思いの届かない身体
「穢らわしい!平民め!」
あぁ、まただ。と思った。
私はルーナ・レイニーで、
ルーナ・レイニーは今、現在進行形で平民のアリスを怒鳴り付けている。
原因は、アリスと私の婚約者であるルースター殿下が話をしていた、というくだらないものだった。
ここは学校。生徒同士の会話に嫉妬を抱くことほどバカらしいことはない。
たすけて、と言っても私の言葉に誰も気づかない。
「私は公爵令嬢よ!」
ルーナは狂ったように叫び続ける。学校内では身分の差を持ち出してはいけない、という暗黙の了解があるということを、このバカ令嬢は知っているのだろうか。
私の身体は私の言うことを聞かない。私が思っていないことを叫んで、怒って、泣く。
蔑むような殿下の視線が私に突き刺さる。
もう、やめて。たすけて。気づいて…。
いつからだろう。自分の意思で行動ができなくなったのは。どうして身体は言うことを聞かないのか?そもそも、ルーナ・レイニーは私の身体なのか?私がルーナ・レイニーに憑依しているだけなのではないのか?
じゃあ、私の居場所はどこ?
たすけて
たすけて
たすけて
プツン、と私の意識が途切れたらしい、ということがなんとなくわかった