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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第四部 囚われのかーくん 十章 悪夢の廃墟
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ぼっちになってしまった



 ガラガラと車輪のまわる音。

 ゆれる馬車。

 僕は今、なわで縛られ、怪しいキャラバンの幌馬車に乗せられている。


 まあ、こうなることはわかっていたさ。


「僕が勇者だ。ゴドバ、きさまは僕が倒す!」


 いやぁ。声がふるえないようにするのに苦労したなぁ。


 勝負は一瞬だった。

 馬車の前にとびだした僕を、ゴドバは目にも止まらぬ速技で倒した。

 今でも何が起こったのかわからない。

 痛いッと思ったときにはもう、僕は気が遠くなっていた。

 ゴドバの笑い声と嘲るような言葉が薄れゆく意識のなかに、ぼんやりと入りこんだ。


「これが勇者の力か。わしを倒すなど百万年早いわい」


 ハハハハハハ——という高笑いを聞きながら、僕はただ、蘭さんが僕の意図を察して逃げだしてくれることを望んでいた。


 で、今。

 僕は一人、魔物たちの馬車のなかだ。

 どうやら蘭さんたちは、うまいこと逃げだしたようだ。

 よかった。いちおう僕の思惑どおり。

 気絶したけど、ものすごい重傷を負ってるってわけでもないし。


 それにしても、どこへつれていかれるのかなぁ。

 馬車のなかだってことはすぐにわかったんだけど、幌が目隠しになって外の景色が見えないんだよな。


 こう退屈だといらないことを考えてしまう。



 ——裏切りのユダは黒いフードつきのマントをかぶってた。黒金装備で黒髪の人間の男だ。



 ああ……兄ちゃん。

 兄ちゃんが裏切りのユダ?

 魔王の四天王?


 そんなわけあるはずないじゃないかと思いつつ、気になる。

 そういえば、猛のようす、変だったよなぁ。

 いっしょに旅ができないとか、それに勇者の話が出たとき、すごく深刻な顔してたし、別れぎわのときも妙なこと言ってた。どんなことがあっても兄ちゃんはかーくんの味方だ、とかなんとか。


 うーん。認めたくないけど、猛が裏切りのユダだとしたら、いろいろ納得がいく。


 シルキー城に到着する前、洞くつのなかで猛を見かけたのも、お城を襲撃する前に行軍してたんだと言える。あのとき、まわりには強そうなモンスターがいっぱいいた。


 アナコンダ戦で僕を助けてくれたときには、まるでアナコンダが恐怖にすくみあがったように硬直した。あれは魔王の側近だと、本能で悟ったからなのかも。


 夜になるとどっかに行ってたしね。

 マーダー神殿のなかに一度も入ってないんじゃないのかな?

 シルキー城の生き残りとかが神殿にいたら困ると思ったから、とかね。


 そんなふうに考えると、いちいち全部がほんとらしく思えてくるんだよね。

 トーマスはユダの髪が巻き毛だったと言ってたし。猛の天然ラーメン髪は西洋風に言えば巻き毛かもしれない。


 ゴドバが僕を勇者だと勘違いしたのも、そのせいなんじゃないかな?

 だって、僕はあのとき、“誰”が勇者なのか言わなかった。

 あの話の流れだと、僕が勇者だと猛は思ったんじゃないの?


 気が重いなぁ。

 このまま連行されてくと、勇者として処刑されちゃうかもしれないし、兄は四天王だし、不幸のダブルパンチ!

 どっかで逃げだせないかなぁ?


 そんなことを考えていると、馬車の外から何かがとびこんできた。



 *



 僕はあるていど、この夢のなかでの死を覚悟していた。

 どうせ死んでも現実に戻されるだけだと、たかをくくっていた。


 誰の助けも期待してなかったし、あとはもう蘭さんが勇者として成長して、この世界をハッピーエンドに導いてくれることを陰ながら願うしかないと思っていた。


 とつぜん、馬車が止まった。数分間、その場で停止している。


 ちなみに幌馬車のなかには各地からさらわれてきた人たちが乗せられていた。

 サンディアナが襲撃されたときに捕まったんだろうか。

 サンディアナ以外の場所から誘拐された人もいるようだ。民族衣装みたいなものを着てる。


 そのごちゃごちゃの馬車のなかに、とつぜん幌をめくって、もぐりこんできた何者かがあった。

 それはまっすぐ僕のほうへとびついてくる。


「キュイキュイ」

「あっ、ぽよちゃんっ?」

「キュイ〜キュイ〜」


 な、なんと、ぽよちゃんが僕を追ってきてくれた。

 いや、ぽよちゃんだけじゃない。

 続いて、ふわふわとたまりんが、そして、アンドーくんが忍者みたいに忍びこんでくる。クピピコもいる。


「あっ、アンドーくん……」

「隠れ身でつけてきたよ。早やに逃げぇか。ロランたちは先に逃げだしたけん。もう大丈夫だよ」

「あ……ありがとう……」


 仲間っていいなぁ。

 ほんの数時間のあいだだけど、ひとりぼっちはさみしかった。


 アンドーくんは手早く、僕を縛るなわをほどいてくれた。

 これで自由だ。

 なんとかスキを見て逃げだそう。

 ほかの人たちも助けたいけど、今すぐにはムリだ。

 ゴドバさえいなければ、なんとかできたのに……。


「かーくん。逃げぇよ?」

「うん」


 幌をめくって外をのぞいてみた僕はギョッとした。


「あ、アンドーくん……」

「どげした?」

「こ、この馬車……」

「うん?」

「浮いてる……」

「ええっ?」


 馬車が空を飛んでる。

 空っていうか、魔法でできた変な空間みたいだ。

 黒っぽいうねるような虚空を、なんの支えるものもなくガラガラと進んでいく。


「何ここ?」

「さっき、わやつが馬車に入るまでは、ふつうの街道だったよ? まだボイクド国の領内だった」


 たぶん、空間のトンネルみたいなものだと、僕はふんだ。

 これじゃ逃げだせないじゃないか。

 ぐすん……。

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