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王道、半マイルを駆け抜けろ  作者: 切身魚/Kirimisakana
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裏話:ソルメド側の貴族たち

ソルメド王国がわで名前のでた人一覧


トエテジル伯爵

トエテジル家執事 コルピリ

ムスカケ男爵家、騎士バーチバル

シェイカブトゥ家の四男、騎士ニバール

捕虜 シュリ

「まさかの人質交換拒否とはのぅ」

 トエテジル伯爵はひげをなでて、自分の言葉にうなずいた。

「同じ金二百の値をつけてやれば、どんな盆暗でも察すると思ったのでござるが……」


 ニバール卿が提案したのは、例の従者と同じ破格の身代金を申し立てることだった。

 バーチバル卿の「すぐ奪還しにいこうぜ!(意訳)」をなだめるのにへとへとになっていた伯爵は、すわ名案とばかりとびついた。


「バーチバル卿、どうかのう。今日明日はま、ちと不便じゃろうが堪えてくれんか」


 男爵は「むむ」とうなって答えない。


「死亡したといって手紙を書くより、よいではござらんか」

「む……むむ……」


 手紙を書く、その面倒さは大概の貴族が嫌がる。書記を雇うのは金がかかるし、自領の部下をわざわざ使えば、他の仕事が後回しになる。


「少しの辛抱でござるよ」

「どうかのう?」


 結局、二対一でバーチバルは折れた。


 という提案を、翌日から会戦場の中央にたてられた専用テントで行ったのだ。

 ソルメド王国側からは、トエテジル伯と王軍参謀、伯爵家の執事(物資手配や分配、読み書きもできる男)コルピリ。

 ベルシーニ王国側からは、ラバス公トーレイ女公爵、紋章官、書記官と、軽食や茶を給仕するメイドが一人。

 人質交換条件を「金二百」でだしたトエテジル伯に、ラバス公はこともなげに言い放った。

 

「あ、では捕虜はそのままで。今後に備えてたがいの国で鍛えることにしましょう」


 しかも笑顔で、「今後と言うのは、半年後の祭典についてですがね」と流れるように話のコントロールを奪われてしまった。

 気が付くと和平に合意しており、半年後には『平和を保ったことをお互いに讃え、喜びあうために、非殺傷の競技祭をおこなう』ことも含めた条約にサインしていたとか、トエテジル伯は最後まで不思議だった。

 

 王軍参謀に至っては、途中から口を挟むのを忘れて、形をきれいに整えられた菓子と茶をむさぼっておった。

 

(この業務怠慢は覚えておいて、後々何か言われたら持ち出してやろうっと)


 と、トエテジル伯が思ったとか思わなかったとか。それはナイショである。少なくとも史書には記されていない。

 

 

 一番の面倒が片付いた、とばかり天幕に酒食を用意し、トエテジル伯は諸侯と夕食をともにすることにした。

 実の所、集まった貴族と腹心たちは、王軍参謀が同席してなければ、割とぶっちゃけた話のできる仲間である。

 平服に戻って酒を一杯、肉がないので塩漬け魚の煮つけでもう一杯、と飲めば、顔色もよくなる。

 話といえば、当然今回の戦のこと、和平条約のことになり。

 絶望男爵バーチバル卿は、伯爵の右隣で煮つけを飲み込むと、

 

「トエテジル伯ってばさー、『超平気だもん』の顔が上手くなりましたねー」


 手酌でやっている伯爵に声をかける。

 

「わかるー?自分でもこのごろ、顔の肉が固まってきた気がするのー」


「しかし、捕虜の扱いにまで口をだされるとは、面倒でござるな」


 ニバール卿はしらふだった。


「うーん、その辺はな……ワシちょっとわかるんじゃよ」


 ひげをこすりながらの伯爵の答え。

 残り二人が固まった。声が聞こえる範囲にいあわせた他の領主たちも、意図せず会話が途切れる。

 座に漂う気まずい空気を何とかしようと、トエテジル伯は咳払いする。

 

「ほれ、ワシとこの領はほぼ国境じゃろ?人の行き来もある。少ないけど無いわけじゃあない。それでな……」


 隣国は、一言でいえば『豊か』だ。

 自領の特産品は大したものがない。やってくる商売人は、お義理ていどに農産物を買い付けする。

 実態は、商人が持ち込んだモノを自領民に売りまくりである。ちょっとでも金を持った領民は、町で使うより、『市場』で、『隣国の産物』を買う。

 トエテジル伯とて、道路補修だ橋の整備だと臨時徴収や、出店料の増額をしているのだが、『取り立ててもさらに稼がれる』のでイタチの追いかけっこ状態。使用人たちから聞くし、そして自分でも使ってみるに、

 

「保存肉はちょっと高いが質がいいし、量がたっぷりある、味がいい」

「地金は売ってくれないが、農具、鋏や針がとても使える、長持ちする」


 のは事実。くやしいけど事実。

 税金高くしすぎて逃げられたくない。

 彼らの持ち込む物産がなければ、自領の産物だけで「いいもの」を知った領民を満足させられない。

 大っぴらにやらないだけで、技術を学びたい職人の行き来はあるとも聞く。(伯爵はその報告を聞かなかったことにした)

 

 実を言えば、ベルシーニ王国と国境を接している男爵も同じような事情がある。領内の山が国境なので、大規模な物の行き来はない。代わりに、山を回るルートで南の聖地にゆく街道が通っている。そこを巡礼の人が通り、宿場もある。

 それが男爵の、周辺より頭一つとびぬけた豊かさの源だった。公然と言わないだけで、隣国から招いた職人に高精度な板金鎧をつくらせる程度には、金がある。

 それでも、貴族の中ではしょせん一介の男爵。

 王に「稼いでるんだからもっと出せるっしょ?」とばかり税を重くされても、文句を言えない。

 大規模事業には必ず認可を得ねばならない。

 街道の拡張、町の壁修復、橋を新たに作ったり等、認可が欲しければ……と、「いいもの」を明に暗に要求される。

 金はあっても、半端な金額しかないというのが泣き所だ。「いいもの」をだせば事業に回せなくなる、「いいもの」をださねば認可が出ない。貯めこもうにも、監視されているし、密告の危険をおかしながらの脱税も難しい。

 下の町人たちからは公共事業を要求され、上の貴族からは「いいもの」を要求され。”獣身御供(じゅうしんごくう)”の采配もある。

 国境近くの貴族がこうして顔を合わせると、何かと話は王への不満になるのがいつもの流れだった。

 

 先のような伯爵の言葉は、ただ敗戦という今日この時に限って、いつもとは違っていた。

 

「それでな……同種でなくとも、隣人の獣化した肉を食う。”獣身御供(じゅうしんごくう)”の習いは、救荒(きゅうこう)の手段であったが、今や上の者が下の者の生死を握る統治の手段になってしもうた。」


 まじまじと目を見開くバーチバルと対照的に、ニバール卿は笑顔を崩さない。

 トエテジル伯はもう一口、酒をすすって自分を励ます。

 

「つまりな……、ぶっちゃけうちの領地が貧しいのって、天候不良やら不作やらもあるけど、王の税が重いってのあるじゃん?それに何か事業しようってなると、すぐ金よこせー土地寄進せーじゃん?

 それに加えての、獣身御供じゃん?

 ただでさえ少ない領民が減るじゃん」

 

 冗談めいた語調と、芯のこもった声で、伯爵はぶっちゃけた。

 

「領地のことを考えるとのぅ。ソルメド王ってそんないい君主か?」

 

 この後の会話については、誰も何も記録を残していない。


王国側の誰かたちが何かしそうなんだよ、という、足首関係ない裏話です。

足湯に浸かりながら話させればよかった!

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