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王道、半マイルを駆け抜けろ  作者: 切身魚/Kirimisakana
5/18

中間管理職はつらいよ

 時間は前日にさかのぼる……。


 ニバール卿は、ぶん殴られたことを気にしていなかった。

 他領の騎士や従者たちが「これ以上の乱闘はなりませんぞ!」と、右左から鋭くたしなめてきたし。殴られはしたが、殴り返しはせず、代わりに


「申し訳ござらん。わがはい、思ったことが率直に口に出るたちなのでござる!」


 と頭を下げてくるのだ。

 顔真っ赤にして唸るバーチバル卿も、(やっぱり左右から小突かれて)謝罪を受けいれる、と言わざるを得ない。

 その間にも、次々に名前と金額は読み上げられてゆく。

 大将トエテジル伯は、ひげを撫でながら「ワシ、超平気じゃもーん」の顔をしていた。

 近所の領に声をかけて、貴族と従者と物資を集め、書記官はいないので伯爵の執事に物資の采配をさせ。

「まだ三番草も刈ってないのに!」

 と悲鳴を上げる農民を、剣と槍で脅して立ち退かせ。会戦場を確保したらしたで、荒廃作戦の戦利品をまたまた執事に記帳させ(後で公平に分配せんといかん)。

 せめて軍の采配くらい、自分が頑張らねば、とちょっぴりワクワクしていたら、王軍派遣の参謀とかいう甲高い声の中年男が

「軍略については、国王より私が直々に指示を承りました」

 とか言ってやることなし。

 つき従ってきた者はトエテジル伯が責任者だと言い、何かと苦情を持ち込む。

 軍の権能は、実質、自分のものではない。

 「ワシ、超平気じゃもーん」という顔はしていたが、その内心たるや平気とは程遠かった。

 

(なんでこげえクソ早く、捕虜交換の条件だせるの?おかしくない?ていうか書記官が倒れてんじゃない?うちの軍は死者数えるのさえ、始まっとらん。お前らが来たもんだから招集かけたけど、体裁もなんもあったもんじゃねーんだよ!)


 苛々を抑えながらも、じっとしていれば頭脳は働くもので。

 

 「書記官ぶっ倒れてね?」

 

 の答えは、自ずと明らかだった。

 

 「書記官がたくさん居るんだろう」

 

 で、ある。開戦前に偵察した通り。戦闘員、非戦闘員、どちらも数の差は歴然だったのだ。ソルメド王国が1なら、ベルシーニ王国は3。実際にはうちの軍500(非戦闘員こみ)対ベルシーニ側2000(戦闘員のみ)だった。それでも、王軍から派遣された参謀は全軍での徹底突撃を主張して、伯は従わざるを得ないわけで。


(王のバカ!バカ!バーカ!)


 子供じみた罵声を脳内で再生していると、紋章官は仕事を終えてこちらに一礼してきた。


「トエテジル伯。我が主、ラバス公トーレイ閣下は、19日の停戦期間を設け、その間はこの地にとどまって傷病者の手当てを許可します。貴国の側からの捕虜交換のご提案は、いつでもお受けいたします。停戦交渉は明朝より行ってよろしいでしょうか」


(あっこれ、提案の形を取っているけど、ワシに選択の余地が無いやつ。)


「うむ、構わぬ」


 重々しく頷いて見せつつも、ワシは『敗軍の将』なんだなぁと、ひしひし感じるトエテジル伯。王軍参謀が出てくる前に、とっとと帰ってもらいたい。

 紋章官はかるく咳払いして、さらにこう告げた。


「ベルシーニの古例に則り、敗残の軍に略奪をさせぬよう、食料や運搬具を提供する用意もあります」

「そのように過分な───」


 そこまでされると、プライドが瓦解しそうで嫌なのだが?

 

 トエテジル伯をさえぎるように、紋章官はひときわ声を大きくする。


「ラバス公は”獣身御供(じゅうしんごくう)”のないよう、目を配るよう特にお申し付けになりました」

「う、うむ」


 目を配る、つまりがっつり監視するぞ、という訳か。ここで下手なことをすれば、敗戦が虐殺になりかねん。

 一礼した紋章官と、空荷の手押し車を押す従者が出て行くまで、天幕の中は誰も何も言わなかった。

 その沈黙を、後ろの方に居る甲高い声が破るまで。


「いくら敗北したとはいえ、我が国のならいに、勝手なことを押し付けられるのは──」


 トエテジル伯がサッと立ち上がり、椅子がわりにしていた木箱を蹴り飛ばした。

 

(あー面倒なやつがでてきた!)


 木箱が転がると同時に、伯は天幕をぐるりとにらむ。

 

「承諾したもんは仕方ない!異議ある者から、”獣身御供(じゅうしんごくう)”になってもらおうかの!

さ、異議申し立ては?」


 特に、甲高い声の王軍参謀が居るあたりをにらみつけながら。参謀の前にいた人々が、視線を避けて脇に身を寄せる。


「異議申し立ては?」


 正面からにらまれて、かつ、「これ以上もめ事はいらん」「てか王都の参謀ウゼェんですよ」という、わざと聞こえやすい音量のつぶやきに囲まれて、参謀殿は縮みあがる。


「い、異議申し立ては……」

「あるんかい、ないんかい。あぁん!?」

「ありません!ありませんですハイ!」

「よかろう」


 従者が既に尻の下へと戻してくれている木箱に腰を下ろして、トエテジル伯は貴族たちに、死傷者の確認、捕虜の確認をするよう解散を命じた。

 だが、納得しない貴族が詰め寄ってくるのだろう。

 板金鎧に乳房をつける趣味のある男爵とか。

 トエテジル伯は内心、

 

(このまま飲み会になだれ込んで誤魔化せないかなぁ)

 

 とか思っていた。


ソルメド王国 東側にある小国。”獣身御供”の習慣があり、野蛮な国と思われている。王様からの無茶ブリで開戦。

ベルシーニ王国 西南にある国。モノ・ヒト様々な面で豊か。


従者の名前とか祖獣とかは、次以降のおはなしに。


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