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第2章 傭兵ギルド


 塗装のされていない街道を、馬車は土煙を上げながら進んでいた。


 目的地は、ベルリラと言う都市だ。


「お客さん、そろそろ都市が見えてくる頃だぜ!」


 馬主の男が声を張り上げながら、客席に声をかけると、転寝していたリコはふと目を覚まし、隣で眠っているレイに「師匠……」と言って肩をさする。だが、大きな口を開けて「ふがぁ……」と気持ちよさそうに眠っていたため、そのまま寝かせておくことにした。


 リコが客席から外を見ると、海岸沿いから弧を描くように建てられた高い壁が、丘の上のここからでも見ることが出来た。


「すごい……!」


 自分が思っていた何十倍も大きな都市を見たリコは、感動しながら口に出す。


「お嬢ちゃん達は、ベルリラには観光かい?」


 そんなリコを見ていた馬主は、聞いてきた。


「えぇ……。まぁそんなとこです……」


 すると、馬主は上機嫌で笑った。



 大商業都市ベルリラ。通称『千年の都』


 大陸から伸びた3つの河流の合流地点であり、すぐそばに海岸があることから、クリフトラの商業の要として誕生した。


 都市の人口は、約10万人と多く、ここでは大陸中に伸びた水路から、様々な物や食物が集められ、港から別の大陸へと運ばれて行く。


 そのため、ベルリラの港では、ひっきりなしに貿易船が出入港を繰り返し、街には様々な人種の人が多く行きかい、毎日がお祭りのように、賑わいを見せる事でも知られている。まさに、このためだけにベルリラと言う都市は誕生し、諸外国からは、ここはまるで夢の国だとも呼び声が高い。



「この時期に、ベルリラに来る人は結構いるからね~。もしかしたら、お嬢ちゃん達も傭兵達の闘争見物かい?」


 リコは首を傾げ「……それは、どういうことですか?」と聞くと


「あれ、お嬢ちゃんベルリラの名物を知らないのかい?ベルリラではこの時期になると、2つの傭兵ギルドがお互いのしのぎを削って、都市最強のギルドを決めるんだよ。昔はそれで都市を半壊させたなんて話聞くけど、規約(ルール)が整備された今じゃ、ベルリラの名物の1つさ」


 そして、馬主はまるで自分のお宝を見せる子供みたいな目をして、さらに説明を続ける。


「ベルリラの傭兵ギルドと言っちゃぁ、昔は世界中からの有力者からも、一目置かれるくらい最強だった。だが、その7代目ギルドマスターが死んじまった時、うっかり誰をギルドの後継者にするのか、決め損ねちまったらしい。


 俺は、傭兵のことなんかよく分かんねーけど、普通は同じギルド所属の最も強い奴を、マスターに据えるらしいが、めんどうなことに当時傭兵ギルドには、ナンバー2が2人もいて、どちらもひけをとらないくらい強かった。

 中でもギルドマスターに名乗りを上げたバング・バルコッサなんか、グランドマスターの称号持ちで、強気をくじき、弱気を助けるその様は、男なら誰でも憧れを抱き、女なら彼の魅力に参って失禁するほどだよ。

 それに対抗していたのが、もう1人の実力者、クラリエ・トリス。赤き妖女とも謳われた彼女は、言葉巧みに相手を説き伏せ、森羅万象のごとき頭脳には、誰もがひれ伏し王族からも教えを請われるほどだった。しかも剣術の達人と知られる彼女の容姿を見た瞬間、男ならまるで妖術にかけられたように惚れちまい、通りすがった雄犬ですら、発情しちまうんだとさ……」


 後半、何を言っているのかさっぱりだったが、リコは興奮気味で語りだす、馬主に向かって「はぁ……?」と溜息をもらした。


 だが、そんなリコを見向きもしない馬主は、さらに力強い口調で話を続ける。


「しかし、この2人の仲は、お世辞と言っても良いとは言い難く、普段から殺し合い寸前の喧嘩をしているほどだ。しかも、後継者争いは、それから30年も続き、噂では都市が丸ごと吹き飛びかけることもあったらしい。

 そんなギルドで勃発した後継者争いを見兼ねた時の王様は、ベルリラの都市にギルドを2つに増やすことを提案して、この2人はその提案を飲んだ。これで2人の争いは終息するのかと思いきや、次はどちらがベルリラ最強の傭兵ギルドかって、今でも争っている始末だ。そんなんだから、クリフトラの王様も、もう、呆れてるんじゃないかな?」


 ――ほんと傭兵と言う奴は……。と、馬主の話はあきれてくるような内容だった。


「ちなみに、今ではお互い最低限の規約を決めることによって、都市壊滅まで行くことはねぇな……。しかも、ベルリラの領主に関しては、今では年に2回ほど勃発する傭兵同士の戦いをネタにして、観光客を呼びまくってるから、大したもんだよまったく……。

 戦いに関しては完全に、気が向いたら始まる感じだから、いつ開催されるかしんねえけど、もしよかったら、街の闘技場に顔を出してみな。きっとお嬢ちゃんも興奮するぜ……」


 馬主の話に、「じゃあ、時間があれば……」と答えていると、リコ達を乗せた馬車はベルリラの門の前までたどり着いた。


 ベルリラを囲む壁は、2階建ての家が5つ分すっぽりと収まってしまうくらい高く、門に関しては頑丈で、200人の男手を持って開聞することが出来るらしい。


 いったい、どこの巨人と戦うというのだろうか、とも思うその造りには、感銘を受けるほどだ。


「おおきぃ……」


 馬車を下りたリコは、目を丸くしながら見上げていると、操縦席で眺めていた馬主は

「千年の都、ベルリラへようこそ……!」とそう告げた。




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