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【完結】聖女なんて破廉恥な役目、全力でお断りします!  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく
第1章 聖女に選ばれし乙女

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8.聖女は馬車から脱走する

 街へ納品に向かう荷馬車に揺られて王都へ向かったクナウティアは、馬車の豪華な内装に目を奪われた。ふかふかのクッションがいくつも置かれ、シート部分も柔らかい。板張りの荷台とは比べられない乗り心地だった。目の前で王太子が渋い顔をしている理由がわからず、困惑しながら窓の外へ視線を向ける。


 流れていく景色は知らない街だ。クナウティアが住むのは、王都アンチューサから馬車で1時間揺られた先にある、城塞都市リキマシアだった。貿易の要であり、王都へ流入する物資の検査や調整を行う街だ。緊急時は砦として王都を守る役目もあった。


 リキマシアとアンチューサの間は、定期便の馬車が行き来している。王都で仕事を得て、自宅をリキマシアに据える商人も多かった。窓から外を眺めるクナウティアの目に、見覚えのある帽子が映る。馬車に乗る列に並ぶ水色のドレス姿の少女は、幼馴染のセントーレアに違いなかった。


 教会で()くしたと思ったお気に入りの帽子を見た途端、クナウティアの頭の中は「家に帰りたい」という願いで満たされる。今日一日何が起きたのか、よくわからないけど……帰って母に抱き着き、ハーブの臭いを胸いっぱいに吸い込みたい。父や兄に騒動を聞いて欲しかった。


 この姿を見れば、擦り傷を心配したセントーレアが塗り薬を分けてくれるだろう。優しい人たちに囲まれて笑う自分が容易に思い浮かんで、口元が少し緩んだ。


 さきほど髪を直してくれた王太子の顔をじっと見つめる。しかし彼は何か考え込んでいて、クナウティアの様子に気づかなかった。腐っても貴族令嬢、男爵家の娘である。最低限の礼儀として、自分より目上の人に勝手に話しかけてはいけないと教えられた。


 いまは聖女である彼女の方が身分は上なのだが、自覚がないクナウティアは男爵令嬢である。声を掛けられないまま、馬車が向きを変えた。ゆっくりと左に曲がった瞬間、これ以上離れたら親友を見失うと慌てる。でも声はかけられない。


 どうする? そこでクナウティアは実力行使に出た。馬車の窓から手を伸ばし、馬車の扉の掛け鍵を外す。考え事の邪魔をしないよう静かに扉を開け、次の角を曲がるために減速した馬車から飛び出した。


「聖女様っ!?」


「馬車を止めろ、急げ」


「彼女を追ってくれ」


 騎乗して付き従う騎士が慌てて追おうとするが、街中で馬を駆けさせるわけにいかない。馬から飛び降りて手綱を馬車に絡めた時点で、騎士達は聖女を見失っていた。王太子が青ざめた顔で馬車を降りるが、すでにピンクブロンドは見つからない。予想外の事態に慌てながら、リアトリスは指示を出した。


「手分けして探せ! 聖女様に何かあれば、我々の首程度では済まぬぞ」


 魔王を倒すために必要な人なのだ。賢者は代理がいる。勇者も召喚し直せばいい。しかし聖女だけは替えが利かない存在だった。慌てて探しに走る騎士は、手当たり次第に路地へ飛び込んだ。馬車の御者にこの場で待つよう言いつけ、王太子リアトリスは追跡用の魔法を展開する。


 右手の中指に嵌まる指輪の宝石が光った。薔薇色の宝石は初代聖女が女神から得たと言われる国宝だ。賢者となる王太子が受け継いだ指輪が示した方角へ、リアトリスは全力で走った。


 路地を曲がり、次の角を左に、そして今度も左だった。どうやら誰かに連れ出されたのではなく、聖女自らの意思で逃げたらしい。追っ手を撒くために建物を回り込むような動きを繰り返しながら、指輪が示した先に荷馬車の群れが見えた。


「まさか……あれに乗ったのか」

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