滝をめざして
平原を歩いていくと、やっと川に行きあたった。
これで迷わずに滝まで行けるぞ。
川ぞいにお花畑をくだる。
ずいぶん歩いた気がしたけど、そろそろじゃないのかなと考えていると、どこからか変な音が聞こえてきた。変なというか、お腹の底に響くような……あれは、水音か?
「あッ、滝だ。滝が近いんだね」
「ああ……滝かぁ。ついに来たかね。どげすう?」
いちまつの不安をいだきつつ、その場所についた。
水量の増していく川が、とつぜん見えなくなったと思うと、そのさきが崖になっている。
「あれ? 今、ここに人影あったよね?」
「えっ? そげだった?」
アンドーくんは気がつかなかったみたいだ。それとも、僕が夢でも見てたのか? いや、夢だけどってツッコミはもう飽きた。
なんかなぁ。さっき、ここに猛が立ってたような気がするんだよね。
あの黒いフードつきのマント着た、背の高い男……。
猛だったのかなぁ?
猛が裏切りのユダだって、ほんとかなぁ?
気になりすぎて幻でも見たかなぁ?
気をとりなおして、あらためて滝をながめる。地面に這いつくばって、恐る恐る崖下をながめると、想像を超えるものすごい高さだ。滝つぼが見えない。滝の下方は大量にまきあがる水しぶきによって、かすんでいた。雲海のなかに急流が飲みこまれていく。
「うわぁ……確実に死ぬよね?」
「う、うん。死ぬね」
「行くしかないんだよね?」
「それか一生、ノームの村で暮らすがいいか」
「うーん。それも、ちょっと……」
ノームの村でのんびりスローライフしたいけどねぇ。世界の平和を考えると、そうも言ってられないだろう。
じゃあ、結論。
とびこむしかない……。
「とびこむ?」
「ほかにいい方法がああかね?」
「ない……ね」
たまりんが、ゆらゆらしてる。
「たまりんは浮かんでるから、飛んでおりることができるよね?」
ゆらゆら、ゆら〜り。
「だよね。ぽよちゃんを抱っこしていくことできる?」
ゆ……ゆらり?
「あっ、ぽよちゃんはムリなのか。じゃあ、クピピコは?」
ゆらり! ゆらり!
「クピピコは大丈夫なんだね? じゃあ、お願い。クピピコもいっしょにつれていって」
ゆら〜り。
これでなんとか、たまりんとクピピコだけは無事に下まで行ける。
残るは、僕らだ。
三村くんなら得意技が水泳だったから、もしかしたら泳いでいけたのかもしれないけど、僕にはそんな得意技はない。あるのは小銭拾いと小説を書くと、つまみ食いだ。
僕は断言する。
今この場面で役立つ技は何ひとつないと!
「……僕が好きだったロープレでね」
「ロープレってなんだかいね?」
「あ、うん。そこは聞き流して」
「うん」
「塔の最上階でさ。すぐそこに欲しいものが見えてるのに、途中で橋が切れてるところがあったんだ。だけど、信じてふみだすと、そこには見えない橋が続いていた——ここも、それなんだと思う?」
「さあ……」
ふみだすべきか、ふみださざるべきか?
なかなかの究極の選択だよね。