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第18話 花火大会①

 夏休みもいよいよ後半となり、進学校特有の補習の時期が迫ってきた頃、俺は夏海ちゃんと恵美、西条先輩の4人で花火大会へ行く事になった。

 本当は凛花とも一緒に行きたかったのだが、タイミングが悪い事に花火大会の日が部活の合宿と被っているため行けないようだ。


「じゃあ夏海ちゃん、行こうか」


「うん」


 浴衣に着替えた俺達は家を出て2人で仲良く家の近くの駅へと向かい始める。

 ちなみに俺は浴衣を着る気は無かったのだが、恵美と西条先輩が着てこいとうるさかったので渋々着る事にしたのだ。

 しばらく歩いて駅に到着すると浴衣姿の男女の姿がちらほらと目に入ってきた。

 恐らく俺達と同じで彼らもこれから花火大会に行くのだろう。

 そんな事を考えながら夏海ちゃんの手を引いて歩いていると、集合場所である改札前にスマホの画面と睨めっこしている背の高い黒髪ロングな女性の姿が目に入ってきた。


「あっ、西条先輩。こんばんは」


「こんばんは、美菜お姉ちゃん」


「おお、水瀬と夏海ちゃんじゃないか。ちょうど今着いたから水瀬のスマホにメッセージを送ろうと思ってたんだ」


 俺達の姿を見るや否や、西条先輩は嬉しそうにこちらへ近づいてくる。


「そうだったんですね、ちょうど俺達も今来たところです。それより浴衣めちゃくちゃ似合ってますね、綺麗ですよ」


 紺色の浴衣を着ている西条先輩だったが、スタイルの良さもあってめちゃくちゃ似合っていた。

 俺がそう素直な感想を述べると西条先輩は顔を真っ赤にして俺に詰め寄ってくる。


「と、突然何を言うんだ!?」


「ご、ごめんなさい。あまりにも似合ってたからつい……」


「ま、また不意打ちでそんな事を言うのか」


 怒らせてしまったと思い慌ててそう弁明する俺だったが、西条先輩の顔色は元に戻るどころか一層赤くなった。

 俺達2人がそんなやり取りをしていると、それを側で見ていた夏海ちゃんが不思議そうな表情で口を開く。


「美菜お姉ちゃん、顔真っ赤になってるよ。どうしたの?」


 そんな夏海ちゃんの無邪気な言葉を聞いて西条先輩はハッとした表情となり俺から離れる。


「すまない、ちょっと取り乱してしまった。もう大丈夫だ」


 ちょっとどころでは無かった気はするがそれを指摘する勇気は無かったのでスルーした。


「……そう言えば恵美がまだ来てないですね。もうそろそろ約束の時間ですけど」


「本当だな。遅刻するなら連絡くらいしてきそうなものだが……」


 恵美は昔から遅刻などは一切した事が無かったので、何かトラブルに巻き込まれたのではないかと少し心配になってくる。


「ちょっとこの辺りを探してきます。夏海ちゃんは西条先輩と一緒に待っててくれ」


「うん、分かった」


「水瀬、頼んだぞ」


 それから俺は2人を改札前に残すと駅を出て恵美を探し始めるが、それらしい人影は見当たらない。


「ひょっとして入れ違いになったか?」


 俺がそんな事をつぶやきながら駅前をうろうろしていると、聞き覚えのある声が近くの路上から聞こえてきた。


「この声は恵美と……もう1人は誰だ?」


 恵美を見つけられて安心する俺だが、聞き覚えのない男性の声が近くでしているのが非常に気になる。

 声の聞こえる方へ近づいていくと何やら揉めているらしく心配になって駆け出す。


「だーから、私はさっきから一緒に花火大会に行く相手がいるって言ってるでしょ」


「えー、いいじゃん。そんな約束無視して俺と一緒に行こうよ」


 目視できる距離まで近付くと、大学生くらいのチャラそうな金髪の男が恵美の前に立ち塞がっている様子が視界に飛び込んできた。

 どうやらしつこくナンパされて困っていたようで、怒ったような、呆れたような顔をしている。


「恵美、来るのが遅かったから迎えに来たぞ」


「あっ、和人君。探してくれてたんだ」


 恵美とチャラ男の間へ強引に入り込むと、そう優しく声をかけた。

 するとチャラ男は明らかに苛立った様子で声をあげる。


「おい、お前誰だよ」


「この子の連れだよ、お前こそ誰だ」


 相手に一切臆する事なくそう強く言い返すと、チャラ男の顔に緊張が走った。

 恐らく穏やかそうな顔に見える俺から言い返されるとは思っていなかったのだろう。

 それに加えて俺の方が身長が10cm近く高い事も怯んだ要因かもしれない。


「わ、分かったよ。彼氏持ちだったなんて思って無かったんだ、許してくれ」


 そう言い残すとチャラ男は凄まじい速さでどこかへと走り去っていった。


「本当に助かったよ、約束があるって何回説明しても全然居なくなってくれなかったんだから」


「災難だったな、でも恵美が無事で良かった」


 恵美はトラブルから無事に解放されたおかげか、すっきりしたような顔をしている。


「西条先輩と夏海ちゃんが駅で待ってるから早く行こうか」


「うん、そうしよう」


 俺達は集合場所の改札前に向かって2人並んで歩き始めた。


「それにしても私達ってカップルに見えるんだね」


「……どうしたんだよ急に?」


 そう恵美に問いかけると少し嬉しそうな表情で口を開く。


「ほら、さっきの人が言ってたじゃん。彼氏持ちだと思わなかったってさ」


「そうか? 俺的には普通に友達同士に見えそうな気もするけどな」


 そう答えると恵美はつまらなさそうな顔になった。

 どうやら恵美が求めていた答えでは無かったらしく、機嫌を損ねてしまったらしい。


「……バカ、罰として何か屋台で奢って貰うからね」


 俺はユニバースランドの時と同様、口は災いの元だと改めて実感させられた。

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