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コーヒー・ゼリー

「だから秘密にしてって言ったのにぃ」


 ぷんすか怒る木乃葉は、いつもの木乃葉だった。


「でも、マンゴープリンちゃんはすごかったよ! 魔法みたいで、格好良くて、すごく素敵だった」


 私がそう言うと、木乃葉は照れたように笑った。


「まあ魔法少女だからね。ありがと」


「まあ、確かに魔法少女としては悪くなかったかもね。変身した時は胸も大きかったし、お尻もプリッとして──」


 緋奈子が余計なことを言い出したので、私は慌てて彼女を止める。なんで親友に妹のことをこんなに褒められなきゃいけないのだろう。


「もうっ! それ以上言わなくていいからね!」


「ふーん?」


 ニヤリと笑う緋奈子は、何か悪巧みをしている時と同じ顔をしていた。


「……なんだか、楽しかったですわ」


「え?」


「こんなに楽しい気持ちになったのは初めてかもしれません」


 クレープちゃんも笑ってくれた。その笑顔は、今まで見たどんなものより眩しくて、可愛くて、輝いていた……ような気がする。クレープちゃんも緋奈子も、デストルドーに乗っ取られている時の記憶が残っているらしい。まあ、木乃葉との戦闘を楽しんでくれたのならそれに超したことはないけれど、私は死ぬ思いをしたんだからね! と少し抗議したい。


「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」


「いやいや、私たちは何もしてないよ。頑張ったのは全部マンゴープリンちゃんだし」


「ふふっ、じゃあマンゴープリンさんにもお礼を言っておかないといけませんね」


「あ、うん、そうだね」


「それと──」


 クレープ・シュゼットちゃんは私を見てこう言った。


「あなたも、本当にありがとうございました。あなたの勇気ある行動のおかげで、私はこうして生きています。もし、また会えることがあれば──今度は友達になってくれますか?」


「もちろん!」


 私たちが握手を交わすと、木乃葉が「はいはい、そこまで~。そろそろ帰ろうよ。私、疲れちゃった」と言った。


「そうだね」


「では、帰りましょうか」


 緋奈子と木乃葉とクレープちゃん、3人で手を繋いで輪を作ると、そこに大きな白い光の塊が生まれた。それはどんどん大きくなっていき、やがて電車を丸ごと包み込むくらいの大きさになる。


「これは……何!?」


「空間転移の魔法です。さあ、行きますよ。えいっ」


「えぇっ!? ちょっ……」


 光がさらに強くなり、視界は白一色に染まっていく。

 ──そして次の瞬間、私たちは家の近くの公園に立っていた。


「え? あれ?」


 辺りを見回すと、すぐ側に木乃葉と緋奈子の姿があった。クレープ・シュゼットちゃんの姿は無い。先に帰ったのだろうか。


「2人とも……無事でよかった!」


「心配かけてごめんね」


「ううん。いいんだよ」


「ところでさ」


 緋奈子が私をじっとりとした目つきで見つめてくる。


「な、なんでしょう……」


「それで、ハルちゃんとマンゴープリンちゃんはどんな関係なの?」


「えっ……?」


「えっ」


 その言葉に私と木乃葉の表情が凍りつく。私と木乃葉が姉妹だと緋奈子に知られたくない! だってこいつどうしようもない変態だし!木乃葉は今、マンゴープリンなんだから、きっと答えは決まってるよね? お願い! 木乃葉、なんとか誤魔化して! 私は必死の思いを込めて木乃葉の顔を見たけど──そこには絶望しかなかった。


「えっとねぇ、実はウチとハルカちゃんは──」


 ああぁっ!! バカァッ!!!


「付き合ってるんです!」


 ……。

 …………。


「へ?」


「え?」


「……」


 木乃葉の言葉に私の思考回路がショートする。木乃葉はニコニコしながら続けて言った。


「ハルカちゃんはウチの運命の人だもんね!」


「ちがーう!!」


 思わず叫んでしまった。


「ど、どういうこと?」


「木乃葉とは幼馴染みで、たまたま付き合いが長いだけで、全然そういうのじゃないから!」


「でも、昨日はキスまでしたじゃん」


「事実を捏造するなバカッ!」


 必死な私をよそに、木乃葉は心底愉快そうに笑っている。


「えっと、とりあえず二人がすごく仲がいいのは分かったよ」


 緋奈子は若干引き気味だったが、とりあえず私と木乃葉が姉妹だと思われることはなさそうだった。危なかった。


「それじゃ、私は帰るね。また明日学校で」


「ばいばーい」


 緋奈子が家に帰っていくのを見送った後で、私は木乃葉に向き直って言った。


「もう二度とあんなことしないで!」


「え~? 面白かったのにぃ」


「ダメなものはダメ!」


「ぶぅ、お姉のけち〜、減るもんじゃないのにぃ」


「私のメンタルがすり減るわ!」


 私が怒っても、木乃葉は悪びれた様子もなく笑っていた。全く反省していないようだ。まあ、今日のところは許してやるかな。


「……でも、ありがと」


「ん?」


「助けてくれて、嬉しかったよ」


「えへへ、いいよぉ。その代わり後でおっぱい触らせてね」


「なぁっ!?」


 やっぱり木乃葉は木乃葉だ。魔法少女になろうと変態なのだこいつは。


「お姉、早く帰ろ〜」


「はいはい、分かったよ」


 私と木乃葉は並んで歩き出した。



 ☆☆☆



 数日後──


『──突如姿を消した魔法少女【コーヒー・ゼリー】の行方はいまだに不明で、警察は拉致事件として捜査を開始しています』


 テレビは相変わらず不穏なニュースを垂れ流しており、それを木乃葉は相変わらずTシャツ1枚でよく分からない形のクッションを抱えるという体勢で眺めている。


「最近物騒だねぇ〜」


「あんたは気楽そうでいいわね」


 皮肉っぽく言ってやると、木乃葉はあははと笑った。

 結局、あの後私は約束を守って他の誰にも木乃葉が魔法少女であることは話していない。なので、家では普通に姉妹として接している。木乃葉は、この数日ですっかり元の引きこもり生活に戻りつつあった。


「んじゃあ私は学校行ってくるから、留守番よろしくね」


「あい〜」


 木乃葉は眠そうな顔でひらひらと手を振っている。

 それから私は部屋を出て玄関に向かった。靴を履いていると、お母さんが見送りに来てくれた。


「行ってらっしゃい遥香。今日は帰り早いの?」


「うん。今日はバイトないから、夕方には帰ってくると思う」


「そう、頑張ってね」


「うん、ありがとう」


 私は笑顔を作ってから家を後にした。

 空は雲ひとつなく晴れ渡っており、太陽が燦々と輝いている。絶好のお出かけ日和だなぁ。

 私はいつも通り自転車に乗り、通学路を走り始めた。最近はずっとこんな感じの天気が続いている。雨が続くよりかはマシだけど、少し不気味でもある。

 そんなことを考えながらペダルを踏み続けていると、前方に見覚えのある後ろ姿を見つけた。


「おはようヒナちゃん」


「あっ! ハルちゃん! おはよう!」


 声をかけると、緋奈子は元気よく振り返った。緋奈子の髪がふわりと揺れる。


「ねぇ、今日の昼休みって時間ある?」


「うん、大丈夫だけど……」


「よかった! それなら話があるんだけど。この間の件について」


「この間のってデストルドーの?」


「うんそれもだけど、私が話したいのはマンゴープリンちゃんについて」


「マンゴープリンちゃんについて?」


 私はゴクリと唾を飲み込んだ。もしかして、緋奈子にマンゴープリンの正体が木乃葉だってバレたとか!?

「また後でね!」と言い残して、緋奈子は先に行ってしまった。彼女の言っていたことが気になって、私は授業に集中できなかった。

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