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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
十一章 研究室の秘密
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奇跡よ、起これ!



 ゴーレムの姿は、いつまでもゴーレムのままだった。何分待っても、人に戻るようすはない。


「なんで? なんでだよ? 兄ちゃん! 母ちゃん、もとに戻るんじゃなかったのか!」


 僕はうろたえた。

 なんでなのか、僕自身にもわからない。

 ためらいがちに、アンドーくんが言った。


「もしかして、ナッツのお母さんはモンスターになっとった期間が長すぎたけんだない? サンディアナのときは、みんな、さらわれてから二、三ヶ月の人やつみたいだった」


 そうか。モンスターに化身してる期間が長くなると、それほどモンスターの姿が定着してしまうのか。


「そんなッ! じゃあ、もう、母ちゃんは人間に戻れないの?」


 ナッツの両眼からボロボロと涙がこぼれおちてくる。


「ちょっと待って!」


 僕はスマホをとりだした。

 子どもを泣かしといて、このままになんてできない。こんなときこそ、チート能力だ。ここで役立てないなら、なんのための力なんだ?


 僕はゴーレム戦のいきさつを小説に書いた。

 ゴーレムが倒れたあと、その姿はすぐさま人間に戻った。フェニックスの灰をふりかけると、ナッツのお母さんがまぶたをひらき、起きあがってきた——と、打ちこもうとした。


 だが、そこでスマホの画面にエラーメッセージが浮かびあがる。



 小説を書くのランクが低いため、書きこめない内容があります。



 くそッ! なんでだ! なんで肝心なときに役に立たないんだよ!

 僕のバカ! バカ、バカ、バカッ!


 悔し涙があふれてくる。

 僕の能力では、モンスターを生き返らせることや、ステータスに細工することはできるけど、人間の命を左右することはできないんだ。


 ナッツが声をあげて泣き叫ぶ。

 僕はただ、何度も「ごめん。ごめん」とくりかえすことしかできなかった。


 そのうち、アンドーくんが言いだした。


「……ずっとここにはおれんよ。かわいそうだけど、ここを出ぇか」


 そう。ここはダンジョンのなかで、危険なモンスターもいる。癒しの泉もないから、永遠に戦い続けることができるわけじゃない。


 ナッツはそれでも十分以上、泣いていた。でも、やがて決心したように、木の実の首飾りを僕の手からとりもどした。ゴーレムの巨大な手の平に、そっと置く。


 ——と、どうだろう。

 奇跡が起こった!


 ゴーレムの姿がゆっくりと白くかすみ、そのなかから人の姿が現れてくる。ナッツによく似たソバカスのある髪の長い女の人だ。見た感じはゴーレムになりそうな体格ではない。むしろ、きゃしゃなくらい。変身するモンスターの姿は当人の魂の形らしいから、こう見えて豪快な女性に違いない。


「母ちゃん!」


 きっと、想いの強さが僕のスキル能力を超えていたんだ。

 ナッツの想い。お母さんの想い。


 さっきとは違うあったかい涙が浮かんでくるのを、僕は感じていた。

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