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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
九章 サンディアナを守れ!
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クピピコの活躍



 僕はクピピコを手の平に乗せて、飾り格子のすきままで持ちあげた。

 クピピコは十センチの体を丸めて、そのすきまから室内へ入りこむ。格子をつたってカギのところまでおりていく。


 窓のカギは掛け金式だ。金具をフックにかける一番シンプルなやつ。

 だから室内側からなら、誰にでもあけられるんだけど——


 ただね。僕は考慮に入れてなかったね。クピピコの腕力を。


 クピピコは格子を足場にして、カギのところまで行くと、両腕で掛け金の突起部分をかかえて、思いっきり持ちあげようとする。うーん、うーんとうなる小さな声がガラス越しに聞こえた。

 だが、ビクともしない。


 いったい誰だ? こんな頑丈な掛け金とりつけたヤツ。身長十センチの戦士には掛け金部分が、すでに自分の丈とほぼ変わらないんだぞ? もっと小人をいたわってくれ。


 クピピコは持ちあげるのが不可能だと知ると、掛け金の反対側にぶらさがり、自分の全体重をかけて、回転させようとした。勢いつけて掛け金の端っこに飛びのると、やっと少し掛け金が浮きあがる。掛け金はさびて固くなっているようで、持ちあがったまま動かない。


 だけど、そのせいで、クピピコは勢いあまって、出窓の天板に落っこちてしまった。そこには鉢植えが飾ってあった。小さい鉢が倒れて大きな音を立てる。


 ダダダッとかけよってくる足音がドアの外まで近づいてきた。

 僕はぽよちゃんをかかえて、あわてて防火水槽のところまで逃げていく。

 室内に二足歩行の服を着た竜みたいなのが二体、入ってくるのが見えた。まだ戦ったことないモンスターだけど、あれもそうとう強そうだ。たぶん、終盤に近いころに戦うことになるモンスター。


 室内をウロウロしたものの、クピピコは小さすぎるんで、彼らは気がつかなかった。首をかしげながら部屋から出ていく。


 よ、よかった。見つかってたら抹殺されてたよ!


 ほっと息をついて、僕は窓のところまで戻っていった。たまりんもフワフワついてくる。


 窓のなかでは、クピピコが顔を真っ赤にして掛け金を持ちあげようと頑張っていた。

 ごめんね。僕に代わってあげられるなら、いくらでもそうするんだけど。

 だけど、さしも固い大岩のようなカギも、クピピコの奮闘ふんとうの前に、ちょっとずつ屈していった。


 そして、ようやく、掛け金が直角に持ちあがる。そこまで行けば、窓をあけることができる。


 よくやった! クピピコ。君は英雄だ!



 *



 窓は両扉だ。

 そう。引き戸ではなく、まんなかでパカンとひらくやつ。だから、掛け金が半分あがれば、窓はあけられるってわけだ。


 僕は音を立てないように細心の注意をはらって、そうっと窓をあけた。猛や三村くんやアンドーくんでは厳しいかもだけど、なんとか僕くらいのサイズなら窓から出入りができる。


 誰も見まわりに来ませんように。


 神様に祈ってから、僕はトーマスの寝室に忍びこむ。窓辺の鉢を壊さないように外へ出してから、出窓に腰かけるようにして、なかへ入っていった。

 ぽよちゃんと、たまりんもついてくる。


 トーマスの枕元に立った。

 外から見たより容体の悪化が、ハッキリ確認できた。息をしているように見えない。僕は大急ぎでミャーコポシェットからホワイトドラゴンのウロコをとりだした。


 えーと。とりだしたのはいいけど、これをどうしたらいいんだろう?

 フェニックスの羽は体をなでたらよかったんだよな。ちょっとやってみようかな。


 僕はホワイトドラゴンのウロコをトーマスの胸の傷の上に置いた。ホワイトドラゴンのウロコは真珠質の澄んだガラスのようだ。


 けど、そのウロコをトーマスの胸に置いたとたんだ。

 ホワイトパールのように輝いていた鱗片りんぺんが、みるみる黒ずんでいく。半紙に墨汁がしみていくように、見るからに毒々しい黒カビのような色が点々と浮きだす。それはほんの数分でウロコ全体に広がり、さらに濃縮されたような漆黒に染まった。


 もうこれ以上は黒くならないだろうと思えたとき、ホワイトドラゴンのウロコは役目を終えたかのように、パリンと儚い音をあげて割れた。そのまま霧となって消えてしまった。


 トーマスの顔色は格段によくなっている。血色がもどり、胸が力強く上下する。トーマスをむしばんでいた竜毒は浄化された。あとは純粋に傷の経過と体力か。


 僕は「もっと元気になれ〜」と笑顔でささやいた。魔法ってスゴイな。あれだけ深くえぐれていた傷が、またたくまにふさがれていく。


 ぽかりと、トーマスが目をあけた。

「……あれ? おれ、どうしたんだっけ? えーと、ん? かーくんさん?」


 気づいてくれたのは嬉しいんだけど、トーマスは自分の置かれた状況を理解してない。


「あーれ? おれ、なんで実家に帰ってるんだっけ? お城は? シルキー城」


 声が大きいんだよぉ。

 あわてて、僕は事情を説明しようとするんだけど、その前にトーマスは自分がケガをしたときのことを思いだした。


「ああーッ! そうだ。城が! シルキー城が魔物の軍団に襲われて——たいへんだ! 早く王家のかたがたを助けに行かないと!」


 わあッ、叫んじゃったよ。

 ど、どうしよう。

 ヤツが——ゴードンが来る!

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