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どんぐり神社のちっちゃな神様

作者: てるる

「ねぎ(禰宜)」というのは「かんぬしさん」で

「げき(巫覡)」というのは「おとこのひとがやる、みこさん(巫女さん)」

「くり(庫裏)」というのは「おてらやじんじゃの、おきゃくさんのへや」

「しで(紙垂)」というのは「しめなわにぶらさがった、カクカクおれた紙」です




ちっちゃなちっちゃな 島にある

ちっちゃなちっちゃな ひがしの村の

どんぐりなる木にかこまれた

ちっちゃなちっちゃな 神社のおくの

これまたちっちゃな はいでんで

神様けんてい 受かったばかり

ちっちゃなちっちゃな 神様が

きょうもごえんを むすびます



ちっちゃなちっちゃな 神様が

まだ神様では なかったころに

こわいおばけが 島にきた

ざんざぶざざんと なみにのり

きぎれいたきれ つかまって

海をわたって 島に来た

まっくろくろの かげおばけ


島のどうぶつ みなにげた

きのかげ はのした つちのなか

いちもくさんに にげだした

とくにげ はよにげ かくれよと

みんなあわてて にげだした


それでもちいさな どうぶつは

ぷるぷるふるえて うごけない

あしがすくんで うごけない

島のひがしの もりのなか

ひとりぼっちの ちっちゃな子

こわいおばけに いじめられ

なみだぽろぽろ こぼしてないた


「えーん えーん どうしよう

こわいよだれか たすけてよう」


「がははは ははは おいつめた

おれさま おまえ まるかじりー!」


こわいおばけに おそわれたのは

ちっちゃなちっちゃな りすの子でした

ひがしの村の ちんじゅのもりで

どんぐりみのる ちょっとまえ

おおきなあらしが やってきて

いつも子りすを 守ってた

つよくてやさしい かあさんを

とおくへとおくへ とばしてしまい

あわれりすの子 ひとりぼっち

おなかをすかせて ひとりぼっち


くろいおばけはどんぶらこ

きぎれ いたきれ ふねにして

うみをわたって きたばかり

いばりんぼうの かげおばけ

しまのどうぶつ おいかけて

ふるえるりすの子 おいつめた


「うまそうな ちび みつけたぞ

おれさま がぶがぶ たべちゃうぞ!」


おおきなおくちを かぱりとあけた

こわいおばけに にらまれて

ちっちゃなちっちゃな りすの子は

こわくてこわくて ぷるぷるぷる

しっぽがぶわっと なりました

なみだがぽろぽろ こぼれてきます


「ぼくまだうんと ちっちゃくて

たべるところが ぜんぜんないよ

たべてもぜったい おいしくないよ」


ふるえる子りすは たのみます

おねがいだから たべないで


そこへたったか かけあしで

りすの子たすけに やってきた

とってもとっても たのもしい

村のふたりの 女の子


「子りすをいじめる わるいやつ!」

「たたいてけって やっつけよう!」


「やあっ!」「たあっ!」「とおっ!」

と いさましく

「こっちにくるな あっちいけ!」

「わるものくるな 島でてけ!」


大きなおかっぱ 女の子

りょうてふりあげ ぽかすかどん

にぎったぼうで おばけをたたく

小さなみつあみ 女の子

かけあしのまま とびだして

ふたつのあんよで おばけをけった


「あいたたいたた こりゃたまらん

なんてことする 女の子!

おんなのくせに なまいきだっ!」


げんきな村の子 女の子

おばけをぼこぼこ とっちめた

ぶたれてけられた くろおばけ

おおきなたんこぶ てんこもり

こんなところに いられるか

くちだけたっしゃに まけおしみ

海のむこうへ どんぶらこ

かっこわるくも にげてった

しりにほたてて にげてった


ちっちゃなちっちゃな りすの子は

ちっちゃなむねを なでおろし

ちからがぬけて こしぬけた

ぺたりとしゃがんだ しましま子りす

女の子たちの かおをみて


「たすけてくれて ありがとう」


ぺこりとあたまを さげました

子りすはまだまだ ちっちゃいけれど

おれいを言える よい子りす


「またまたいやな やつきたら

あたしがぼうで たたいてあげる」

大きなおかっぱ 女の子

にかっとわらって いいました


「またまたいやな やつきたら

あたしがとおくへ けっとばす」

小さなおさげの 女の子

くすくすわらって いいました


「そうだいいこと かんがえた!

ひがしの村の 神社においで」


「あたしら ふたりが いなくても

しょうがっこうに いってても

神社の神様 まもってくれる」


「「おいしいどんぐり いっぱいあるよ」」


なかよしこよしの 女の子

ふたりそろって そう言って

子りすを神社に つれてきた



「そうかえそうかえ

たいしたものじゃ

よりよき“ごえん”にめぐまれた」


神社の神様 いいました


「ここの神社は つかさどる

ひとののぞみの えんむすび

これも何かの“えん“じゃろう

えにしにひかれた りすの子よ

としへたじじいの でしとなり

ここの神社を つがぬかや?」


ちっちゃなちっちゃな りすの子は

ちっちゃなちっちゃな その首を

こてんとたおして かんがえる

きのうのひるより ちょっとまえ

男の子たちが はなしてた

みんなでわになり たのしそに

えんそくもってく おべんとう

おいしいおむすび てんころり

しゃけにおかかに しおむすび

えんむすびって おいしいの?

ぼくもおいしく たべたいなあ


「いやいやりすの子 そりゃちがう

“えんのじ” “おのじ”で おおちがい

むすんでくらうは おむすびじゃ

えんむすびとは ちとちがう」


「えんむすびとは なにかととえば

だれぞとだれぞを つないでむすび

あいみたがいに 引きあわす

わしも子りすも 村の子たちも

ここにこうして 出会えたは

なにをかくそう “ごえん”のおかげ」


「子りすとあえたが わしゃうれしい

りすの子おまえは いかがかの?」


あらしのよるから ひとりぼっち

ちっちゃなちっちゃな りすの子は

女の子たちや 神様が

とってもとっても だいすきに

いつのまにやら なっていた


「あのねのあのね きいとくれ

じいちゃん神様 ねえさんたちも

いっぱいいっぱい だいすきです

じいちゃんちの子に ぼくなりたい!」


「そりゃまた ほんに うれしきことを」

「りすくん りすくん よかったね」

「いっしょにいっしょに あそぼうね」


みんなわらって にっこにこ

子りすのあたまを やさしくなでた


ちっちゃなちっちゃな りすの子は

こころにともった ともしびに

ゆびきりげんまん おやくそく

えんむすびって すてきだな

ぼくもむすぼう すてきな“えん”を

みんなでなかよく できるよに

ちっちゃなしあわせ いのるよに



さてさて神社の 子になった

ちっちゃなちっちゃな りすの子は

じいちゃん神様 もくひょうに

いっぱいいっぱい がんばって

まいにちまいにち しゅぎょうした

がんばりすぎて つかれたら

げんきな村の子 女の子

ふたりであそんで くれました


(どんどんどんぐり こえだをさした

おててでじょうずに まわしてごらん

くるくる くるくる こーろころ

たのしいこまの できあがり)


じいちゃん神様 おしえておくれ

“ごえん”をむすぶの どうやるの?

どのことどのこを むすんだら

にこにこえがおに なれるかな?


「これこれ りすの子 あせるでないよ」

じいちゃん神様 いいました

「おまえがもっと おおきくなって

“へんげ”ができれば むすべよう」


ちっちゃなちっちゃな りすの子は

うんとこやっとこ しゅぎょうした

ちんじゅのもりの おおくすの

はっぱにたまった あさつゆで

ちっちゃな神社の はいでんを

きれいにすみずみ みがきます

ひとにどうぶつ くさきにさかな

島にすんでる みんなのために

こまってないかと ぱとろーる

からだこわして いたのなら

おてんとさまと おつきさま

めぐみをいっぱい はにうけた

やくそうせんじて とどけます

なみだをこぼして いたのなら

たのしいゆめを みられるように

すてきなかおりの はなをつみ

そっとまくらに とどけます


じいちゃん神様 おしごとで

“ごえん”をむすぶに つかうのは

きんぎんすなご あやにしき

あかあおきいろに はなやいだ

いろとりどりの “えん”のいと

たくさんのいとを きれいにならべ

神社のたんすの ひきだしに

とりだしやすく しまうのも

だいじなだいじな しゅぎょうのひとつ

“ごえん”をむすぶ ひとびとに

ぴたりといちばん ふさわしい

いとをすぐさま だせるよに

こころをこめて たいせつに

にじがごとくに うつくしく

かぞえてならべて しまいます


あめのひかぜのひ ゆきのひも

しゅぎょうのひびを りすの子は

いっしょけんめい がんばりました

ちっちゃなからだで なまけずに

まいにちくるくる はたらきました

そんなあるひに やってきた

さんぼんあしの やたがらす

おとどけものだと もってきた

おくちにくわえて もってきた

きらきらひかる そのしらせ


<神様けんてい さんきゅう ごうかく>


やったよ じいちゃん ぼくできた

ちんじゅのもりの あきのひに

ちっちゃなちっちゃなりすの子は

ついになれたよ 神様に


うれしいきもちを いっぱいに

けなみをくしくし ととのえて

ぱたりぱたりと しっぽもゆれる

みんなであつめた ごうかくいわい

しいのみ くるみに くり ぎんなん

どんぐりつまった ほほぶくろ

ぷくぷくふくらみ ごきげんな

ちっちゃなちっちゃな 神様は

ちっちゃなちっちゃな むねをはり

そよぐおひげも ほこらしげ


「よしよし ながねんがんばった

さんきゅう とれれば ひとあんしん

島のなかなら だいじょうぶ

おまえにるすいを まかせよう」


じいちゃん神様 たいこばん

神社のるすばん たのみます


「じいちゃん神様 どこいくの

よるにはかえって くるのかなあ?」


「いやいやりすの子 もそっとかかる

ながねんいけずに あきらめた

<しるばー神様 ゆうゆう会

たかまがはらの おんせんめぐり

どどんとれんぱく ごじゅうねん>

これに行こうと おもうとる」



ちっちゃなちっちゃな この島は

とってもとっても へいわな島で

しんまいさんきゅう 神様の

ちっちゃなちっちゃな りすの子に

おるすをまかせて だいじょうぶ

まわりのやさしい かみさまに

おねがいするから だいじょうぶ

わだつみおじさん おねがいね

おふねがごぶじで かえるよに

ふうじんらいじん おねがいね

あらしを島に あげないで


しろいこなゆき そらにまい

ももいろふんわり さくらがさいて

あおいおそらに とびがまい

あかねにそまる やまもみじ

そしたらまたまた しろいゆき


女の子たちは 大人になって

おかっぱねえさん ふねにのり

島のおそとへ およめにいった


「ねえねえ あたしは いくけれど

うちのおとうと きにかかる

にこにこしてるは いいけれど

ふんわりしたとこ あるからさ

たまには ようすもみてあげて」


「あらまあ そんなの だいじょうぶ

こころのやさしい いいひとよ

あたしはとっても おきにいり」


おさげのねえさん おかっぱの

だいしんゆうの いえへいく

おかっぱさんの おとうとは

こころやさしい はたらきもの

どちらがいうたか しらないが

ふたりはとっても なかよくなって

村の神社へ ごほうこく


「すてきな“ごえん“をありがとう

わたしも およめに まいります」


おさげのねえさん みつゆびついた

すえながながと おねがいします


ちっちゃなちっちゃな 神様は

わがことのよに よろこんだ

うれしいきもちを こめにこめ

むらのあたらし わかふうふ

さちあれかしと ことほいだ


まっしろしろな はなよめさん

ひふみしごろく ななやっつ

ここのつめぐった おつきさま

まちにまちたる たからもの

ふくふく しあわせ つめこんで

ふくふく おなかが ふくらんだ

とつきとおかも はや すぎて

ころころあかちゃん うまれでた


「みてみてりすくん この子みて

あたしのだいじな あかちゃんよ

たくさんえがおに なれるよに

すてきな”ごえん“を むすんでね」


ちっちゃなちっちゃな りすの子は

ねんがんかなって 神様に

やっとこさっとこ なったけど

まだまださんきゅう したっぱです

“へんげ”もじょうずに できません

ちっちゃなちっちゃな りすのゆび

”ごえん“ のいとも むすべない


おさげのねえさん まっててね

もうすこしだけ まっててね

神様けんてい にきゅうになって

“へんげ”もじょうずに できたらば

すてきな”ごえん“ をむすぶから


じいちゃん神様 もどるまで

えいこらやっこら しゅぎょうして

にきゅうになれたら うれしいな

じいちゃんびっくり するかしら


おさげのねえさん うんだのは

ころころどんぐり そっくりな

まあるいこころの 男の子

わかいとうさん そっくりに

ぽやぽやふわふわ ねむそうで

ちからづよくは ないけれど

いつもにこにこ やさしそう


どんどんどんぐり あかちゃんは

へいわな島で すくすくと

みんなにかこまれ みまもられ

げんきにおおきく なりました


ちっちゃなちっちゃな神様は

はやくりっぱな にきゅうになって

“へんげ”でおおきな ひとの子の

なんでもできる ゆびをもち

男の子にも 良い“ごえん”

いっとうすてきな いとえらび

じょうずにきれいに むすびたい

いつもねがって おりました








ああそれなのに それなのに







まっくろくろの おおおばけ

おふねにのって やってきた

島のそとから やってきた

女の人の かたちした

くさいにおいの するかげが


「いやだこわいよ どうしよう

まえきたかげより もっとこわい」


島のどうぶつ おおさわぎ

いちもくさんに にげました

くまもきつねも ことりもむしも

すたこらさっさと にげました


かげがみえない ひとの子は

おばけのすがたが みえません

男の子には おまもりに

やさしいばあさん ついてても

女の人の かたちした

まっくろくろの このかげは

おかまいなしに ちかづきます


「あらあらとっても おいしそう

こんないなかで おもいもよらず

すてきなごちそう みつけたわ」


くされたそのいき ぷうとかけ

ながくてあかい つめのばし

まっくろくろの おおおばけ

まもりのばあさん はがそうと

りょうてでばりばり ひっかきます

男の子まもる ばあさんは

とってもとっても がんばって

たちふさがっては くれたけど

ついにはびりびり やぶかれて

まるめてぷいと とばされました


じゃまなばあさん やっつけて

おばけの3ぷん くっきんぐ

おしおをふって たべましょか

おしょうゆかけて たべましょか

けらけらわらって おおおばけ

あじみをしようと ぺろりとなめる

どんどんどんぐり 男の子

くろいおばけは 目にみえぬ

おなじくやっぱり とうさんも

くらいおばけは 目にみえぬ


まもりがはがれた 男の子

おばけのかみのけ からみつき

ぐるぐるまきの ぱすたみたい

おさらにのせて たべましょか

ちーずをのせて たべましょか

ぼんやりどんぐり 男の子

そこまでされても 気づきません


おとこしゅみんな 気づきません

たよりはおんなしゅ よいおめめ

おかっぱねえさん 気がつきました

うたたねしてた おひるまえ

ゆめのまにまに かいまみた

だいじなおいごが いたばしょは

なんとおばけの さらのうえ


おかっぱねえさん びっくらこ

とびおきすぐさま でんわしました


「もしもし ちょっと たいへんよ

さっきみたゆめ おいっこが

いまにもおばけに たべられそう

むしのしらせと いうでしょう?

すぐにいくから きをつけて

けっしてそばから はなれずに

あたしがいくまで ぶじでいて」


「ねえさんねえさん そうなのよ

じんじゃへいこうと おもってた

ひどいかおいろ してるもの

あのこのまわりが ゆがんでみえる

なにかおかしな けはいがするわ」


ぶんなぐりじょうずな ねえさんは

けとばしじょうずな ねえさんに

すぐにいくぞと たからかに

つたえてそのまま はしりだす

それでも海の むこうから

てつどう おふねで えんやらこ

すぐにはとても まにあいません



ちっちゃなちっちゃな 神様も

こわいのこらえて がんばりました

でもでもぼくは えんむすび

たたかうちからは ありません

おひげもしっぽも しおしおと

ちからおとした そのときに

おかっぱねえさん くるならば

たたかうちからが くるならば

ぼくにもよべるよ 来てもらおう

つよい神様 えんむすぼう!


ちっちゃなちっちゃな 神様は

そのみにゆうき ふりしぼり

ひがしの村から

みなみへにしへ

きたをまわって ひとまわり

つよい神様 いませんか?

まもれる神様 いませんか?

ちっちゃなちっちゃな神様は

いっしょけんめい ちからのかぎり

島じゅうはしって さがします


ところがどっこい どうしたことか

さんぼんすぎの みけばあば

いりえごんたの にゅうどうに

こてんぐいわの ばけがらす

島のぜんぶの神様に

きいてたのんで みたけれど

神様そろって うなだれました


「子りすの神さん むりいうな

わしらもちっとは ちからがあるが

おんなのこごった ばけのろい

あれでは とんと てがだせぬ」


ちっちゃなちっちゃな この島は

とってもとっても へいわな島で

おんせんいった じいちゃんいがい

どの村この辻 ほこらのなかも

ちっちゃなちっちゃな 神様ばかり

おばけをやっつけられそうな

りりしくつよい 神様を

みつけることが できません


ちっちゃなちっちゃな 神様は

なみだをぽろぽろ こぼしつつ

たかまがはらの じいちゃんへ

こえをかぎりに よびかけます


「たすけてたすけて おじいちゃん

ぼくにはまだまだ だめだった

こわいおばけが たべにきた

村のだいじな 男の子

じいちゃんたすけて てをかして」


女の人のかたちした

まっくろくろの おおおばけ

まっかないろの べにさした

おくちをあけて ぷぷうとふいた

くさったような そのいきは

どんどんどんぐり 男の子

まわりをかこんで ひろがりました


くさいにおいが ひろがって

きれいなおはなも かれはてました

はぎききょう くずふじばかま おみなえし

おばななでしこ じゅんばんに

ちゃいろくなって かさりとおちて

じいちゃん神様 だいじにしてた

ちっちゃなおはなも きえました

あんまりまわりが くさくって

ちっちゃな子りすの 神様の

ちっちゃなお鼻も まがりそう


「じいちゃんたすけて てをかして

島のみんなが くされちゃう」



「あなや 子りすよ あが子りす

島をはなれて わるかった

わしはとおくて てがだせぬ

かわりというては ぶれいであるが

ひのもといちの ふるきかみ

ござしょへとびらを ひらこうぞ」


まちにまったる そのこえは

じいちゃん神様 天のこえ


ひびいたとたんに 風ふいた

島にただよう くさいいき

ふきとばそうと ふいたのは

ふわりととっても いいにおい

どこからきたやら いちじんの

すてきなかおりの その風は

おさげのねえさん だいじにしてた

ちっちゃなかわいい おまもりぶくろ

ふくろのなかから ふいてきた

おかっぱねえさん よめいりで

島をはなれる そのときに

もっててくれろと わたされた

京のはずれの おいなりの

あかくてちっちゃな おまもりぶくろ


じいちゃん神様 ありがとう

ちっちゃなおまもりぶくろには

どなたのかごやら しらないけれど

どこかの神様 いらっしゃる

ふるき神様 いらっしゃる

ちっちゃなちっちゃな 神様は

ここをせんとと とびこみました


ちっちゃなふくろの なかにみた

きれいなおやまの そのむこう

くもがたなびく おそらのうえに

ほそいみかづき わらってました

おそらにうかんだ みかづきに

ふわりこしかけ にっこりと

かなたにかがやく 神様は

りっぱなりっぱな ふさふさの

おおきなしっぽを ひとふりし

こなたへまいれと てまねきました


ちっちゃなちっちゃな 神様は

おおきなおおきな 神様の

ござしょへむかって えいやこら

わたぐも すじぐも ひつじぐも

かぜにふかれる そのくもに

きのえだてっぺん ふみしめて

ぴょんたかとんと はねました

ちっちゃなおててと そのあしと

じまんのしっぽを ふりあげて

せいいっぱいに はねました


それでもちっちゃな 神様は

わきたつくもの そのさきの

おつきさままで とどきません

おおきなりっぱな 神様に

おねがいするには たりなくて


しんまいさんきゅう 神様は

まだまだ天には のぼれません

あんなにあんなに たかくまで

子りすのからだは とどきません

なんかいはねても とどかずに

なみだがでそうに なりました


よわむしけむし あっちいけ

おそらのうえまで ぼくいくの

おおきなりっぱな 神様に

だいじな“ごえん”を むすびにいくの


うつむくこころを ふりはらい

ちっちゃなおててで ほほたたき

おやまのうえまで のぼります

おやまのうえなら とどくかな?

おつきさままで とどくかな?


ちっちゃなちっちゃな 神様は

こころにとりつく よわきむし

ほどいてかじって ひっぱって

てっぺんめざして はしります

おおきなりっぱな 神様へ

やさしいかおりの 神様へ

“ごえん”よ とどけと がんばりました


とがったこいしや くさのとげ

どろですべって ころがって

がけにてをかけ たきにはうたれ

のぼっておちては またいどみ

ちっちゃなちっちゃな りすの神

ちっちゃなてあしは きずだらけ

いたみになきそに なりながら

やまのてっぺん そのまたさきの

おつきさままで とどくよに

どろにまみれて ちだらけで

いっしょけんめい がんばるけれど


おまえになんか むりだよと

かくれてにげて しまおうと

こんなにいたい おもいして

“ぼく”がやること ないじゃない?

こころにそっと しのびよる

ぼくのふりした にせものの

よわきのむしが からみつく

とえにはたえに からみつき

“ぼくはちっちゃい”

“ぼくなんてだめだ”

“だれかがやるよ“

“もうやすもう”

みみにあたまに はいりこみ

こころがおれそに なるけれど

だいじなだいじな みんなの島を

じいちゃんかえる そのひまで

ぜったいぜったい あきらめない!



「あたらし神よ わかき神

むりをさせたの すまなんだ

われがそちらへ いきやろう

ちいさき体で ようきたな」


ふかくひびいた やさしいこえの

おおきなりっぱな 神様は

ふわりとまいおり そのゆびで

ちっちゃなちっちゃな 神様の

じゃまするよわきを ざんばらり

にのしのやーの じゅうとろく

こまかくちぎって なげすてました

ざわざわあたまで うずまいた

うるさいこえも なくなりました

やさしいひかりに つつまれて

てあしのきずも うそのよう

みるみるきれいに なおります


おそばでみあげる 神様は

あまりにおおきく ごりっぱで

ちっちゃなちっちゃな 神様は

おそれおおくて ことばもでません


「これこれあたらし ちさき神

かんなんしんくを のりこえて

われのもとまで 来やったろう

なんぞいいたき ことがあろ?」


「そうですそうです おねがいが

おねがいしたくて ここまできたの」


おそれをはらい りすの子は

こころをこめて たのみます


「ぼくらの島の ひがしの村に

こわいおばけが やってきて

だいじなだいじな 村の子を

くさいにおいで ぐるぐるまいて

ほねまで食べよと ねらってる」


てをふり おをふり はなします


「じいちゃん神様 おでかけで

島にはちっちゃな 神様ばかり

ぜんぶの神様 あつめても

こわいおばけに かなわない」


「おおきな神様 おねがいします

島をたすけて くださいな

村の子たすけて くださいな」


「あたらし神よ ちさき神

そなたのゆうき しかとみた

いっさいがっさい このわれが

悪しきをはろうてやるほどに」


「しからばほうれ このわれに

えにし ひとすじ むすぶがよいぞ」


ちっちゃなちっちゃな 神様は

だいじにかかえた “えん”のいと

とびきりかがやく とっときの

いとをてにもち おおよわり

おおきなりっぱな ふるき神

あまかけわたる おおぎつね

それはあまりに ごりっぱすぎて

どこへむすべば よいのやら


ちっちゃなちっちゃな そのゆびで

きらきらひかる “えん”のいと

おそでのはしが いいかしら

おぐしのさきが いいかしら

まよえるちっちゃな 神様に

きつねの神様 ほほえんで

りっぱなしっぽを ぱたりとよせます


ちっちゃなちっちゃな 神様は

ちっちゃなちっちゃな りすのゆび

じょうずにむすぶは できないけれど

おおきなきつねの 神様の

りっぱなりっぱな しっぽのさきへ

いっしょけんめい むすびます

きらきらひかる “えん”のいと

からまぬように とどくよに


「かさねてすまぬが ちさき神

われはこのちを まもるもの

このみで島まで わたりえぬ

かわりにわれの つかいとげきと

まきょうもたせて やるほどに」





おおきなきつねの 神様は

ほかにいくつも ”ごえん“のいとを

そのみにつないで おりました

ちっちゃなちっちゃな 神様が

むすんだいとの すぐとなり

もひとつつながる “えん“のいと

ずいぶんまえに 島をでた

おかっぱさんの とつぎさき

なよたけかぐやの たけばやし

こみちをたどった そのさきの

あかいとりいの おくにある

おいなりさまに つづいてました


おやしろまもる わかきねぎ

うりざねがおの ほそおもて

そのめもすずしき やくしゃがお

おかっぱねえさん ひとめぼれ

おひゃくどふんで おいかけました

おいかけまわして つかまえました


あねさんにょうぼに おさまって

しっかりこさえた あとつぎは

とうさんゆずりの あいらしさ

おおきなきつねの 神様の

いまいちばんの おきにいり


むしのしらせと ゆめにみた

島にのこした おとうとと

だいしんゆうの まなむすこ

いのちにかかわる いちだいじ

ここで行かねば 女がすたる

おかっぱねえさん てきぱきと

いくさじたくを ととのえて

わが子にこえを かけました


「あんたのいとこが たいへんよ

かあさんいそいで いくけれど

いっしょについて きてくれる?」


おいなりさんの あとつぎは

まだまだしょうがく よねんせい

こわいおばけの そばにまで

つれていきたく ないけれど

うかのおおかみ かんなぎの

ひときわたよれる 男の子


「しんぱいせいで おかあはん

ウチの神さん おおきゅうて

たよりになるんは わかるやろ?」


「せやし これから いきまひょか

おるすをたのむわ おとうはん」


おおきなきつねの 神様の

うかのかみから あずかりし

ちいさなおかがみ くびにかけ

めざすはおかっぱかあさんの

うまれそだった 島の村


えにしつながば とくいそげ

どんどんどんぐり 男の子

くわれぬうちに まにあうように



いっぽうそのころ 島にある

ちんじゅのもりの おやしろに

どんどんどんぐり 男の子

まもってくれろと たずねきて

とうさんかあさん うちそろい

神様たよりに やってきました


「村のちんじゅの 神様に

おんねがいをば たてまつる」


わたのはらから やそしまかけて

わきめもふらずに かけもどり

ちんじゅのもりの おやしろで

ちっちゃなちっちゃな 神様が

むかえうつのは おおおばけ

どんどんどんぐり 男の子

たべてやろうと ついてきた

まっくろくろの おおおばけ

神社にいれて なるものか

ぱらりぱらぱら どんぐりこ

どんぐりつぶてで ぽんつくてん


「やめてこないで あっちいけ

うちの島から でていって!」


ちっちゃな神様 ふるえつつ

どんぐりかかえて たちむかう

おおきな神様 つかわした

たすけがくるまで まだかかる

ここにはぼくしか いないのに

うじこのまえで おびえてちゃ

にきゅうになんて なれません

るすばんしてる おやしろに

おおきなおばけが きたならば

ちっちゃな神社が つぶれちゃう


ちっちゃな神様 なみだめで

みんなをまもろと かけまわる

ふくらむしっぽも ぶんぶんと

ちっちゃなおててと そのあしで

ぐるぐるぐるぐる かけまわる

おめめもぐるぐる まわりそう


いっぱいあつめた どんぐりこ

ぱらりぱらぱら おにはそと

やめてこないで おにはそと

ちっちゃなりすの そのゆびで

おにはそとったら  お に は そ と ----!!!



ちっちゃな神様 せいいっぱい

しにものぐるいで どんぐりなげます

ぱらぱらぱらり ぽんつくてん

おばけのみえない とうさんと

やっぱりみえない 男の子

ふたりそろって ふしぎがお

なんでこんなに どんぐり ふるの?


おさげのねえさん にがわらい

「ここの神社の 神様が

あんたをまもって くれてるの」


そこへひびいた かろやかな

けいたいでんわの ちゃくしんおん

てんてけすちゃらか すってんてん

まいしゅうおおぎり たのしみな

おわらいばんぐみ てーまきょく

おさげのねえさん ぽっけから

とりだしひらいた そのときに

ふわりとながれる さわやかな

風があたりを ふきぬけます

とりいのむこうの おおおばけ

すてきなかおりの かぜをうけ


「あらやだなあに? このかぜは

きにいらないったら ありゃしない」


したうちしながら かおしかめ

神社のなかまで はいれずに

さんびゃくろっけい とりいから

もりのむこうに にげました

いまいましそうに にげだしました


「しばらくそっちに いかいでいたら

あにさんえらいのに すかれたなあ」


「ウチとおかあはんが いくよって

あすまで あんじょう おきばりやす」


どんどんどんぐり 男の子

けいたいとおして たのもしき

とししたいとこの こえきいて

ふわっと きもちが らくになり

どれほどからだが よわっていたか

いまごろきがつく ていたらく


ちっちゃな神社の はいでんで

あすのあさひが のぼるまで

おいのりしながら ひとばんじゅう

たのみのつなは ごくぶとの

おばさんおやこを まちわびます



おおなみこなみを のりこえて

おおきくりっぱな 神様の

おつかいぎつねを したがえた

おいなりさんの あとつぎと

おかっぱねえさん ふねにのり

あさひとともに 島にきました


ふねのへさきで ねえさんは

ながねんあいよう けんかのおとも

ひのきでできた ぼうかまえ

だいじなおいっこ まもろうと

はんにゃもかくやの におうだち


おつかいぎつねの こぎつねまる

うるしもつややか ひとふりの

ちいさなよこぶえ なかにいる

おいなりさんの あとつぎの

だいじなだいじな おともだち


これなるわかご おいなりの

じだいをになう あとつぎは

さらりくろかみ なびかせて

なかよしいとこを たすけよと

はるばる京から 島にきました


くびにかけるは いにしえの

あしきここのお ばけぎつね

だっきやぶりし えいゆうたん

まことをうつす 神のわざ

あさひにかがやく しょうまきょう


せたけはいまだ ちいさいけれど

おてんとさまを せにおうて

ひかりまぶしき たちすがた

とうさんににた おもざしと

かあさんににた たましいは

うかのおおかみ きたいのほし


島のいりえに すらとたつ

きつねのほれこむ しょうねんは

むかえにでてきた しんせきの

いとこのあにさん おじふうふ

ひとめみるなり おせっきょう


「なんでここまで でてはるの?

神社さんなか いてください」


こんなところじゃ まもれません

いりえともりと まわりみて

おばけのけはいを さぐりつつ

のんきないとこに くぎをうつ

しっかりものの よねんせい


「ゆうべは にげたと きいたけど

ひつこいあねさん みたいやし

またぞろくるんは たしかやね」


「あにさん せなかが がらあきや

まもりものうては しんどいえ」


いいつつかばんに てをいれて

とりいだしたる こだけづつ


「あにさん こン子ぉ あずけるわ

なまえのまだない くだぎつね

まいつきとおと ごのつくひ

おあげのたいたん たべさせて

おなかがくちたら わるさもせぇへん

あにさんのせなか まもるよし

なれたらなまえも つけたらええ」


かたてのこぶしに にぎりこむ

えんぴつみたいな こだけづつ

のぞいてみても ほそすぎて

おくのふしまで みえません


「はだみはなさず もっといて

おあげのたいたん わすれずに

それがあにさんの ためやよし」


島のいりえは ちっちゃいけれど

かくれるところが ありません

まもるにかたく せめるにやすし

ここではとてもじゃ ないけれど

いとこをまもれる はずもなし

おばけをむかえ うつために

村の神社へ いそぎます


どんどんどんぐり 男の子

きりょくたいりょく すいつくされて

ふらふらよろよろ あるけません

とうさんかあさん ふたりして

かわりばんこに かたささえ

いりえをぬけて もりのなか

めざすはうじがみ どんぐり神社


おばけがうろうろ うろついて

どんよりにごった くうきのなかを

ほそいさんどう ぬけたさき

ちいさなとりいを くぐったとたん

くさいにおいが きえました

さすがは神の おわすばしょ

どんなにちっちゃな 神社でも

けがれなきこと はなはだし

村をまもりし しんいきで

おかっぱねえさん ひさしぶり

ちっちゃなちっちゃな 神様に

おいごのおれいと ごあいさつ


「りすくんりすくん ひさしぶり

すっかりりっぱな 神様で

なんだかとっても うれしいわ

おいっこまもって くれたのね

ほんとにほんとに ありがとう」


「おはつにおめもじ いたします

うかの神さん おつかいで

京のはずれの いなりから

こちらのおみやに おじゃまします

ちぃっとうるさく なるやろが

あんじょうよろしゅ たのみます

あにさんまもって くらはって

ゆんべはほんま おおきにな」


おいなりさんの あとつぎさん

おかっぱさんと ふたりして

おみきをそなえて ごあいさつ


おおきなきつねの 神様の

げきといわれた しょうねんを

はじめて目にする りすの神

きらきらごしんき かがやいて

よこぶえ かがみも こうごうしい

とっても ちからの あるようす

これならきっと だいじょうぶ

きたいをむねに りすの神

ただただこくこく うなづくばかり


ねむれぬよるを すごしてた

どんどんどんぐり 男の子

おてんとさんの あるうちは

おばけもかくれて いるだろと

まもりをかためて ひといきついて

ぱたんとたおれて ぐうすかぴー


いとことおばさん たのもしく

あんしんしきった 男の子

ようやくぐっすり ねむれます

ちっちゃな神社の くりのなか

ふとんにくるまり しらかわよぶね


おいなりさんの あとつぎは

こまったような うれしいような

なんともいえない えがおでもって

いとこのねがおを ながめます

のんきだけれども やさしいあにさん

ここまでよわらす おおおばけ

いなりのげきの なにかけて

きっちりかっきり おとしまえ

つけてやろうや ないどすか


わらべすいかん てにとって

さらりとはおり みをきよめ

ちっちゃな神社の はしとはし

つないでむすんで いんをきる

うかのみたまの じきでんの

あやかしふせぐ けっかいを

神社にかさねて ひろげてとじた





こてんぐいわの ばけがらす

おうまがときじゃと カァとなき

つるべおとしに ひがおちました

ここがしょうぶの しどころじゃ

おいなりさんの あとつぎと

おかっぱねえさん たちならび

さんどうみすえ ときをまつ


ふたときみときも すぎたろか

とっぷりくれた まよなかに

きしりとかすかな おとがして

はたととだえた むしのこえ

またたくまもなく いてついた

まふゆのごとき れいきがみちる


「ごはんもたべずに じゅんびして

ゆうがたッから まってたけれど

おばけのしゅっきん じかんなら

よなかとそうばが きまってる

じょうせきどおりの うしみつどきに

おいでなすった ようだわねェ」


あきともおもえぬ さむさのなかに

こぼれるといきも ましろにこおる

やにわにわきたつ くろくもに

つきとほしとが かくされて

いっすんさきも しれぬやみ

みすえるさんどう そのさきに

おもくるしいほど こごつやみ

あたりににじむは くされたといき

はいよるやみを ねめつけて

おいなりさんの あとつぎは

みやつぐちから とりだした

ちいさなじゅふを かたてにとって

ぬくてもみせずに やみをきる


ふところにある じゅふのたば

京のいなりの とうさんが

いちまいいちまい いのりをこめた

れいげんあらたか まほうのおふだ

いしあるごとくに そらにまう

ななつのじゅふは よるをさき

とりいのまえに れつをなす

はしからじゅんに くるりとまわり

へんじたきつねび あたりをてらす


くらいもりから こんばんは

かげはからすの ぬればいろ

まっくろくろな おおおばけ

きつねびかがりび てらされた

しろきおもての びしょうねん

おいなりさんの あとつぎを

そのめにうつして よろこびました


「あらまぁなんて きれいな子

きらきらひかって すてきだわ

この子もまとめて たべたなら

おなかいっぱい なるかしら」


「なんやあねさん とおくから

きはったらしいて ごくろぉさん

そないならおなかも すいたやろ

ぶぶづけいっぱい おあがりやす

なんならほうきも たてとくわ」


おいなりさんの あとつぎさん

すずしきすがたと そのかおで

おくちをひらけば わるくちまおう

うしろにひかえた おかっぱさん

ひたいにてをあて くびをふる

まったくだれに にたのやら

それでもここは ははおやの

ゆずれぬせんでは あるもので


「ちょいとききずて ならないねえ

だれとだれとを くらうって?

どこのだれだか しらないが

おいっこともども ウチの子に

こなかけようたぁ まんねんはやい!」


たんかをきった おかっぱさん

すぐさまりょうてで ふりかざす

ねんきのいった ひのきのぼう

どうにいったる そのかまえ


「オバさんごときが わらわせる

かわいいかわいい 男の子

ぺろりとたべて あげるから

なんにもできずに みてるといいわ」


まずはくちから こてしらべ

きったはったの そのまえに

おんなふたりは ことばでなぐる

いやみわるくち とばしあい

あいてのすきを みはからい

どちらがさきに てをだすか

にらみあいつつ まあいをはかる


きつねびゆれる ほむらのかげに

ひらりとまいちる このはがひとつ

めはしにうつした おかっぱねえさん

しせんうごいた そのすきに

するりとはいよる おおおばけ

なつのはじめの つばめのように

ほそいさんどう ひといきに

じめんすれすれ すべりきた


すんごうまもなく めのまえで

ぴたりととまった おばけのかおは

りょうのまなこが とびでるほどに

みひらきちばしる おにのかお

てらてらひかる くちびるは

みみまでさけよと つりあがる


しんしゅくじざいな そのかみが

ひとふさふたふさ たばになり

ぎゅるりととがって みぎひだり

おかっぱねえさん ふりあげた

ぼうをからめて うばおうと

いそぎんちゃくか たこのあし

はたまたくらげの ながいうで

むちのはやさで せまりくる


くっつきそうな めのまえで

にらみあうのは おかっぱねえさん

くさいといきを すわぬよに

しばしのあいだ いきをとめ

でんこうせっかの はやわざで

かかげたぼうの みぎてをずらし

ひだりてじくに だいかいてん

ひだりのかみは うちおろし

みぎからせまるは うちあげる

はじいてそくざに ひだりてひいて

うちおろすのは ましょうめん

こぼれるほどに みひらいた

おばけのまなこの まんなかを

いっきかせいに ねらいうつ


とりいのしたの いしだたみ

りょうあしつけて ふんばって

こしからせなか かたにうで

ながれるように ちからをこめて

だいかいてんの いきおいと

ぜんしんのばねで ふりおろす

そのてになじむ ひのきのぼう

からたけわりに まっぷたつ

とらえたものと おもいきや


くるったように わらうかお

ずるりとほどけて ちにおちて

じしゃくにあつまる さてつのように

ぞぞぞとむれて うずをまき

すこしはなれた やみのなか

あらたにからだを くみあげる



おんなどうしの たたかいに

こころをみだす こともなく

おいなりさんの あとつぎさん

たかくほそくに とおるこえ

はらいたまえ きよめたまえと かしこみもうし

どくのいぶきを うちはらう

たもとにてをいれ とりだしたのは

こしきゆかしき みやびなりゅうてき

いきをおおきく すいこんで

ひとたびとめた そのせつな

くちにあてがい ひょうとふく

よぞらにたかく ひびくねに

すぐさまふえから とびだした

てのひらさいずの ちびぎつね

うかの神さん おつかいの

こぎつねまるが おどりでる


ぴぃひゃら ひょうと なるふえの

おとにあわせて おをふれば

おつかいぎつねが あらふしぎ

みつよつ いつつと わかたれました


さんどうなかほど やみのなか

ぬるりとはえた おばけにむかう

いちのこぎつね きをけりとんで

にのこぎつねは ほのおをまとう

さんのこぎつね いしくれとばし

よんのこぎつね いかづちふるう

ごのこぎつねは こおりのいぶき


ちっちゃなこぎつね ばかにして

まっくろくろの おおおばけ

うねるかみのけ むちのよに

こぎつねたちを たたこうと

しほうはっぽう ざわめかせ

ごうとおとたて みだれうつ


しなるかみのけ かいくぐり

みをひるがえして つぎつぎに

おばけのまわりを びゅんととぶ

こぎつねまるの そのはやさ

ふえのねいろに あわせてとんで

おばけにかみつき かじりとる

くるまもでんしゃも かなわない

かぜよりはやく とびまわる

めにもとまらぬ ちびぎつね

ぶつかるたんびに かじられる

まっくろくろの おおおばけ

えだにたたかれ

ほのおでやかれ

いしのつぶては あめあられ

いかづちそのみを つらぬいて

てあしをうがつは こおりのつらら


せっかくあらたに くみあげた

そのみをはしから けずられて

まっくろくろの おおおばけ

たまらずもんくが とびだした


「しんじらんない なにこの子

かわいいかおして えげつない」


「そこがええわと ひょうばんで

ほめことばやわ うれしぃなァ

ほんにあねさん ありがとォ」


おめめもおくちも ゆみなりに

おいなりさんの あとつぎさん

にこりとえがおで いいはなつ

つづいてとりだす じゅふのたば

ひとつくわえて いんをきり

といきとともに ふぅとふく

つづれにおれて へんじたじゅふは

ひかりをたばねた しめなわに

ついとならんで しでとなる


おいなりさんの あとつぎさん

ひかるしめなわ てにとって

やりのまたざも かくやのごとく

ねらうはくらき じゃきのぬし

やみうちはらい ごうととぶ

あしきをふうじる しめなわは

さすがのおばけも にがてなようで

しょくしゅのように うねるかみのけ

めっぽうかいに ふりまわし

なわからにげよと みをよじる


やみのしょくしゅと しめなわと

どんとぶつかる そのときに

やみのしょくしゅは ちりときえ

のたうつかみたば あながあく

けたばのひとつを みがわりに

しめなわのがれた くろおばけ

あせるきもちを かくしてわらう


「きあいのはいった おもちゃだけれど

ざんねんでした おつかれさまね

わたしはこんなの へっちゃらよ」


つよがるおばけの いいぐさに

おいなりさんの あとつぎさん

にこりとわらって いうことにゃ


「じゅふをつくるの たのしいて

ウチのおとうはん はりきって

ぎょうさんもたして くれたんや

えんりょせんとに おあがりやす」


いうなりつぎつぎ つくりだす

ひかるしめなわ そのかずは

しじょうごじょうと ふえていき

ろくじょうひっちょう とおりすぎ

はっちょうこえれば とうじみち

くじょうおおじで とどめ ・ さ・す !


おばけのまわりを くるまざに

やりとへんじた しめなわが

おばけめがけて つぎつぎと

かたにあたまに うでにはら

あしをつらぬき あなうがつ


かげをかためて つくられた

おばけのからだも あなだらけ

あまりのいたみに のたうちまわり

みみをつんざく ぜっきょうあげた

これではとても かてやしない

せめてにげきり ちからをつけて

いつかしかえし してやるわ

くろいおばけは ねらいをかえた

わるいことなら だいとくい

おかっぱねえさん ひとじちに

つかまえてやろう そうしよう


ずいぶんちぢんだ くろおばけ

そのみがゆらりと ほどけてのびて

つくったからだは くろいへび

おかっぱねえさん つかまえに

くさにかくれて あしもとねらう


「なめてもらっちゃ こまるわね

けんかはいちばん とくいなの」


ふんすとおおきく はなならし

ぶんなぐりじょうずな おかっぱさん

だいじょうだんに ふりあげた

ひのきのぼうは おいなりの

れいげんあらたか はじゃのつえ

どこぞのゆうしゃも だいぜっさん

ばけものたいじの ひつじゅひん

こんどばかりは にがさぬと

けんかじょうとう みだれうち

りょうてでつえの はしをもち

なぎなたのように ふりまわす

あたるをさいわい おばけをけずり

ふみこみ つくは やりのいちげき


「ちょっとなんなの このオバさん

わたしをぼうで ぶつなんて

わたしのからだは かげなのに

なんであたるの このバケモン!」


そんなおばけの すぐよこに

おいなりさんの あとつぎさん

おともたてずに ちかづいて


「ひとのおかあはん つかまえて

バケモンとはよう いいますなあ」


おいなりさんの あとつぎさん

ほそめたおめめの そこびかり

えたいのしれない おぞけがはしり

へびのからだも あとずさる


よるのしじまを きりさいて

ひときわひびく よこぶえに

めにもとまらぬ ちびぎつね

ひぃふぅみぃよぉ いつつにわかれた

ながくおをひく ちいさなひかり

いくどもいくども ぶつかって

へびをつらぬき かじってけずる

みるみるちぢんだ かげおばけ


「おなかがすいてて つらいのに

いったいなんなの あんたたち

よってたかって いたぶって

しんでからまで じゃまするの?

そんなにあたしが きらいなの!?」



「あねさんまって おくれやす

そもそもそちらが さきやろし

ウチのあにさん とりころす

いうたによって こぉなってん」


「いままでたんと くぅてはろ?

それでもおなかが へるのんは

ひとのいのちを くろうたからや

ひとつひとつを おもいだし

くやんであやまる ことなしに

すくうてだては あらしまへん」


ちぎれてちぢんだ かげおばけ

うんとこちいさく なりました

こりすの神様 せいくらべ

ぼくのがちょっと おおきいぞ

いもむしくらいに ちいさくなった

まっくろくろの ちびおばけ

とりつくちからも なさそうで

まっかなおくちを もごもごと

でもでもだってと くりかえす


おばけがちいさく なるたびに

くものあいだを かぜがぬけ

ちぎりとばして まんてんの

ほしとつきとが かおをだす

りーりーじじじと むしのこえ

いつものよるが もどってきます


いまならはなしも できそうと

おいなりさんの あとつぎさん

くびにかけたる みかがみを

ちぢんだおばけに さしだしました


「あねさんこれみて どうおもう

ひとのかたちも ほどけてはる

いままでくろうた ひとのぶん

うらみつらみが たまってはるわ」


つきのひかりに かがやいた

とつくにわたりの そのかがみ

むかしむかしの そのまたむかし

あしききつねを こらしめた

ゆいしょただしき しょうまきょう

のぞきこむなり ほんしょうを

あらわにうつす ふしぎのかがみ


こそげてちびた かげおばけ

おんなのひとの かたちもへびも

ほどけてとけて のこったすがた

かがみにうつるは どろどろの

くさってにごった たべのこし


あまりのすがたに かげおばけ

たまげるひめいを ひびかせて


「こんなのちがう あたしじゃない

やめてよいやよ みせないで!」


「ほんでもみなぁ あかんのえ

これがあねさん いまのすがたや

ひとのいのちをくうたなら

それだけけがれて くさるんや

いままでくうた ひとのぶん

たまりにたまった よどみがこれや」


「そこをわからな はじまらへんで

かさねたつみと いのちのかずを

ようけおもいだして つぐのうて

はじめてらいせに むかえるんやさかい」


おいなりさんの あとつぎさん

しずかにしずかに かたります

びーだまみたいに ちぢんだおばけ

いやじゃいやじゃと なきわめく

じたばたあばれて ころがりはねて

くさにこいしに ぶつかって

しくしくしくしく なきながら

なきつかれたのは あけむつか

はるかにひろがる すいへいせん

ほんのりあかるく しらんだころに

ごめんなさいと ちいさなこえで

かぼそくきえそに あやまりました


「どないかしずまった みたいやし

これから京の ろくどうのつじ

たかむらさんの いどんとこ

ウチがきっちり つれてったるわ」


「こどもにたよって すまないねぇ

それでもみごとな おさめっぷりだ

これであのこも あんしんできる

かあさんからも ありがとね」


「きょうはあにさんの いちだいじ

ほっとくわけにも いかへんし

くるのもやぶさか ちゃうけれど

ろうどうほういはん ちゃいますのん?

しょうがくせいやって わすれんといてや」


「よなかもはたらく けなげな子ぉやけ

ねむおして かなわへんで

きょうはほんまに つかれたわ」


ちっちゃなちっちゃな へいわな島で

ぜんだいみもんの だいじけん

くさきもねむる うしみつどきに

あけがたかけての おおさわぎ

ひとしれずして いっけんらくちゃく

おおだちまわりの たてやくしゃ

ちっちゃなおくちで おっきなあくび

けんかのとくいな かあさんと

ねむいめこすって はいでんへ

これであんしんあんぜんと

いとこへつたえに むかいます



おいなりさんの あとつぎと

どんどんどんぐり 男の子

ぐっすりこんと よくねむり

ゆっくりやすんだ つぎのひは

ぴかぴかはれた あきのそら


ちんじゅのもりは さわやかに

きぎからもれる こもれびと

かぜふきわたる けいだいで

ちっちゃなちっちゃな 神様は

ちっちゃなちっちゃな そのむねの

なかにしずんだ しんぱいごとが

きれいさっぱり なくなりました


「じいちゃん神様 ありがとう

おおきな神様 ありがとう

おかっぱさんも あとつぎさんも

ほんとにほんとに ありがとう」


「ぼくはまだまだ ちっちゃくて

みんなにたすけて もらわなきゃ

じょうずにおるすも まもれない

だけどみんなが いてくれる

できないところは たすけてくれる

それがこんなに うれしくて

“ありがとう”って いいたいの」


「おれいにぼくの たからもの

だいじなだいじな おとっとき

まるくておおきな つやつやの

どんぐりおひとつ どうかしら?」



子りすの神様 もってきた

ちっちゃなちっちゃな ちよがみの

こばこのなかから そおっとだした

まんまるぴかぴか どんぐりひとつ

それはたいそう ふくふくと

しあわせつまって つやつやで

さぞかしすてきな おおきなき

京のはずれの おいなりで

そだってくれる ことでしょう



とっぴんぱらりの てんからぷー

お し ま い


挿絵(By みてみん)

おおきなおともだちへ


lppさまの「オカルトちゃんねる」という素敵な作品がありまして。

https://ncode.syosetu.com/n8125fg/


もともとこの作品は二次創作として書き始めたものです。

あるていど仕上がったころにlppさまにお伺いを立てたところ、

「二次創作は読者層を狭めてしまうので

オリジナルとして発表してはどうですか?」

とのありがたいアドバイスをいただきました。

前半はほぼそのままですが、

オカchのキャラクターを出さずに

後半を書き直したものがこちらになります。


後半に飛び出てくる京ことばは「なんちゃって京都風味」な程度ですので

本場の方に添削いただけると

作者が泣いて喜びますので、誤字報告などぜひふるってご応募ください。

(特に挨拶のところが尊敬語口語いりみだれ・・・・orz)

オカchの狐面→稲荷神社→伏見→京都の連想で出てきてしまっただけなのです。


挿絵、急いで描いたせいか

あんまり美少年になりませんでしたねぇ。あはははは。

子りすくん描くべきだったかしら。

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