54.変態騎士に押さえ込まれる勇者
部屋に戻っても口を開かず腕を組んだセージは、全身で拒絶を露わにした。妹を助ける軍に協力はする。魔物に襲われた街を助けに行ってもいいし、必要なら軍に一時籍を置いてもいいと考えていた。しかし事前の報告も相談もなく、自分を「勇者」に仕立て上げるのは間違っている。
だが下手な発言をして、今後のクナウティアの立場を悪くしても困る。王太子の地位を返上したとはいえ、リアトリスが王族である事実は変わらない。不敬罪などを適用され、牢に入れられたら両親に「役立たず」と叱られるだろう。無言の抵抗は、セージの精一杯の抗議だった。
「事前に説明が出来なくて悪かった」
「…………」
ちらっと視線を向けたものの、引き結んだ口も組んだ腕も解かない。この態度自体が十分不敬罪なのだが、セージはリアトリスに対して阿る気はなかった。1人でも戦力が必要な時期に、明らかに強者に分類される俺を外すわけがない。セージの思いは、違う方向で当たった。
すでに勇者にすると発表した以上、魔王との戦い以外のフィールドでセージを退場させるわけにいかない。もし罪状を作って彼を貶めれば、王族はそんなことも見抜けずに勇者に選定した愚か者の集まりだった。病死も同様で、都合の悪い貴族を病死と称して暗殺するこの国では疑いの眼差しは王族へ向けられる。
互いに抜き差しならぬ状態で膠着した現場で、ガウナがリアトリスの護衛として入室した。先日の不祥事の責任を取る形で謹慎していたガウナは、久しぶりに登城だ。当然、クナウティアやセージと顔を合わせていなかった。
ここで場面は大きく動きだすことになる。
「失礼いたします。近衛騎士ガウナ、着任しました」
「ああ、ご苦労。今後は私はもちろん、勇者であるセージ殿の周囲も……」
「あああああぁぁぁ! あの時の! 変態き……」
「っ! それ以上はお控えください」
騎士ガウナの入室で一気に騒がしくなった室内に、他の騎士達が顔を見合わせる。ガウナに今後の護衛対象が増える旨を告げるリアトリスの言葉を、セージが遮った。誰か来たと顔を向ければ、そこには先日リキマシアでセントーレアを追い回した変態騎士がいる。
不名誉極まりない名称を、最後まで言われまいとガウナは動いた。ソファに座るセージの口を物理的に遮ったのだ。がっちり首をホールドして口を塞がれたセージがじたばた手足を動かす。跳ね飛ばすには体勢が悪かった。
「……知り合いか。仲が良いのだな」
きょとんとした顔で呟くリアトリスを、周囲の騎士は一斉に凝視した。どこをどう見たら、この攻撃が仲の良さに繋がるのか。リアトリス王子は優秀だと言われてきたが、ただの世間知らずなのでは? 騎士達の脳裏に、口にできない不敬な意見が駆け巡った。
――この王子で、本当に大丈夫だろうか。




