レイと言う傭兵
早朝。空がうっすらと青くなってきている中、ギイヴが告げた時刻に近づいて来た。
結局のところ、リコの心配とは裏腹に、レイは少しだけ遅れて村に戻って来た。
レイの表情には疲れが見え隠れし、今にも眠ってしまいそうなくらいうとうとしている。
身に着けていた彼の服には、ゴブリンの返り血がちらほらと見えるものの、本人には怪我はないようだった。
――いったいどうやったんだろう……?
リコは、疑問に思わないこともなかったが、――そんなことより……と思いながらレイの元に近寄ると、飛びつく、のではなく思いっきり飛び蹴りをかました。
突然のことで全く反応できなかったレイは、「ぐはぁ!」とその場で転がりながら悶えた。
「何すんだよ、この野郎!」
「ほんとバカ!師匠のバカ!すごく心配したんですからね!」
「バ、バカとはなんだ?というかいきなり飛び蹴りって……お前。それが徹夜で仕事頑張った俺に対する仕打ちかよ!」
「師匠のバカ!でも、無事に戻って来たから、許してあげます。お疲れさまでした!」
ふんっと腕を組みながら言うリコに「はぁ?なんだよそれ…」とレイは苦笑いした。
2人のやり取りを見ていたギイヴは、門の前に立つとレイとリコに口を開く。
「取引通り、ゴブリンの残党を片付けてくれたようじゃな……」
ギイヴの言葉に「あぁ」とレイは頷いた。
「では約束通り、この娘を開放し、お主が言った通り報酬も2倍支払おう……。だが、もしもこの村の秘密を漏らすようなことがあれば、我ら一族は必ずお前を見つけ出し、殺してやるから覚悟しておけ……!」
ギイヴは、険しい顔をしながらそう言うと「あぁー、分かったよ…」とレイは前置きし
「つーかそんなことしねーよ…」と言ってソルベ村の門の前に、ずっと停めてあった馬車へ向かった。
「リコ、街までの馬車の操縦は頼んだ…。俺は寝る……」
馬車までたどり着くと、レイはそう言って馬車の荷台にと敷き詰められた藁に寝転がった。
「え、私ですか?操縦、したことないんですけど……」
「こんなの、適当にすればいいんだよ……!適当に……ふぁ……」
あくびしながら、すでに寝る体制に入るレイ。御車席に座ったリコは、不安を覚えながら手綱を手に取った。
「適当って……。事故しても知らないですよ!」
リコはそう言って、馬の扱いを教えてもらうことなく、馬車を走らせた。
レイとリコがソルベ村を去って行くのを見届けながら、カンジは少しばかり物思いにふけっていた。集まっていた男衆は、とんだ台風が訪れたものだとせいせいしながら、自分の仕事に戻って行く。
「村長、大切なお話があります…」
去り行く中、カンジはギイヴを呼び止めた。
ギイヴはきょとんとした表情で「なんじゃ?」と首を傾げると、カンジは真剣なまなざしでこう言う。
「俺、この村を出て行こうと思います……」
――少しだけ、外の世界を見てみたい。
カンジは心の中でつぶやいた。




