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炸裂! ニンジャカラテ!

「今あの娘は魔法を使ったのか!?」

「ま、魔法ではない」

 リーダーは否定した。


「あれは恐ろしく早い手刀だ、俺もちらと影が見えただけだが」

「手刀!?」


「見ろ、奴の剣が折られている。恐らく目にも止まらぬ手刀で剣を叩き折り、返す刀で首を切り落としたのだ」

「素手で瞬時に剣と首を断つなど、魔法を使わずにそんなことができるのか」


 公爵令嬢が習う類いの護身術では、いや他の武術や格闘技でも到底無理な話だろう。

 だがリーダーには心当たりがあるらしく、

「それができるとするならば1つ──カラテだ」

「カラテ!?」


 カラテとは武器を持たぬ手、(から)の手を意味し、つまり素手で敵を(ほふ)るというニンジャの最強アーツだ。

 その鍛え上げられた手刀は鋼鉄の鎧を貫き、人の首などわけもなく跳ねるという。


「ニンジャのカラテでなければ、今の攻撃の説明がつかん」

 リーダーはそう主張するが、

「ニンジャの大半は百年以上前に極東の地で巻き起こったセキガハラ・ウォーで死んだはずだ。残ったものはシーフ崩れとなり、技を継承するものもなく哀れに消えていった」


「ニンジャが落ちぶれて以来、カラテを体得したものなどほとんどいない。何よりカラテはアサシンスキルの(いしずえ)にもなったとされる高度な戦闘術、それをあのような小娘が身に付けているなどありえん」


「元より、カラテを使えるなら俺たちに怯えながら魔法など放ちはしまい」


 彼らには、恐々と警告してきた姿と最強の戦闘術がどうしても合致しないのだ。

 誰もがそう思うだろう。

 そしてリーダー以外の数名は1つの仮説に辿り着いた。


「きっと、手元から素早く、真空の刃を生む攻撃魔法でも放ったに違いない。あいつは間近で無防備にそれを食らったから、あのようにやられたのだ」

「どうせ1度きりの虚仮威(こけおど)しだ、俺が仕留めてくれる」

 剣を構えて1人が走ると、隣もそれに続く。


「デヤーッ!」

 男は右手の剣で鋭い突きを放った。

 その刺突(しとつ)は常人では回避不能なほど速い。


 これにコンスタンツは右足を引き、体を開いて剣に(くう)を切らせると、すぐさま右手で男の手首を持ち、左手の掌打を肘に打ち込んだ。

 ゴキッ!

「ぐああーっ!?」

 嫌な音がして、筋肉質な男の腕が枯れ枝のように軽々と折れた。

 こぼれ落ちる剣を、手渡されたかのように掴んだ彼女は、男の頭を引き寄せながら一気に喉を刺し貫く。


「ぐぐぅ! ぐ、げぇ」

 首の後ろから剣を生やした男は、くぐもった声を漏らしながら倒れた。


「ぬ、ぬう!?」

 続く男は一瞬だけ気勢(きぜい)を削がれたが、すぐに突っ込んでくる。


「おのれー、デヤーッ! デヤーッ!」

 前の男の剣技に引けを取らない、激しい斬擊の嵐がコンスタンツに浴びせられる。


 だが彼女は、スカートの裾を(ひるがえ)しながら紙一重で攻撃を避けていく。

 舞い落ちる木の葉を手で掴み損ねるように、男の剣は空振りを繰り返す。


「こしゃくなー!」

 焦りから男がさらに深く踏み込もうとしたとき、

「グ、グワーッ!」

 彼の膝に真っ正面から蹴りが入れられた。

 カウンターの効果で半月板が砕け、膝が痛々しく鳥足めいて反る。


 コンスタンツはよろける男の頭上に一回転しながら跳ぶと、

「エイヤーッ!」

 アクロバティックなカカト落とし!


 男はとっさに剣を掲げて防ごうとするも、

 バキンッ!

 振り下ろされる(まさかり)めいた足が剣を叩き折った。


 なおも勢いを失わないカカトが覆面ごしに頭蓋骨を砕き、その重い衝撃は首の骨をも圧迫して骨折させる。

 頭部への致死ダメージを受けた男は、両目から血を流して地に伏した。


 戦槌(バトルハンマー)の直撃を彷彿(ほうふつ)とさせる、なんたる破壊力のカカト落としであろうか。

 舞踏会用のシューズであろうとニンジャの力と技が加われば、繰り出す蹴りは人体を破壊する凶器となる。


「な、なんだと!? 2人をいとも簡単に!」

「あの体捌(たいさば)き、さっきまで怯えていた娘の動きなのか!?」


 この数秒の間に彼女が起こした動作は1つ1つが洗練されており、デザインされていたかのように寸分の狂いがなく、全く無駄がなかった。

 それらはまさに鍛練に裏打ちされた達人(マスター)の技だ。


「ぬう、やるようだな。その力、本物と見た。だがこの戦法が破れるか」

 3人がリーダーから離れると、コンスタンツを取り囲み、構える。

 1度彼女の命を絶った、あのフォーメーションだ。


 男たちは彼女の気を散らすためか、コンスタンツの周りを円を描いて走り出した。


 狙いは3方向からの同時攻撃。

 それも、たとえどの攻撃を避けようとも必ず誰かに死角から刺されるという、数的有利で逃げ場を奪う集団戦法。

 卑怯もへったくれもない、命のやり取りは生きるか死ぬかだ。


 彼らに撹乱(かくらん)されるかと思いきや、コンスタンツは構えたまま、その場を動かない。

 しばしその状況が続き、

「!」

 予備動作も足音の変化もなく、男たちが一斉に彼女に突撃した。


 剣の切っ先が触れるか否かという、その刹那、

「な、なにぃ!?」

 寸でのところで、コンスタンツは瞬間移動と見紛(みまが)うほど素早い垂直ジャンプで交差する剣を回避。

 そのまま空中で身を(よじ)ると、

「エイヤーッ!」

 体を旋回させつつ回し蹴りを放った。


 竜巻めいた高速回転から放たれた蹴りの威力は鋭利なブレードに匹敵し、死神が大鎌を振るったように3人の首がいっぺんに跳ね飛んだ。

 これぞカラテの必殺アーツの1つ、センプウ脚。


 彼女が着地すると、タイムラグを挟んで3つの死体が転がった。

 一撃のもとに3人を(ほふ)った、まさに死神が血煙の中に立っていた。

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