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東堂兄弟の冒険録〜悪のヤドリギ編〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
八章 キャラバン夜営地の森
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ふりむかないで



 僕らは、じっと息をころして押しだまった。

 やっぱり帰ってきたのはピエロだ。派手な赤地に白の水玉模様の服が見える。

 うーん。困った。せっちんづめになってしまったぞ。

 今どき、せっちんって言ってもなんのことか十代の子なんかわからないだろうな。


 すると、子どもの一人が言った。

「こっちにほつれがあるよ」

「えっ? どこ?」


 子どもにつれられていくと、馬車の前方にほろ布のやぶれた部分がある。ぬいめがザックリほつれていて、小柄な人間なら通ることができる。


「みんな、さきに外に出て待ってて」


 僕は子どもたちをさきに逃がした。

 そして、出入り口のピエロのほうをチラチラとながめていると、ふと気づいた。

 ピエロのすぐ近くに、小さな鳥かごがある。幌を支える骨組みの天井部分からつりさげられていた。そのなかに、コビットの女の子が捕まっている。


 あちゃー。なんで、よりによって、あんなところに——と思うのだが、これは見すてていけないだろう。もしも子どもたちが逃げたと知ったとき、怒り狂ったピエロやゴードンが、腹いせにコビットにヒドイまねをしないともかぎらない。


 しょうがない。行こう。

 大丈夫。僕は幸運度マックス近いんだから。きっと、ピエロには悟られない。


 一大決心し、そろそろと歩いていく。

 どうか。どうか。

 ピエロさん、そのまま前を向いててね。僕のことなんか空気だと思って。


 もうちょい。もうちょい。

 よし。気づかれてないぞ。

 鳥かごに手が届いた。

 でも、なんと! 扉にカギがかかってる!

 うーん。これは鳥かごごといただいていくか。


 僕が鳥かごを骨組みにむすんでいるロープをほどくために、悪戦苦闘してたときだ。


 くるりとピエロがふりかえった。

 ピエロの目が、まっすぐ僕を見つめた。


 ああ……僕の人生、ここまでか?



 *



 ピエロの目が僕を見る。

 僕もピエロを見る。


 お、襲ってくるかな?

 それとも仲間を呼ぶのかな?


 ドキドキ。ドキドキ。


 ところが、ピエロは無反応。

 というか、ちょっと今、笑ったぞ?

 変だな。

 襲ってくる気配がない。


 僕は急いでロープをほどく。

 固いなぁ。誰だよ、こんなにギッチリしばったヤツ。

 よいしょ。なんとか、ほどけた。


 まだ見てるなぁ。ピエロ。

 いいのかな?

 このままコビットちゃん、貰っていこう。


 それにしても、ピエロの顔に見覚えがあるような?

 いや、まさかねぇ。こんな魔物の集団のなかに知りあいがいるはずがない。

 いや、もしかして池野くん?

 違うな。池野くんはもっと小柄だ。僕より背も低かった。


 じゃあ、誰だろう?

 誰かに似てるんだよなぁ。

 真っ白い顔と大きな赤い鼻のせいでサッパリわかんないんだけど。


 ピエロはじっとこっちを見てるけど、まだ動かない。

 ありがたや。

 僕は鳥かごをかかえて前方の幌のやぶれめまで戻る。ぽよちゃんと、たまりんがそこで待ってた。


 うーん。ピエロ、謎の男だ。

 おかげで助かったんだけどね。


 外に出たところでアンドーくんや子どもたちと合流した。

 僕らはアンドーくんの隠れ身の術で、キャラバンから遠ざかっていった。

 あの作り物のイバラのところまで帰ってくる。


「よ、よかった……もう終わったと思った」

「おかしげなヤツだったね。なんで襲ってこらんだっただぁか?」

「なんでだろう」


 気になるなぁ。

 絶対、僕の知ってる誰かだったんだよね。

 もしかして、また僕の小説に出てくる登場人物の誰かだろうか?


 なんにせよ助かった。

 子どもがいるんで、旅人のドアノブで森を脱出し、どうにかこうにか僕らはサンディアナの街まで帰っていった。


 ギルドに子どもたちをつれ帰ると、初めての任務は終了。

 わが子が戻ってきた親たちは泣いて喜んでいた。


 やあ、気持ちいいなと思ってたんだけど、このせいでキャラバンの逆襲が始まるなんて、このときは思ってもいなかった……。

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