地下の牢獄
僕らは竜兵士の先生を先頭にした幼稚園児よろしく、ピヨピヨとあとについていく。
地下へと続く暗い階段をおりると、そこに牢屋があった。ろうかの両側に鉄格子の扉が何十もつらなっている。
「入れ」
僕らは順番に十人ずつくらいで、牢に入れられていく。
最後尾の僕はろうかを奥まで進んでいって、つきあたりの端っこの牢屋になげこまれた。最後だったせいで、人数が少ない。僕をふくめて、たった二人だ。
牢獄の相方は、まだ七、八歳くらいの少年だ。すごいソバカスくんですな。服もやぶれてるし、薄汚れてて、みなしご感がヒシヒシと伝わってくる。
ドン、ドンと押されて牢屋に入れられて、冷たい石畳の上になげだされた。
もちろん、鉄格子の扉にはカギがかけられた。
ケケケっと笑って、竜兵士は去っていく。
「イテテ。君、大丈夫? ケガはない?」
「ふん。このくらい、ヘッチャラさ」
「勇ましいなぁ。僕は、かーくん。君は?」
「……ナッツ」
ナッツか。香ばしい名前だ。
「兄ちゃん。食いもん持ってない?」
「ごめん。さっき、カバンとりあげられちゃった」
「だよな。チッ。使えねぇヤツ」
うっ。二十歳近く年下の相手に、使えないって言われた。
「ナッツはどこでさらわれたの?」
「さらわれたんじゃねぇよ。デッカいキャラバンだからさ。なんか金目のものないかなと思って忍びこんだら、いつのまにか走りだして、変なとこにつれてこられたんだよ」
「そ、そっか……」
「アイツら、魔物だよな? これから、どうなんの? おれたち、もしかして食われんの?」
うーん。どうなるんだろう。
でも食うためだけなら、わざわざ各地から運んでくるだろうか?
ここにつれてこられたのには、もっと深遠なわけがあるんだと思う。
すると、そこへ、外から足音が近づいてくる。アンドーくんたちかと思ったけど、さっきの竜兵士だ。
「ほれよ」と言って、パンを床の上にザラリとなげてよこしてくる。
どうやら、これが僕らの今夜の食事のようだ。たぶん、ほかの牢屋にも同じものが配られたんだろう。
ナッツがサッと走っていって、パンをかかえた。僕に一個、渡してくるんだけど、受けとったときに、すでにガチガチだと気づいた。
「か、かたい。石だよ。これ。牢屋のなかで出されるパンって、たいてい固いよね。アレってなんでかな? わびしさを表現するためかな?」
「兄ちゃん食わないんなら、オレが食う」
サッと手を伸ばしてきて、ナッツは僕のパンを奪った。まあ、いらないからいいんだけどね。あんなの食べたら歯が折れてしまう。
あーあ。ミャーコポシェットのなかには、非常用のチョコレートとか、お菓子も入ってたのにな。早く現実に帰って、僕の大好きなプリングルスのサワーオニオン味が食いたい。カールのチーズ味でもいい。
すると、そのときだ。
どこからか、猫の鳴き声が聞こえてきた。
「ニャア」
うん? 幻聴か?
今の声は、うちのミャーコのような?
まわりをキョロキョロ見まわした僕は信じられないものを見た。
鉄格子のむこうから、ミャーコの白い顔がのぞいてる。