第26話 プレゼント
回転寿司から帰った俺が部屋のベッドの上でゴロゴロしていると、突然通知音とともに机の上に置いてあったスマホが振動する。
「えっと……恵美からか」
スマホの画面を確認するとメッセージは恵美から送られてきていた。
「明日ショッピングに付き合って欲しいか……特に予定も無いから行けるって返信しておこう」
そう返信するとすぐに既読となり、恵美からかメッセージが返ってくる。
「もし良かったら夏海ちゃんも一緒に連れてきて欲しいって書いてあるし、本人に聞いてみるか」
自分の部屋を出て夏海ちゃんを探し始めると、リビングで漢字の勉強をしている姿が目に入ってきた。
夏海ちゃんは俺の姿に気付くと立ち上がり、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「あっ、パパ。見て見て、自分の名前を漢字で書けるようになったよ」
笑顔の夏海ちゃんから見せられたノートの中には”水瀬夏海”と綺麗な字で書かれていた。
小学校では習わない”瀬”という漢字を覚えるのにかなり苦戦していた夏海ちゃんだったが、ついに暗記したようだ。
「おめでとう、良かったな」
「うん、漢字覚えるの楽しくなってきたからもっと頑張るよ」
夏海ちゃんを褒めると、得意げな顔になってそう答えてくれた。
「それより、恵美からショッピングに誘われたんだけど一緒に行くか?」
「行きたい」
「オッケー、じゃあ恵美に伝えておくよ」
俺は夏海ちゃんの行きたいという言葉を聞いた俺はすぐさま恵美にメッセージを送る。
こうして明日は恵美と夏海ちゃんの3人でショッピングへ行く事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「和人君、夏海ちゃん、おはよう」
「恵美お姉ちゃん、おはよう」
「おはよう、恵美」
11時ごろ駅の改札前で恵美と合流した俺達は、早速電車に乗って目的地へと移動し始める。
休日という事で電車内はかなり混雑していたため、俺達ははぐれないように皆んなで手を繋いでいた。
ちなみにこれから行く目的地は以前猫カフェに行った時と同じショッピングモールのため、3人で行くのは2回目だ。
「着いたらちょうどお昼ぐらいになるし、まずはお昼ご飯から食べようよ」
「そうだな、そうしよう」
「夏海、ハンバーグが食べたいな」
昼食に何を食べるか3人で話しているうちに電車が目的の駅へと到着したため、俺達は降りてショッピングモールへと向かって歩き始める。
ショッピングモールは駅の目の前にあり、すでに入り口が見える距離にあるため歩いてすぐだ。
「ところで恵美は何を買うつもりなんだ?」
「実は特に何か買いたいっていうのは無いんだよね。和人君と夏海ちゃんと一緒にモールの中をぶらぶらして、もし欲しい物があったら買うって感じで考えてるから」
「なるほどな」
そしてすぐにショッピングモールに到着した俺達は昼食を食べるためにレストラン街へと向かう。
電車の中で話し合った結果、みんな洋食が食べたいという意見で一致していたため、店選びにはそんなに時間がかからなかった。
お洒落な洋食レストランに入った俺達はメニューを見てそれぞれ食べたい物を注文する。
「和人君はこの間受けた記述模試の結果はどうだったの?」
「やっぱり文系科目と比べて理系科目の点数が低かったよ。でも恵美に勉強を教えてもらった数IIBと化学基礎は前より偏差値上がってた」
「良かったね。私も頑張って教えた甲斐があったよ」
俺達がしばらく2人で模試の話していると完全に蚊帳の外にいた夏海ちゃんが少しつまらなさそうな顔でこちらを見ている事に気付く。
多分俺達が夏海ちゃんの相手をせず2人でずっと模試の話していたのがいけなかったのだろう。
そのため俺は夏海ちゃんが会話に入ってこられそうな話題を切り出す。
「そう言えば夏海ちゃん、ついに自分の名前を漢字で書けるようになったんだよな」
「夏海ちゃん凄いね。瀬って漢字は確か中学生で習った記憶があるから、よく頑張ったと思う」
「うん、そうなの。恵美お姉ちゃんの言う通り瀬って漢字が難しかったんだけど、夏海頑張って覚えたよ」
夏海ちゃんはさっきの少し不機嫌そうな顔から一転して満面の笑みで話し始めた。
年の割にしっかりしているところのある夏海ちゃんだが、こういうところを見るとまだまだ子供なんだなと実感させられる。
そんな事を考えていると俺達が注文したハンバーグ定食2つとお子様ランチがテーブルに運ばれてきた。
「じゃあ、いただきます」
俺達はみんなで仲良く雑談しながら料理を食べ始める。
それから数十分かけて料理を完食し、会計を済ませた俺達はショッピングモール内を回り出す。
服屋で一緒に服を見たり、アクセサリーショップに寄ってネックレスやイヤリングを探したり、100円ショップで何か面白そうなアイテムが無いか探したりと、3人でショッピングモール内をあちこち歩き回った。
少し休憩してからインテリア用品店に入った俺達だったが、夏海ちゃんがエプロンの前で立ち止まって興味深そうに眺め始める。
そんな夏海ちゃんの様子に気づいた恵美がゆっくりと口を開く。
「夏海ちゃん、もしかしてエプロンが欲しいの?」
「……うん、今使ってるエプロンが古いから新しいのが欲しいなって思ったの」
確かに今夏海ちゃんが使っているものは、凛花が小さい頃使っていたお古なので結構ボロボロだ。
「どのエプロンが欲しいんだ?」
「えっとね、この猫ちゃんのやつがいいな」
そう聞くと夏海ちゃんは猫がプリントされた子供用のエプロンを指差す。
「じゃあ私が夏美ちゃんに買ってあげる。恵美お姉ちゃんからのプレゼントだよ」
「やったー、ありがとう」
「恵美、本当にいいのか?」
別に高いものでもないが、恵美にお金を出してもらう事に罪悪感を感じた俺はそう確認した。
「いいんだよ。今日夏海ちゃんを誘ったのは私なんだからそのお礼だから」
「分かった。なら俺からもお礼を言わせてくれ、ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ夏海ちゃん、一緒に買いに行こうか」
「うん、行こう」
恵美と夏海ちゃんは2人で並んで仲良くレジへと向かい始める。
そんな2人の微笑ましい様子を俺は後ろからニコニコしながら見守っていた。




