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自称ぽんこつ令嬢は、今日も記憶をなくしたい。なのに殿下からの溺愛が止まりません。

サクッと読める短編を中心に書いております。たくさんの方に読んでいただけると、うれしくて転げ回ります。

「で、ディアナ。()()()()()、本当に記憶をなくしてしまったのかい?」

 

 柔らかなアイスグレーの髪に、宝石のような紫の瞳を持つ私の婚約者は、その優しそうな外見とは裏腹に目が全く笑っていません。実際、何をどうしたらこうなったのか、現在私は婚約者であるリオン様のお膝の上に横向きに座らされています。


 ただそれだけでも、すでに口から心臓が飛び出してきてしまうのではないかという生きた心地がしません。でも今ここで引き下がっては、何もかも水の泡になってしまいますので我慢です。


「執事が、今朝階段の下で倒れている(わたくし)を発見したそうなのです。お医者様に見ていただいたところ、頭の後ろにコブが出来ていて、おそらく階段から落ち、その時に記憶を失くしたのだと言われました」

「ああ、コブというのはこれかい」


 長く綺麗な指が私の茶色に近いブロンドの髪を掻きわける。その腕から、ほのかにムスクの匂いがした。


「あ、あの」


 後頭部にできた小さなコブを見つけると、まるで子どもをあやすかのように撫でた。


「これは痛かっただろう。かわいそうに。それで僕のことを忘れてしまったというんだね」

「はい。殿下のことを忘れてしまった私は……」

「僕が殿下ということは覚えているんだね」


 嬉しそうにリオン様が私の顔を覗き込む。

 そう、私は本当に記憶を無くしたわけではないのです。この婚約を破棄したいがために、演技なのです。


「そ、それは殿下がここへお見舞いに来られるというのでその前に執事や両親に確認したんですわ。粗相があるといけませんので」

「ふーん、そうなんだ」


 これくらいではもうひっかかりません。なにせ、婚約してからそこれで32回目の記憶喪失ですから。


「どうしていつも、こんなことをするんだい?」


 むしろ私は、どうして私なんかを殿下のお妃候補にしたいのかという事の方が、未だに分かりません。この髪の色も、薄いブルーの瞳も社交界では平凡そのものです。背も殿下より頭一つ以上も小さく、胸だってたわわなわけでもありません。


 今年で17となりましたが、セクシーさは幼稚さの陰に隠れ、未だに成長途中。婚約は5歳の頃に決められ、それ以降お妃教育を行ってきました。しかし、ダンスにしても勉強にしてもギリギリ及第点が取れているだけで、私はお妃様になど到底向いていないのです。


 それでもリオン様は昔から私に優しくして下さり、絶対に婚約破棄などして下さいません。だから、こうやって記憶をなくし、何もできない、何も思い出せないという演技でなんとか破棄を勝ち取ろうと思ったのです。それなのに、リオン様はとても頭が良い方なのでいつも見破られてしまいます。


「したくてしているわけじゃないんです。これは事故なんです」


 そう、したくてしているわけじゃないんです。だって、こんなぽんこつな私はリオン様の隣に立つ資格なんてないもの。私はあまりに不釣り合いだから。


 自覚があるだけ、マシだと思っていただきたい。私はぽんこつでおバカですが、淑女としての弁えくらいはちゃんとあるのです。


「考え事をしていて、そしたら手と足が同じになっていて」


 これはホントです。厨房から何やらいい匂いがして、後ろ髪を引かれつつ部屋に戻ろうとした時にうっかり足を滑ってしまいました。朝ご飯を食べた後だというのに、午後のティータイム用のお菓子の匂いが気になったなど、淑女としてはあるまじき行為です。なのでここは、考え事をしていたのだと濁すに限ります。


「うん、そこまで覚えていれば大丈夫だね。でも、本当に気を付けないと。本当に大きな怪我をしたら困るからね。やっぱり、すぐにでも王宮へ引っ越そう。うん、それがいい。騎士が付いていれば階段から落ちることも、転ぶことも、噴水に飛び込むこともないからね。33回目が本当の記憶喪失になったなんてことになると、笑えないからね」

「え……」


 あれ、私はどこで返答を間違えたのでしょう。リオン様はもう満面の笑みです。


「あの」

「考え事をしながらの階段は危ないね。一体、今回は何を考えていたんだい?」


 ああ、落ちた時の状況を話すのはアウトなのですね。確かに、記憶がなくなる前の情報ですものね。盲点です。次からはこれも気を付けないと。


 いえその前に、先ほどから何やら他の方向に話が進んでしまっています。このままでは、こんな未熟な私が城へ行くことになってしまうではないですか。そんなことになれば、婚約者であるリオン様が笑いものになってしまいます。何としてでも回避しなくては。


「殿下、階段も気を付けますし、考え事もやめますので、王宮へ引っ越すというのはさすがに飛躍しすぎていると思うのです」

「そんなことはないよ、もう婚約して長いわけだし。それに考えてみて、ディアナ。王宮の侍女たちのほとんどが行儀見習いなどの貴族だよ。王宮へ上がるというのは、彼女たちと一緒で花嫁修業の一環さ」


 そう言われると、確かに王宮へ上がる貴族の娘などはあまり身分の高くない者や婚約者のいない者で、王宮で仕事をして箔を付けることで結婚相手を探すとも言います。私の場合は次期国王であるリオン様の婚約者なので、花嫁修業の一環と言われれば確かにそうなのかもしれません。


「いえでも、そういう大事なことは一度お父様たちに相談しませんと」


 リオン様はとても口がうまい方です。このままだと言いくるめられてしまいます。


「じゃあ、今日はこのまま王宮へ行ってお茶だけしよう。ディアナが倒れたと聞いて、母がとても心配していたんだ。元気な顔を一度見せてやってほしい。それなら、かまわないだろ?」


 リオン様のお母様はこの国の正妃様です。私のことを実の娘のようにとても可愛がって下さっています。リオン様には他にもお二人の弟君がいるのですが、お二人の側妃様がそれぞれお産みになった腹違いのご兄弟です。リオン様が正妃様の子で第一王位継承者なのですが、それにご納得されていない側妃様たちとの間で昔はよくいざこざが起こっていたようです。


 しかし今は、国王様がリオン様を正式に次期国王にご指名されたことにより、そういった話は聞かなくなりました。いつもそんなことでお心を痛められていた王妃様は、男なんて本当にどうしようもない生き物だとよく嘆いていらっしゃいます。そのせいでしょうか、私は本当によく可愛がっていただいているのです。


 今回の私の記憶喪失を装ったことで、王妃様が心を痛めたとなれば、全て私の責任です。王宮へはあまり近寄りたくはないのですが、仕方がありません。ここは、王妃様にきちんと謝らないと。


「分かりました……。王妃様のお顔を伺いにまいります」

「ありがとう、ディアナ。最近、また落ち込むことが多かったようだから、ぜひとも元気づけてほしいんだ」

「はい、殿下」

「ん?」


 私の返答が気に入らなかったのか、リオン様はぐんっと顔を近づけてきました。リオン様の匂いで、心臓が口から出てしまいそうです。


「リオン様」

「うん。二人の時はちゃんと名前で呼ぶ約束だものね」

「はい……」

「さぁ、行こうか」


 私をお膝に乗せたままのリオン様は、背中と膝の後ろに手を回すと、そのまま抱えて立ち上がる。


「り、リオン様。お、おおおお下ろしてくださいませ」

「ダメだよ、転んで記憶がなくなると困るからね」


 なんとも意地悪く、私に微笑みかける。

 このまま気絶して、記憶をなくしたいです。私は真っ赤になっているだろう顔を、リオン様の肩にうずめ、せめて他の人に見られないように抵抗だけはしました。


    ◇     ◇     ◇


 リオン様のお部屋はそれは立派なものです。私の部屋も狭くないと思うのですが、その三倍くらいの広さがあります。薄いブルーで統一されたお部屋は至る所に金の糸で細やかな刺繍が施されています。


 王妃様がちょうど今、国王様とお会いになられているということ。なので先にリオン様のお部屋でお茶菓子を頂きつつ、お待ちすることにしました。


「今日はディアナの好きな、ナッツのたくさん入ったクッキーがあると言っていたよ」


 そう話しているうちに、侍女がお茶とお菓子を運んで来ました。侍女はそれぞれお付きの方が決められていて、それに合わせて衣装の色などが違います。リオン付きのメイドはこの部屋に合わせた薄いブルーの衣装というように、一目見ただけで誰の侍女なのかということが分かるようになっているのです。


「美味しそうだね、ディアナ」


 確かにリオン様が言うように、目の前に並べられていくお菓子やお茶菓子はとても美味しそうです。何度か食べたことがあるので、よく知っています。そして必ず私が来た時に出してくれる紅茶も、いつも同じ物です。


「……」

「ディアナ?」


 所作がとても美しいのに、私はこの侍女さんから目が離せません。真新しい服の匂いに、それ以上に気になるのは、今出されたものたち。侍女は給仕を終えると、部屋の隅に下がりました。私はその姿を最後まで確認してから、お茶菓子に手を伸ばします。


 手に取ったクッキーを二つに割ると、サクッという音と共に、ナッツが一つ零れ落ちる。


「これは食べられません」


 香ばしい匂いの中に、いつもとは違う匂いが混じっているからです。そしてスプーンでお茶を掬うと、ご丁寧にこちらからも同じ匂いがしてきます。せっかくの美味しいお菓子と紅茶が台無しです。楽しみにしていただけに、食べ物をこんな風に使うなんて許せません。


「衛兵」


 リオン様が短く低い声を上げると、すぐにドアの前に控えていた兵士たちが流れ込み、そしてすぐにその場にいた侍女を捕縛する。


「こ、これは何かの間違いです。わたくしは何もしておりません」


 侍女は涙を湛え、必死に自分ではないとリオン様に懇願していた。


「でも、あなた、殿下の侍女ではないですわよね。その新しい服も、盗んだのではなくて?」


 本当の侍女ならば、新しい制服を下ろす前に水通しをしているはず。しかし彼女の着ている制服からはその匂いすら感じられません。


「そ、それは……」

「言い訳は牢で聞くとしよう。連れて行け」

『はっ』


 両脇を兵士に抱えられ、項垂れた侍女は連行されて行きました。


「全く、僕には毒はほとんど効かないというのに、ご苦労なことだ」


 王族であるリオン様は幼い頃よりありとあらゆる毒に慣らされるために、少量ずつ毒を口にされていたそうです。王族で、しかも後継者となる者は常に暗殺の危険が伴います。そのための苦肉の策だそうですが、少量ずつはといえ毒は毒で、昔からとても苦労されていたのです。


「今回の毒は、リオン様を狙ったものだったのでしょうか……」


 リオン様に大抵の毒が効かないというのは、王宮に住まう者ならば皆知っていることです。それなのに、なぜこのタイミングでリオン様に毒を盛ろうとしたのでしょう。何かが引っかかる。そんな気がして声をあげれば、同じことを考えていたリオン様が大きく頷く。


「そうだね、他の者もこのお菓子たちを口にしていると大変だ。他の兵には厨房へ行くように言って、僕たちは父上たちのとこへ行こう」


 胸の奥がざわざわとして嫌な予感がする。こういう時の勘は、当たらないでと思えば思うほど悪い方に当たってしまうものです。


 私はリオン様に手を引かれ、王様と王妃様のいるお部屋へ走り出しました。


     ◇     ◇     ◇


 扉を勢いよく開けると、ちょうど王様が先ほどと同じクッキーを口にされる瞬間でした。匂いも全く同じそれは、傍目からは毒入りだということは分かりません。そして毒見役も気づかれなかったということは新種の遅延性の毒か、毒見役自体がこの件に関与しているかです。


「国王様」


 私は行儀など構うことなく、王様の腕に抱きつくように飛び込む。呆気に取られながらも、国王様は私を受け止め、代わりに持っていたクッキーを落としました。そしてリオン様が紅茶を手にしていた王妃様のカップを叩き落とす。パリンという大きな音が部屋に響き渡り、何が起きたのかと兵たちも部屋に入って来ました。


「これはどういうことだ、リオン」

「毒ですよ、父上。先ほどこれと同じものが僕たちの部屋に運ばれてきて、ディアナがすぐに毒だと気付いたのです。もし、父上たちにも同じものが振る舞われているといけないと思い、急ぎ参った次第です」

「無作法、申し訳ござません、国王陛下」


 国王様を見上げると、ややお顔が赤くなっております。もしかして、もう口にされてしまった後だったのでしょうか。


「あの……」


 大丈夫でしょうかと言いかけた時、後ろから抱え込むように国王様から引き離されました。振り返ると、眉間にやや皺を寄せたリオン様の顔があります。そうですね、いつまでも国王様に寄りかかるなど、失礼でしたね。


「すみません、リオン様」

「いや、いい」


 その声はやはりどこか不機嫌です。


「そなたのお陰か。全く、その能力は大したものだな」


 国王様は感心そうにそう言いましたが、別に大した能力ではないのです。ただ他の人より、鼻がよく利くのです。だからといって、これは褒められた力ではありません。令嬢が犬と変わらない嗅覚の持ち主など、何の意味があるというのでしょう。どうせなら、もっと他の能力なら良かったのにといつも思います。


 鼻がいいというのも困ったものなのです。その人がそれまで誰と会っていたのかすら、分かってしまうから。まだ幼かった頃、国王様が側妃様とお会いになっていたことを口に出してしまい、大目玉を食らったこともあります。それ以来、王妃様には可愛がられましたが、国王様には思ったことを口に出さないようにと口酸っぱく言われたものです。


「いえ、少しでも陛下のお役に立てたのでしたら幸せです」

「そんなに畏まらなくてもいいのよ、ディアナちゃん。貴女のおかげで、わたしも命拾いしたんですから」


 王妃様が私の肩をぽんっと叩きながら、ふわりと笑いました。そう、この毒は新種だったとしても毒に慣らされているリオン様と国王様はまず効かなかったでしょう。そうなると、さも何ともないというように微笑んでいる王妃様か私、もしくは側妃様の誰か、または全員がターゲットだったのかもしれません。考えただけでもぞっとします。


「ディアナ、大丈夫かい? 顔が青いよ」

「ええ、大丈夫です。ただこれをどれだけの人が口にしたのかと想像したら……」

「すぐに城の者を集めるんだ」


 国王様の招集により、謁見の間には城にいたほとんどの人間が集められた。ほどんどというのは、毒味役の数名とコック、そしてお下がりとしてそれを食べた侍女数名が意識のない状態で別室に運び込まれたからだ。


「これはどういうことなのだ」


 毒を口にした人間があまりに多すぎる。誰か特定の人間をというより、これでは無差別に近い。今までの権力争いでさえ、その相手のお茶などに毒を入れられることはあっても皆が口にするものにまで入れるなんて。


「先ほどリオン殿下の命によって捕らえた侍女も同じ毒を口にしたようです」

 捜査の指揮に当たっている騎士団長の報告は最悪なものです。彼女が今一番、あの毒に近い人物だったというのに、これでは糸口が……。

「陛下……、わたくしも死ぬのでしょうか?」

「側妃様?」


 国王様の左下の椅子に腰かけていた側妃様が、真っ青な顔でカタカタ震えていた。側妃様が息をするたびに、あの毒と同じ匂いが漂ってくる。


「側妃様、あの毒をお召しになられたのですか!」


 私の問いに、震えて言葉にならぬまま涙を流す。


「教えて下さい。あの侍女は側妃様の侍女ですよね。側妃様と同じ香の匂いが、彼女の髪からしました」

「……そうよ。わたくしの侍女よ。前任者が国に帰るということで、国から新しく送られたばかりの侍女だったの。とても賢い子で、この国でのわたしの息子の立場を嘆いて力になってくれるって言ったのよ。でも、でもこんなことになるなんて」

「そなた、なんということを」


 この側妃様は隣国の王女で、国王様と王妃様の間に子が出来ず、一年が経過した頃、側妃にと望まれこの国へ来た。しかし、側妃様がお見えになったのと同時期に王妃様がご懐妊した。自分こそは国母になると意気込んできたのに、現実は自分の息子は王位継承権第二位。嫉妬と、怒りといろんな感情がどちらの側妃様にもある。だからこそリオン様は、生涯側妃を持たないと公言しているのだ。


「王、今は追及も言及も後です。すぐに使用された毒を探し当て、解毒剤を作ることが先決のはずです」

「正妃様……」

「あなたもその毒を口にしたのならば、あなたが加害者であるわけはありません」

「申し訳…もうし……わけ、あ……りません」


 側妃様は顔を覆いながら、深々と王妃様へ頭を下げました。たぶん、これまでのことも全て……。


「ディアナ、宮廷医と薬師とで毒の選別を頼めるかい?」

「頼めるか」

「はい、国王陛下、リオン殿下」

「では、ディアナ様こちらへ」


 遅延性の毒で、まだ死者が出ていないのならば間に合うかもしれません。いえ、間に合わせたい。私は急ぎ二人に続き謁見の間を出ました。


 毒は側妃様の国で使われている強い睡眠効果のあるお薬と、体の臓器を損傷させるという毒が混合されたものでした。側妃様が自分の国ということを告白して下さらなければ、きっと間に合わなかったことでしょう。


     ◇     ◇     ◇


 すっかり日も暮れた頃、やっと全員に薬師の作った解毒剤を飲ませることが出来ました。数日は寝たり起きたりを繰り返し、傷ついた臓器はすぐには良くならないだろうということですが、宮廷医は危機的状況は脱したと言っていたのでひとまずは安心です。


「ディアナ、今日は本当にお疲れ様。みんながさすが僕の婚約者だと、口々に言っていたよ」

「こ、今回はたまたまお役に立てただけです」


 日が暮れて、帰るわけにもいかなくなった私はリオン様の隣のお部屋を使うように通されました。そこまではまだ良かったのです。リオン様が私が寝付くまで心配だからと、今私の部屋へやってきて私と一緒にベッドの縁に腰かけるまでは。


「そんなことはないよ。父上も、今回のことで年内に結婚の日取りを決めるように大臣たちに通達を出していたからね。ああ、長かった。やっとだね、ディアナ」

「ね、年内……」


 今年はあと何か月残っていたでしょうか。及第点しか取れないぽんこつが、そんな短い時間でどうにかなるとでも思っているのでしょうか。


「今日だって、本当は僕の部屋で寝て欲しかったのに」

「い、いえ、それはさすがに」


 緊張して寝れません。リオン様の匂いのするベッドなんて。


「そうだね。それはこの先の楽しみに取っておこうね。気づいてた? ディアナ。僕の部屋が君の瞳の色と同じだって」

「な、なななん、瞳? 私の色……」


 薄いブルーでしたね、部屋も私の瞳も。まさか、そんな風に色を決められていたなんて知りませんでした。落ち着くのは、同じ色だったからなんですね。


「僕の好きな色だよ」


 そう言って、私に手を伸ばしたリオン様は、そのまま瞼にキスをした。


「!」

「今日はここまでね、ディアナ。じゃ、また明日」


 何事もなかったような涼しい顔で、リオン様が部屋を出て行く。


 私はそのままベッドに倒れ込んだ。いろんなことがありすぎて、グルグルと回っていた思考が一瞬で固まる。


「……今ならこのまま記憶を失くせそう……。うん、失くしたい」


 恥ずかしすぎて、それなのに嬉しいと思う自分がいて、33回目の記憶喪失になれそうな気がしました。もうこれは、寝たら記憶を失くすんだ。そう心に決めたのです。

ちょっとした移動時間にぴったりの短編たくさんありますので、よければ読んでいただけると幸いです。


悪役令嬢の涙。好きな人のためなら、悪役でも構いません。


https://ncode.syosetu.com/n6535gv/



第三王女の初恋。20歳差の思い。


https://ncode.syosetu.com/n1339gw/



転生ヒロインの選択。白馬に乗った王子様はいません。


https://ncode.syosetu.com/n8275gv/



ヘタレ殿下の純真。政略結婚はダメですか。


新作続々追加中です。読んでみてください!




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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! もっと掘り下げて、もっと続きが見たかったです(*^^*)
[良い点] レビュー全文 1 読む前の印象や予想など(表紙やあらすじなどから想像したこと) 記憶をなくしたい理由は何だろうか? タイトルが”それなのに”と続くことから、殿下の溺愛から逃れるためなのだ…
[良い点] ディアナの想いが伝わってくるステキな文章です。 自分に自信がなく、身を引く健気さが可愛く表現されてますよね!
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