あれがウワサのピエロ
「ああ、もう。全滅するかと思ったよ。ヤバかった」
「やっぱりモンスターは油断すうといけんね」
「フェニックスの灰も山ほど貰っといて、ほんとラッキーだった」
「キュイ〜」
倒れたときのショックのせいか、ぽよちゃんが起きてきた。通常攻撃で敵モンスターをワンパンしてくれる勇ましい仲間が戦闘可能になった。これでもう安心だ。
「たまりん、ありがとねぇ。たまりんのおかげで全滅回避できたよ。やっぱり、もしものときに頼れるねぇ」
ゆら〜りと、たまりんもなんだか嬉しそう。
だいぶ見なれてきたせいか、感情の変化が少しわかってきたような気がする。人魂語も解するかーくん。
迷路の森の最奥部に、光が見えてきた。夜営のたき火のようだ。ちらちらと星のようにまたたいている。
アンドーくんが声を押しころす。
「ここからは、わの忍び足で行かや。モンスターに出会わんですむけん」
「そうなんだ。隠れ身も使ええけど、長時間はムリだけん。キャラバンが見えてからにすうか」
「わかった」
ところで、アンドーくんの出雲弁、全国の皆さんにどれだけ通じてるんだろうか? 僕はわかるけどね。あらためて、ちょっと心配になる。
僕らは忍び足効果で足音を消して、明かりに近づいていった。
思ったとおり、たき火だ。
たき火を手前にして、三台の馬車がその奥に並んでいる。
たき火のまわりに人影はなかった。
みんな寝てしまってるんだろうか?
不用心だな。
森のモンスターや獣が近づいてくるかもしれないのに。それに、火事になるとか考えてもみないのか?
ほんとの人間のキャラバンなら、絶対に見張りを立てている。それがいないことが、彼らが魔物の集団なんだと暗に匂わせているようだった。
アンドーくんの目が、「隠れ身にすうよ?」と告げている。
僕はうなずいた。
僕らの姿はこれで一時的に周囲から見えなくなるようだ。
馬車のなかを一台ずつ、のぞきこんでいく。最初の馬車にはモンスターたちがいた。芸を仕込まれた調教されたモンスターだと言うけど、ほんとかなぁ?
さらわれた人間の子どもや、コビット族っぽい姿は見あたらない。
二台めには……おっと、怖い。怖い。ウワサの座長だと、ひとめでわかる男が寝ている。大きないびきをかいているその顔を見て、僕はギョッとした。
まちがいない!
コイツら、魔物だ。
座長のゴードンは眠っているせいか人間の化身が解けかけている。
頭に大きなツノがあり、皮膚が青い。
見た感じ、二本ヅノの青鬼そのものだ。
僕らは息を呑んで目くばせをかわすと、次の馬車のほうへ歩いていった。
が、その前には誰かが座っている。
ヤバイぞ。ピエロだ!
*
ピエロは道化師の衣装のまま、顔もまだ化粧をしてる。
こんな夜中なのに、なんでそんなカッコしてるんだ?
まあ、魔物の思考法なんてわかんないんだけどさ。
妙に黄昏てる感じのピエロ。
うーん。ジャマだなぁ。
そこにいられると、馬車のなかが見れない。
でも、ここでピエロと戦闘になるのは得策じゃない。物音を聞きつけて、さっきのゴードンがやってくる。ゴードンはものすごい強い魔物だ。とても僕らの勝てる相手じゃないと、もう見ただけでわかった。力量の違いをヒシヒシと肌で感じたね。そのくらいには、僕も強くなったってことだ。
てことは、ここはコッソリと忍びこんで、子どもとコビットちゃんを救って逃げださないといけないんだ。
「……わが囮になぁわ」と、アンドーくんがささやいた。
「わなら、途中で隠れ身で姿消すことができぃけん」
「う、うん……」
でも、そうなると、その間、僕らは姿が丸見えに……。
怖いんですけど。
とは言え、ほかに方法がないか。
僕は不承不承、うなずいた。
アンドーくんが少し離れた場所まで移動していった。そこで隠れ身をといたんだろう。とつぜん、たき火の光のなかにシルエットが浮きあがる。
「誰だ?」
ピエロが気づいて歩いていった。
い、今のうちだ。
僕はひっそりと、こっそりと馬車に近づいて、なかをのぞいた。子どもがいる。きっちり五人だ。ロープでしばられてる。みんなビクビクして寝られないでいた。泣いてる子もいる。
「しいッ」と僕は口に人差し指をあてると、子どもたちのロープを切っていった。破魔の剣でロープ、切りにくいなぁ。子どもをケガさせたら大変だし。と言って、アンドーくん倒したときに得たポイズンダガーでは、毒状態になってしまう危険がある。
変に気をつかって、もたついてしまった。ようやく全員のロープを切って、さあ次はコビットの女の子だと思ったとき、舌打ちをつきながら馬車の外に足音が近づいてきた。
ドッキーン!
ぴ……ピエロが帰ってきたのか?
どうしょうッ?