対決2
続いて2試合目。ステージに現れたのは黒い長髪を、束にして紐で結んでいる細身の背の高い男だった。目は鋭く吊り上がり、ずっと眠っていないのか、目の下には大きな隈がある。
「ケケケ」と不気味に笑うその男を見た瞬間に、リコは自然と身構えてしまうほどだ。
(ちなみに、さっきステージの上で伸びていたゴランは、ホーリーナイト側の傭兵が数人がかりで引っ張って回収された。
「ケケケッ……。俺の名前はケイラ……。ゴランのせいで、今回の俺の活躍はないものかと思ってはいたが……、グランドウルフ側にも、とんだじゃじゃうまが混ざっていたようだな……。ケケケッ!」
ケイラと名乗った男から、やばそうな雰囲気がむんむんと発せられていた。こいつは相手にしてはいけないという、警告さえリコは感じられるほどだった。
ケイラは、随分と余裕のある袴のような服装をしており、剣を帯刀していないところを見ると、服の中に何か仕掛けがあるという事は明白である。
「俺はなぁ……。暗殺を得意とする一族の末裔でよぅ。俺の前に立つ奴は、皆苦しみながら死んでいくんだぁ……。あんたはいったいどんな顔をして死んでくれるんだい……?ケケケッ!」
ケイラが、不気味に笑いながら言った瞬間、戦いの開始のゴングが鳴り響いた。
先手必勝と言わんばかりの素早さで、早速動いたのはケイラだ。
緩い裾の中から繰り出された攻撃は、分銅鎖。しかもその数と言ったら無限に近い。
分銅鎖と言えば、鋭く尖った刃が付いた物や、打撃系の重りや鎌がついた物など様々な種類があるのだが、ケイラはそのすべてを裾の中から出して、攻撃してきた。
まるで蛇のようにうねる分銅鎖を、リコは持ち前の身軽さで避けはするのだが、止まらないケイラの攻撃に、反撃の手段はやはりなかった。
――仕方ない……。もう一度あれを……。
リコはそう思いながら、一瞬の隙を見て、ポケットに入れていた目薬をさした。
――くうぅぅぅぅぅぅ!染みるぅぅぅうぅぅ!
癖になりそうなその痛みに、目を閉じたリコは、
「うぅ……!ぐすん……」
と涙を流してケイラの男心の誘惑を心みたが、
「ケケケッ!そんな小賢しい真似、私に通じるか!」
ケイラはそう言うと、リコに向かって鎖窯を投げつけた。
目を一瞬、開けたおかげで瞬時に避けることが出来たリコだったが、そのままステージの上を転がった。
――やっぱり、同じ手は通じないか……。
そう思いながら唖然とするリコに、ケイラは再び不気味な笑い声を発した。
「ケケケッ!我ら一族は、先祖代々、赤子の頃より優秀な者のみを生存させて来た。故に私には兄妹など存在しない。私こそが一族、最強なのだぁ!」
ケイラが叫ぶと、また分銅鎖での攻撃が始まった。
攻撃手段の無いリコは、この戦いは不利である。しかも、レイに教わっていた秘策の泣き落としも、ケイラには不発に終わってしまった。このままでは敗北は必須だ。
何かこの状況を覆すだけの手段はないものだろうかと、考えながらもケイラの攻撃を避け続けるリコだったが、さすがに息もあがってきていた。
「ケケケッ!今度はどんな泣き顔を見せてくれるんだい?その顔をもろとも、俺の鎌で引き剥がしてくれる!ケケケッ!」
不気味に笑いながら、攻撃を続けるケイラ。
そんな時、リコはあることに気が付いた。
――確か、この人。兄弟がいないとか、さっき言っていたような……。
リコは考えながら、多少不安ではあったが妙案を試してみることにした。
向かって来るケイラの目の前で、リコはポケットにしまった目薬をさすと、その場でうつむき、涙を流しながらこう言い放った。
「ケイラ、お兄ちゃん……!」
リコがそう言った瞬間「ぐはぁぁ!」とケイラは叫ぶと、彼もゴランと動揺、何か燃え滾るような熱い思いを感じ、集中力は途切れ、全身の力が抜けてしまったためか、握っていた鎖は自分が意図しないあらん方向へと飛んでいく。
「何!?」
ケイラが気が付いた時にはもうすでに遅い。鎖は自分の身体に巻き付き、いつの間にやぐるぐる巻きなってしまい、立っていることはおろか、身動きすらできなくなってしまった。
ステージの上で、まるで芋虫のように鎖で巻かれているケイラをリコは見下ろし、涼しい笑顔をしながら
「ケイラお兄ちゃん……。じゃあね……」と言ってパンッと一発殴ったことによって、ケイラは意識を失った。
「またもや、この戦いに勝利したのは、リコ選手だぁ!会場の皆さん、この戦いの勝者に大きな拍手と歓声を、お願いいたします!」
リコの勝利で、会場内は、再び沸き上がった。それに答えるようにして、リコは手をあげる。
――本当に、こんなんで良いのかな……。
リコの表情からは、自然と苦し紛れの笑みがこぼれたが、「まぁ、いっか……」と小さくつぶやいた。
一方、鎖でぐるぐる巻き状態で、ステージの上で気を失うケイラは、
「妹属性……。最高……!」
とかすかな声を発するのだが、盛り上がった会場の観客席の声援で、かき消されてしまった。




