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第1章 傭兵の弟子


 陽が登りきった昼過ぎのことである。

 石の煉瓦で出来た古い街並みを、散策しながら進む少女がいた。


 この国では珍しい桃色の短い髪に、可愛らしい見た目をした彼女は、初めて来たこの街を物珍しそうに見渡しながら、大通りのとある建物の前で足を止めた。


「おっきい……」


 つい口からこぼれた言葉通り、目の前にある建物は、石材と木片が組み合わさって出来た、3階建ての縦にも横にも広い建築物だった。


 古いアンティークで出来た両扉の上には、盾と2本の剣が交差した紋章が掲げられており、『傭兵ギルド マハルド』と書かれてあった。


「ここが傭兵ギルドか……」


 ほへぇーと、呑気に見上げていた少女は、そう言ってギルドの中に入ると、そこは酒場と役所が併合したような造りをしていた。


 ギルドのロビーは、1階から2階までが突き抜けになっており、酒場に置かれたテーブルでは、昼過にも関わらず、傭兵と思しき男女が、酒の入ったジョッキを掲げて顔を赤くして騒いでいる。


 『傭兵ギルド マハルド』そこは由緒のある古い街にある、傭兵ギルドだった。

 ここでは主に、新米の傭兵が仕事を求めて集まるため、ここのギルドも初中級向けの仕事を優先的に集めて斡旋を行っている。



 少女は少しだけ緊張した面持ちと、想像していたよりもギルド内の気軽な雰囲気に、戸惑いを覚えながら、受付カウンターまで行くと、そこには20代そこそこのきれいな受付嬢が立っていた。


「あの、新しく傭兵になりたいんですけど……」


 少女は今回、このギルドに来た目的を話すと、受付嬢は後ろの棚から1枚の布紙を取り出して目の前に置いた。


「では、これに必要事項の記入をお願いします」


 愛想笑いを浮かべた受付嬢に、受け取った布紙に、少女は視線を落とすと、その冒頭には『傭兵連盟加入願い』と書かれてあり、続いて氏名や年齢、出身地域を記入する欄があった。


 布紙を手に取った少女は、近くにあった羽ペンを手に取ると、文字を走らせる。



 ――傭兵という職業がある。


 一般的には、国同士の戦争が始まった際に、臨時的に徴兵される人達のことを呼んだ。


 彼らは国に対して、直接的に契約を結び、敵と戦い対価を受け取る。


 傭兵が求めるものそれは、わずかな報酬と大きな名誉。


 そう言われてきたが、立身出世の機会がほとんどない世の中では、職にあぶれた荒くれ者が、次々と有名になるために傭兵を志すようになった。


 そして、傭兵と言う仕事の幅が広がりを見せたのは、つい最近のことだった。

 今まで傭兵と言えば、戦争時の人数合わせもとい、戦いの駒として、蔑まれてきた。


 だが、戦争が起きない平時に、暇を持て余した傭兵達が、もともと冒険者と呼ばれる人達が請け負っていた魔物討伐や、素材採取などの仕事も積極的にやりだした。


 そのため、冒険者の需要は次第に減り、今では傭兵業の一部として吸収されてしまったのだ。

 

 なので、今では冒険者を名乗る者はいない。



 勿論、傭兵と言っても仕事のスタイルは人それぞれである。


 戦争時に参戦する人もいれば、村や領主の依頼のみを請け負う冒険者のような人達もいる。なので、各方面のプロフェッショナルも少なからず存在していた。



 近年では傭兵の利便性と柔軟性を考慮し、各地で傭兵ギルドなる者が次々と発足し、それら一帯を取り仕切るのが傭兵連盟と呼ばれる組織になっている。


 所謂、傭兵連盟とは、各傭兵ギルドを取り仕切っている最高機関という訳なのだ。


 新米の傭兵は、まず傭兵連盟に登録することによって、各ギルドから依頼を仲介してもらい、少しずつ売名していくことになる。



 書き終えた布紙を少女は差し出すと、それを受け取った受付嬢はにっこりと微笑んで、簡単に傭兵に付いての説明を始めた。


「仕事の依頼は、向かい側の掲示板に貼ってあるので、なるべく自分の力量に見合ったものを受け取るようにしてください。新人の方は出来れば誰かとパーティーを組むか、ベテランの方の弟子入りをして、経験を積んでいくことをおすすめします。そうでもしないと、何も知らない新米なんて、魔物に食われて一瞬で死んでしまいますからね……」


 あははと笑う受付嬢に対して、少女は苦笑いした。


「そ、そうですね……」

「はい。新米のくせに、やれ英雄になるだ、やれ伝説の傭兵を目指すだと言って、次の日には棺桶の中に入っていることなんてしょっちゅうですから……。まったく、事後処理をするこっちの身にもなれっつーの……」


 少女は、受付嬢の最後の一言だけは、聞かないことにした。


「ちなみにあなたは、そんなことにならないように、しっかりとした準備はしたから依頼を受けるようにしてくださいね……」


「あ、はい。分かりました……」


 少女が曖昧な返事をすると、受付嬢は改めて受け取った布紙に目を落とした。


「ところで、あなたの名前は、えーと……」

「あ、リコです。リコ・ヴィルカ」

「失礼しました。リコ・ヴィルカさんですね。ところで、リコさんはすでに誰かとパーティーを組む予定はおありですか?」


 その質問に、リコと呼ばれた少女は、こくりと頷いた。


「はい、すでにとある人の下で修業しています。だから大丈夫です」

「そうですか……。それではリコさんにこれを差し上げます」


 そう言うと、受付嬢はカウンターの下の引き出しから、銀色に輝くタグを取り出して置いた。


「えーと……、これは?」

「これは傭兵である証のような物です。このタグを見せれば、各地にあるギルドでの依頼を受けることが可能になります。再発行には時間がかかりますので、なるべくなくさないようにお願いしますね……」

「分かりました……」


 タグを受け取って首に付けたリコの様子を見て、受付嬢は最後に


「では、これで新米傭兵の手続きはすべて完了です。お疲れ様でした……。他に何か聞いておきたいことはありますか?」と質問をした。


 すると、リコは一瞬だけ掲示板の方を見渡したかと思うと、受付嬢に向き直り


「あの、ゴブリン退治の依頼は、ここに置いてありますか?」と聞くと、案の定、受付嬢は首を傾げて「はい?」と聞き返してきた。




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