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 ラベンダー畑は見頃ということもあって、多くの人が訪れていた。

 辺り一面とても良い香りで紫色のふかふかの絨毯が敷き詰められたようだ。


 私たちの来訪に気づいたラベンダー畑の管理人がすっ飛んで来て、案内や説明をしてくれる。

 本当は4人の気楽なお忍びピクニックだったので来訪することは伝えておらず、急遽(きゅうきょ)対応していただくことになり、しかもゾロゾロとご令嬢付きなので大変大ごとになってしまい申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


 わたし達は今日はお忍びピクニックということもあって、そこそこ裕福な商人の子女という服装で来ている。

 殿下もセドリック様もラフなシャツにズボンで、わたしとマリエル嬢もひとりで脱ぎ着できる簡単なワンピースである。

 その後ろをゾロゾロと煌びやかなご令嬢達がいらっしゃるので、(はた)から見れば、奇妙な集団となっている。

 奇妙な集団の先頭にいるのが王太子殿下やその婚約者のわたしであることに気づいた市民の皆様方が笑顔で手を振ってくださるので、わたしは可愛く小さく手を振り返して、キメの王族スマイル。

 わたしからすれば、今日はピクニックからほぼ公務に早変わりしてしまった。

 護衛として、ぴったり後ろをついて来てくれているセドリック様とマリエル嬢は苦笑いをしている。

 残念ながら、ご令嬢達の思惑どおり?ピクニックとか、ダブルデートとか、そういう甘さは一切ないものになってしまった。


 管理人さんがなにかを思いついたらしく、殿下とふたりでお話を少し離れたところでされている。

 殿下がうれしそうに頷かれると笑顔で管理人さんが「少しラベンダーをご堪能していてください」と言って、急いでどこかに駆けていった。

 

 見渡す限りラベンダー畑で、しかもよく手入れをされているのがわかる。

「エリアーナはラベンダー畑は初めてだったんだよね。どう?初めて見た感想は?」

「本当に綺麗で感動しました。王都の屋敷の侍女達からラベンダー畑の素晴らしさをずっと聞いていたので、今日は来れて良かったです」

 わたしが長くいた温暖な南の領地では見られない景色だ。

 王都に来てから特に良いことはなかったけど、この景色を見れて思い出ができて良かった。


「そうか。それなら、良かった」

 殿下が優しく微笑まれ、先ほど馬車を降りた時に角が立たぬようにご令嬢達に丁寧に優しく対応されていたことを思い出した。


「あの…殿下、わたしの所為(せい)でピクニックが台無しになってしまい、申し訳ありません。本日突然来られたご令嬢にご対応していただきありがとうございました」

「ああ、彼女達ね。彼女達が押しかけてきたのはエリアーナの所為ではないだろう。いままで彼女たちを放置していた俺に責がある。俺と婚約が決まってから、エリアーナはずっとこんな感じだったんだな」


 エリアーナが困ったように微笑む。

 その表情を見て、俺は胸をグッと掴まれたように胸が痛む。

 エリアーナの苦労はわかっていたつもりだったが、こうあからさまにご令嬢達が嫌がらせ目的で押し掛けてくるのを目の当たりにすると、エリアーナのいままでの大変さを全然わかっていなかったことを痛感した。


 もしエリアーナと婚約を解消したら、エリアーナはこんな煩わしいことからはすぐに解放されるだろう。

 でも、エリアーナを手離してやることは俺にはできない。

 これからはこんなご令嬢達からも俺が完璧に守ってやる。エリアーナにどんなことがあっても、崖から身を投げだすことだけは俺がさせない。


 

 管理人さんがラベンダーばかりの小さな花束を2つ持って戻って来られた。

 わたしとマリエル嬢にプレゼントをしてくれるとのこと。わたしとマリエル嬢に手渡してくださった。

 わたしとマリエル嬢はお互い思ってもみないサプライズに顔を見合わせて、はしゃいでしまった。


 その様子を見ていて殿下がわたしの耳元で囁く。

「ねぇ、エリアーナ。俺からもラベンダーの花束をプレゼントしたいんだけど」


 ハッする。

 ラベンダーの花言葉は「あなたを待っています」


 わたしの婚約解消を望む気持ちが変わるのを待っていてくれるということなのだろう。


 慌てアーサシュベルト殿下を見ると、殿下が深いグリーンの瞳を細めてクスッと笑った。


 さすが、アーサシュベルト殿下。

 花言葉にまで精通しているのね。

 花言葉を知らなかったら、危なかった。

 王太子妃教育、ありがとう!


「いえ、この花束だけで十分です」

 消え入りそうな声で答える。

「残念。エリアーナにはいつでも花束を贈りたいのに。ねぇ、エリアーナ、早く俺に惚れて堕ちてね。待ってるいるから」


 小声で耳元でそっと囁かれた。

 胸がきゅっとなり、頬が一瞬で熱くなる。

 絶対に真っ赤になっているはず。

 

 わたしの横でそんな恥ずかしい言葉を囁きながら、何食わぬ顔で涼しい顔を殿下がしている。

 悔しいけど…羞恥心で耐えられない。

 頂いたラベンダーの花束に顔を埋めた。

 

 ラベンダー畑の次は、歩いて行けるほど近くにあるミレーユの滝を見に行く。

 渓谷沿いの遊歩道を歩いて、滝に向かうのだが、その狭い道を大勢でゾロゾロと歩く。

 滝から戻って来る人が何事だと、ギョッとして一行を見るのがわかるので、逆に面白い。

 わたし達もそれが可笑しくって、マリエル嬢と顔を見合わせ、頬を緩めてしまう。

 アーサシュベルト殿下やセドリック様、マリエル嬢カップルの心優しい配慮で、この状況を楽しめている。


 その時だった。

 後ろの方にいるご令嬢達から悲鳴が上がった。足を止めて後方を見ると、必死の形相で走って逃げてくるご令嬢が目に入った。

 


読んでいただき、ありがとうございます。



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