。僕が小説のなかで、兄ちゃんに羽がある設定にしたから。ウィルスの突然変異で生えたんだぁ」

「おまえのせいか!」

「はい。おまえのせいです」

「まあ、羽は便利だからいいけどさぁ。滝からとびおりるとか、もうするんじゃないぞ? わかったら、兄ちゃんに約束しろ」

「へーい」


 猛はブツブツ言いながら、その羽をひろげて去っていこうとした。


「ちょっと待った!」


 僕はあわてて、猛のマントをつかむ。


「ねぇ、兄ちゃん。兄ちゃんが裏切りのユダだって、ほんと?」

「…………」


 猛は困った顔して、僕を見る。


「ねえねえ、ほんとなの? シルキー城を襲ったの? 見たって人がいるんだけど」


 猛はため息をついた。


「……バレたか」

「ええーッ! じゃあ、ほんとに猛がユダなの? ユダなの? 北斗〇拳のユダはキモかったよー!」

「兄ちゃんだって、好きでやってるわけじゃないよ。この世界に来たら、変な城のなかで、みんながユダ、ユダって呼ぶからさ」

「ええー! なんだよ、それー! 僕といっしょで、ただの旅人でよかっただろー?」

「だから、おれが決めたことじゃないんだよ」

「だからって、お城に攻めこんだりしなくてもいいじゃん!」

「しょうがなかったんだよ。やらないと、おれが殺されるし。いちおう、人が死なないように細心の注意をはらったんだぞ。ところで、今、おまえ、ただの旅人って言ったな?」

「う、うん?」

「おまえが勇者じゃないんだな?」


 あッ。しまった。口がすべった。


「えーと……なんのこと?」

「てことは、あのときいっしょにいた、蘭か鮭児ってことか」

「ダメダメ! 友達なんだからね!」


 抗議する僕を見て、猛は笑った。


「大丈夫だよ。兄ちゃんは裏切りのユダだけど、心まで魔王軍に置いてるわけじゃない」

「そうなの?」

「だって、ちゃんと勇者が勝って、この世界に平和がとりもどされないと、おれたち自分の世界に帰れないだろ?」

「うん。そうだね」

「兄ちゃんが魔王軍の幹部なのは利用できる。もうしばらく、向こうでスパイ活動しとくよ」

「う、うん……気をつけてね。兄ちゃん」

「心配すんなって。兄ちゃんは強いんだからな。かーくんこそ、ムチャばっかりやって、途中でリタイアするんじゃないぞ?」


 猛は手をふって飛びさっていった。


 ああ、よかった。兄ちゃんが悪い魔物じゃなくて。

 けど、次はいつ会えるのかなぁ?

 ぐすん……。

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