実は俺、勇者なんだ。
俺を止めるその声に反応したのはポイズンドラゴンだった。
口を大きく開き魔力を集め【毒煙】を吐き出すため動作を始める。
俺一人なら何も気にすることはないが、俺を呼び留めた人が危ない。
「【ウィンドホール】」
目の前に魔法陣が生まれ眼前に大きな穴を作る。
穴に向かって暴風は生まれ、【毒煙】を全て吸い込み始める。
「その穴は何でも吸い込むぞお前の【毒煙】もな」
そして風穴はポイズンドラゴン自体をも吸い込もうとする。
必死に地面を掴むポイズンドラゴンは、空に逃げようとするが、羽ばたく力よりも吸い込む力の方が強くじりじりと穴に近づいていく。
「ガアアァァ……!!」
ポイズンドラゴンは吸い込まれないと思ったのか、【咆哮】を使うが、その叫びさえ風穴は吸い込む。
「言っただろ、何でも吸い込む。お前が出したものは全部だ。毒も音も全部」
抵抗は意味をなさず、ポイズンドラゴンは風穴に飲み込まれた。
これでこの辺りは大丈夫だろう。後は依頼にあったウォーターエレメンタルを倒せばそれで終わり。
「タクトさん、今のってドラゴンですよね? それにあの黒いのは……」
そうだった……まだ問題が残っていた。
「えっと、それよりもなんでフランがここに居るの?」
俺を止めようとしてくれたのはフランだった。
どうやってここまで来たのか、学園の制服を着たフランが木陰から顔を出していた。
「町を歩いているタクトさんを見つけたので、挨拶をしようとして、でも声をかけられなくて……」
「ここまで付いてきちゃったと」
声をかけたいけどかけられない気持ちはわかるけど、途中で諦めてくれよ。
なんでこんな森の中にまで入ってきちゃうんだよ。……気づかない俺も俺だけど。
「タクトさんってお強いんですね。森のモンスターも全部一撃でしたし、果てはドラゴンまで魔法一つで倒してしまいました」
どうやって誤魔化したらいいんだろう……、さっきのドラゴンだけなら「偶然持ってた道具で倒したんだよ。あはは」って言えるけど、最初から見られていてはどうしようもない。
正直に言う方がいいのかもしれない。あんまり他人と接点がないフランに見つかってよかったと思っておこう。
「凄かったね、ノノさん!」
「なんで言っちゃうのさ、私は何も見てないことにしたいのに」
なんでノノまで居るんだよ……。
終わった、この町はもうダメだ。全部終わっても普通の生活はできない。勇者として生きていかないといけなくなってしまう……。
他に行きなれた町ってどこだろう。適度に隣の町から離れていて、人工の少ない町ってどこかあったかな……。
「わかったよ。事実を言うけど信じられないなら信じなくてもいい」
俺が前置きをすると二人は確かに頷いた。
「実は俺、勇者なんだ」
俺がそう言ってたっぷり十秒の時間が流れた。
「凄いです! タクトさんは勇者だったんですね、最初から他と違う雰囲気がありました!」
「お兄さん、頭を打ちましたか。って言いたいんですが、今の強さを見せられたら信じるしかないですよね」
思ったより二人はすんなりと勇者だと認めてくれた。
「それでお願いなんだけど、魔王を倒した後はキックスでのんびり過ごしたいんだ。だから俺が勇者だってばれたくないんだ、だから黙っていてくれ。俺にできる事なら何でもするから」
コミュ力のない俺に交渉の技術なんてない。
だからこうやって頭を下げるしか道はなかった。
「なんでもですか? ……いえいえ、勇者様のお願いなら見返りなんていりません」
フランはそう優しい言葉をくれたのだが、ノノは何かを考えていた。
周囲に見えるモンスターのドロップの確認を始める。
ドロップが欲しいのかもしれないな。
確かに結構まとまった金額になるくらいにはモンスターも倒したし、それくらいで済むなら寧ろ安いくらいだ。
「私を養っていただけませんか?」
真剣な顔で何を言っているんだろう。
「それってどういう意味?」
「私に自由に生活できる居場所をください」
その目は確かに真剣で、本気なのは理解できる。
でもそれがどういう意味なのかが分からない。
金を貰うではなく、養ってほしいというところが気になった。
「ドラゴンの卵の残骸、ドラゴンの爪、これだけでも家が建つほどのお金になります。その上道中で倒したモンスターのドロップ。これだけあればお金には困りません。なのでお願いします。お兄さん、いえ、勇者様の家に居候させてもらいたいんです!」
そう言えばノノってどこに住んでるんだ?
いつも会うのは弁当の配達の時だけだし、もしかして家がないのか?
「私、今はお店の軒先で寝ているんです……。なので、安心して眠れるところが欲しいんです。いきなりなのはわかっていますが、どうかよろしくお願いします!」
ここまでお願いされたら断れないんだよな。
それに戻ってきた時にはハーレムでウハウハが理想だし、その前の予行練習とでも思っておけばいいのかもしれない。
「わかったよ。住まわせるくらい別にいいよ」
「ありがとうございます、勇者様大好きです!」
ノノがそう言って俺に抱き付いてきた。
俺よりも一回り小さく俺の腕にすっぽりとはまるサイズ。柔らかくて、なんかいい匂いがする。
俺こんな可愛い子と一緒に暮らすの? 大丈夫? 間違いとか起きない?
「いつまでくっついてるんですか。早く帰りますよ」
グイッと俺とノノの間にフランが割り込み俺の足元に落ちているドロップを拾う。
危なかった。
正直あのままだと責任を取らないといけない状況に陥ってしまうところだった。
てきぱきと拾うフランを見習って俺もドロップを拾う。
「勇者様、何か袋はありませんか? 私にはこれ以上持てないんですけど」
「ああ、一応持って、るよ……」
確かにノノは持ちきれない量のドロップを拾っていた。
手で持ちきれずに自分の服を広げて簡易的な袋にしている。その結果、ノノの腹部は丸出しになっていた。
「助かりました。それでは袋を広げてください。そこに全部落としますから」
「うん、わかった」
俺は目が離せなかった。
ノノに言われ、俺は袋をノノの服の下に置かないといけない。
そうなると必然的に服の中を覗き込むような姿勢になってしまう。
近づくにつれ腹部から肋骨、そして更にその先にある二つの膨らみの下部分が見え始める。
「落としますよ」
あと少しで全てが見える。そう確信した瞬間俺が見ていることに気が付いたのか、服を下ろした。
後もう少しだったのに……。変に平静を装わずに見ればよかった……。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ……。
俺は変なところで働いた自制心を激しく呪った。




