第16話 オープンキャンパス
ユニバースランドに行った日の数日後、俺は西条先輩と一緒に2人で隣県にある学習館大学のオープンキャンパスに来ている。
今回のオープンキャンパスは西条先輩から誘われて来たわけだが、学習館大学は俺にとって第一志望群の大学であるため喜んで誘いに乗った。
「ようやく着いた、やっぱり広いな」
「ですね、中学や高校とは全然違う……」
電車を降りてキャンパスに一歩足を踏み入れた俺達だったが、ワンキャンパスの総合大学という事もあって中はかなり広い。
西条先輩は以前もオープンキャンパスに参加した事があるため既に来たことがあるらしいが、来るのが初めてな俺はその大きさに圧倒されていた。
「じゃあまずは大学紹介と学部学科紹介から聞きに行こう」
「そうしましょう」
俺達は受付で資料一式を貰うとオープンキャンパスのTシャツを着たスタッフから案内されてホールの中へと入る。
ホールの中は既に人で溢れかえっており、かなり混雑していた。
「めちゃくちゃ人が多いですね」
「学習館は人気大学だからな。周りはみんな受験の時のライバルなるかもしれないぞ」
そう2人で話しながらながら空いている席に着席し、そこで1時間ほど大学と学部学科の説明を聞く。
それが終わると今度は模擬授業を受けるためにパンフレットのキャンパスマップを見ながら会場の大教室へと移動を始める。
ちなみに模擬授業は各学部によってそれぞれ実施されるのだが、西条先輩の志望している外国語学部の授業は過去のオープンキャンパスで一度参加したらしいので今回は俺の志望している経済学部へ行く事にした。
「へー、大学の教室ってめちゃくちゃ広い」
大教室に到着した俺達だったが、中の広さに驚いた俺はキョロキョロと辺りを見渡す。
すると俺の様子を見ていた西条先輩は得意げな顔で口を開く。
「講義によっては何百人も同時に受講するものもあるからな。このくらい広く無いと教室に入りきらないのだよ」
「その辺も高校までとは全然違いますね」
そんな話をしながら近くの席に着席すると、俺達は模擬授業が始まるまで適当に雑談をして時間をつぶした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
経済学部の模擬授業が終わった後、俺達は学内を巡るキャンパスツアーに参加したり部活やサークルのパフォーマンスなどを見ていたのだが、いつの間にか14時過ぎになっている事に気付く。
「オープンキャンパスは15時までだし、昼食を食べたら帰ろうか」
「分かりました。それでどこで食べます? 食堂はたくさんありますけど……」
「そうだな……あっ、ここなんてどうだ?」
2人でパンフレットを見ていると西条先輩はお洒落なカフェを指差した。
「いいですね、ここにしましょうよ」
「よし、行こう」
俺達はキャンパスマップを見ながらお洒落なカフェを目指して歩き始めたわけだが、後少しで目的地に到着というところで問題が発生してしまう。
「きゃっ!?」
なんと西条先輩が足元の段差につまずいてしまったのだ。
普段歩き慣れていない土地勘のない場所でパンフレットを見ながら歩いていたのがいけなかったのかもしれない。
手に持っていた荷物を全て投げ捨てると地面に激突する寸前の西条先輩を全力で抱きとめる。
かなり危なかったがぎりぎりセーフで間に合わせる事ができた。
「恥ずかしいからそろそろ離してくれると助かるんだが」
「あっ、ごめんなさい」
しばらく抱きかかえた体勢のままお互い無言で見つめ合っていた俺達だったが、顔を真っ赤に染めた西条先輩からそう言われて慌てて手を離す。
周りからかなり注目されている事に気づいた俺達は急足で逃げるようにカフェの中へと入っていく。
「……水瀬、さっきはありがとう。おかげで助かったよ」
「いえいえ、西条先輩が無事で良かったです。それにしても可愛い悲鳴でしたね」
カフェに入った途端感謝の言葉を述べてくる西条先輩をついついからかいたくなってしまった俺はそう声をかけてみた。
すると西条先輩は恥ずかしくなったのか再び顔を真っ赤に染める。
「それは思い出さなくていい。だから今すぐ忘れろ」
「わ、分かりました。綺麗さっぱり忘れますから叩かないでください」
俺は恥ずかしさを思い出して悶え苦しみながら俺を叩く西条先輩をそうなだめた。
しばらくしてようやく落ち着きを取り戻してきた西条先輩はゆっくりと口を開く。
「……とにかく水瀬には1つ借りができてしまった事だし、今日の昼食は私が奢るとしよう」
まだほんのりと顔が赤い西条先輩はそう言うと千円札を1枚差し出してきた。
「ありがとうございます」
俺はそれを受け取ると券売機で300円のランチセットを注文する。
西条先輩はメニューを見て少しの間迷った後、結局俺と同じものを注文した。
注文した料理ができるまでの間、俺達は座った席で会話をしながら待つ。
さっきのハプニングについてはこれ以上触れると本気で怒られそうだったので避けた。
そして完成したランチセットをカウンターまで取りに行き、2人で食べ始める。
「美味しいですね」
「ああ、この値段でこの味は素晴らしいな」
流石は人気私立大学の学食という事でコスパは最高であり、恐らく学生からも大人気に違いない。
それから食事を終えた俺達は満足な気分のまま大学を出て駅へ向かって歩き始める。
「今日はありがとうございました。初めてのオープンキャンパスだったので西条先輩がいてくれたおかげで色々と助かりました」
「こちらこそありがとう。1人で行くのは寂しかったから、一緒に行ってくれて嬉しかったぞ」
俺が感謝の言葉をかけると西条先輩も綺麗な笑顔で同じようにお礼の言葉を伝えてきた。
その笑顔にドキッとさせられた俺の顔はもしかしたら少し赤くなっているかもしれない。
こうして俺の初めてのオープンキャンパスは幕を閉じた。




