一夜あけて
逆襲というより、もともと、それがヤツらの計画だったんだろうと思う。
ヤツらはこうやってサーカスのふりをして入りこみ、いくつもの街や村を襲撃してきたのだ。
翌朝——
そんなこととは知らない僕らは、昨夜の活躍を思いだしたながら浮かれていた。
「やっぱり、ロランがいないと火力が不足するね。僕がもっとガツンと攻められるようになればいいんだけど」
「でも、スゴイですよ。僕らが寝てるうちに事件を解決してしまうんですから」
「解決と言っても、さらわれてた子どもたちをつれだしただけで、キャラバンの魔物たちを退治したわけじゃないからね。根本的な解決になってないよ。まだまだ勝てる相手じゃない感じがしたんだ。このまま、よそに行ってくれるといいんだけど」
そんな話をしながら、僕らは朝食をすました。今日はトーマスのお見舞いに行く予定だ。
「わは残ります。トーマスさんのことは、よう知らんし」
「じゃあ、アンドーさん。わたしをギルドに案内してください。わたしも登録してみたいので」
「わかぁました」
いいなぁ。アンドーくん。スズランちゃんといっしょか。
あっ、かーくん。トーマスにはお世話になったよね? 女の子とデートとか羨ましがっちゃダメだぞ?
なので、トーマスの実家には、僕と蘭さんと三村くん、それにぽよちゃんで行くことになった。ぽよちゃんはいつも僕といっしょ。クマりんと、たまりんはお留守番だ。
「じゃあ、行ってくるね。スズラン」
「はい。お兄さま」
ひと足さきに僕らは街路へと出ていった。
「それにしても、子どもはもっと遠くの街でもさらわれたはずなんだよなぁ。馬車のなかには、昨日、この街で行方不明になった子しかいなかったけど。みんな、どこへつれていかれたんだろう?」
「そうですね。心配です」
「コビットの女の子も助けられたからよかったんだけど……」
コビットたちをどうやって村へ帰すべきか。彼らだけで、あのモンスターだらけの山道を歩かせるのは気がひける。せめてコビット村の近くまで送り届けてあげたいもんだ。
とりあえず、鳥かごはペンチを買ってきて壊した。
ギルドの近くまで来ると、裏道に入り、石畳をふんでいく。
「あっ、あれがトーマスの家だね」
トーマス、無事かなぁ?
*
トーマスの実家へやってきた。
街路から近づいていくとき、すでに暗い感じはしていた。死の匂いというか。気配というか。
「こんにちは。トーマスさんのご自宅ですか? 以前、シルキー城でお世話になった者です」
トーマスのお母さんに迎え入れられて、僕らは家のなかに入った。広くも狭くもない室内。暖炉の上には少年のころのトーマスと家族の肖像画が飾られている。
「どうぞ。こっちです」
トーマスにちょっと似たお母さんが寝室に案内してくれた。
トーマスはドラゴンにやられたのか、胸がえぐれて深く三本のツメ跡がついている。顔色が死人のように土気色だ。息はあるものの、それもひどく浅い。
「竜毒にやられているのだそうです。お医者さまが言うには、竜の岬の洞穴に住む、ホワイトドラゴンのウロコがあれば助かると……」
むむー。それは行かねばなりますまい。
かーくん、行っちゃうよ? ホワイトドラゴンなんか、ちょちょいと倒し……倒せるかなぁ。
なまじっか、シルキー城でのワレスさんの戦いぶりを見てるからな。あれこそまさに戦神の戦い。
僕はまだまだ、あそこの域まで到達してない。そもそもレベルが半分以下だ。ワレスさん、レベル47って言ってたもんな。
でも、われらが勇者蘭さんは恐れげもなく言った。
「行きましょう。竜の岬へ」
「だよね」
「そやなぁ」
僕らはトーマスのお母さんに竜の岬の場所を聞いた。
「ここから北へ行くと海につきあたります。北西の方角に岬があり、そこの突端に洞穴があります。洞穴の奥深くには、ホワイトドラゴンが住んでいるのです」
「わかりました。行ってみます」
ああ、いよいよドラゴン退治かぁ。
緊張するなぁ。
まだレベル20だけど、大丈夫かなぁ?