こんにちは、廃墟
やがて、馬車は止まった。
目的地に到着したようだ。
もしかして、魔王城とかかなぁ?
やだなぁ。
まだレベル20なのに、魔王城のモンスターとなんて戦えない。
「アンドーくんたちは隠れ身で姿を消して。僕はこのまま、ついていってみる。さっきの変なトンネル、もう一回通れるかどうかもわかんないし、ほかに逃げ道があるのか調べてみないと。もしもほんとに殺されそうになったら助けてよ」
「わかった」
小声でゴニョゴニョ話してるところへ、外から足音が近づいてくる。バサリと幌がめくられた。
「囚人ども。出てこい」
あの二足歩行の竜みたいな兵士たちが、剣や槍をかまえて立っていた。
ヤツらに命じられて、一人ずつ外へひっぱりだされる。泣きわめいて抵抗する人もいたけど、竜兵士は容赦なくつれだした。かるく殴っただけで一般人は気を失ってしまう。
僕なら失神はしないだろうけど、今ここで争ってもなんのメリットもない。おとなしく外へ出る。
馬車が停まっているのは、なんともイヤな感じの場所だった。
空がにごって淀んでる。
周囲を森にかこまれた廃墟だ。
森に入る手前は断崖絶壁で、崖のむこうには雲が遥か下方にある。どうやら、ここはものすごい高所のようだ。落ちたら、ひとたまりもない。
この場所がどこにあるのか、地図を見たいけど、竜兵士が何人もいるから、それもできない。
どこなんだろう?
近くに人間の街があれば逃げだすこともできるだろうけど。
「おとなしくついてこい。抵抗すると殺すからな」
竜兵士はキイキイと耳ざわりな声で命令する。
捕らわれた人たちは一列になって、廃墟へむかっていった。
廃墟の入口で、一人ずつ武器や持ちものをとりあげられた。もちろん、僕もだ。
ううっ。僕の旅人の帽子。銀の胸あて。破魔の剣。鋼鉄の靴。
何よりも、ミャーコポシェット!
あのなかにはフェニックスの灰が山ほど入ってるのに。所持金も三十万円はあった。
でも、僕は気づいた。
ゴドバがいない。
どうやらヤツは勇者(僕)が弱いことに安心して、どっか別の場所へ行ってしまったようだ。
ということは、ここにいるのは、この竜兵士たちだけかな?
隊長か何かはいるかもしれないけど、ゴドバがいないのなら、案外、勝機はあるぞ?
*
持ちものを全部とりあげられてしまった。
ミャーコポシェット……あれがないと旅をするのに困るじゃないか。
ほんの十五メートル歩けば金貨何枚も拾うんだよ? ふつうのポッケじゃ、あっというまにパンパンになってしまう! 四次元ポケット必須!
しかし、泣いても笑っても今の僕には、いかんともしがたい。
竜兵士に剣のさきっちょで背中をゴリゴリされて、トボトボと歩いていった。
うーん。廃墟だなぁ。
四階建てかな?
古い時代のなんかの名残だ。まあ、お城か砦なんだろうな。
レンガ造りの茶色い建物は上部の壁がくずれてる。
迫力……。
お、オバケは住みついてないよね?
僕らは全員、ゾロゾロと廃墟のなかへ入っていく。入るとすぐに広いホールになっていた。昔は立派な建物だったんだろうけど、今はクモの巣が飾りになっている。
僕は最後尾なんだけど、見ると、アンドーくんやぽよちゃんたちが、まだなかに入ってないのに、竜兵士たちは玄関の巨大な両扉を閉めようとしていた。
まあ、竜兵士にはアンドーくんたちの姿、見えてないしね。見えてても、ただでは入れてくれないだろうけど。ボコるか捕虜にするかだ。
僕はあわてた。
とっさに叫んだ。
「す、すみません! あの、トイレはどっちですかっ?」
「はぁ? なに言ってるんだ、おまえ」
「だから、トイレですよ。どこにあるか知っときたいんですけど。僕、緊張すると、お腹ゆるくなるタイプなんですよね!」
「バカなこと言ってないで、さっさと歩け!」
僕はゴツンと頭を竜の手でこづかれる。さらにはモンスターに、緊張に弱い下痢ピー男だと思われた。
い、いいんだもんね。
モンスターになんと思われたって、恥ずかしくなんかないんだもんね……。
僕が時間かせぎしたおかげで、アンドーくんや、ぽよちゃんや、たまりんも廃墟のなかへ入ることができた。
そして、みんなが入ったあと、玄関ホールの扉は閉ざされた。重く固い鉄の扉だ。
ガチャリとカギのかけられる音が響きわたる。
これでもう、玄関からは出られない……。