本当は何者なの?
地下に続く階段を降りると看守が牢の前で飽きれていた。
「どうかしたんですか?」
「食事を渡したらこの有様でして……」
どこで習ったのか、この人は鎖などないようにご飯を食べていた。
食事用に変えられた手枷で食器を掴み、口でも食器を支え準備された食事を次々と口に流し込む。
水も野菜もスープもパンも流し込む姿は捕虜だとは信じられない。
「あなたって本当は何者なの?」
「おーノノおはよう。何者って勇者だって説明しただろ」
食事を流し込み終え食べかすを付けた顔は勇者というよりも大道芸人に思えた。
「結局昨日は食えなかったからな、まだ食い足りないんだけどお替りはないのか?」
「あるわけないでしょ、自分の立場がわかってるの?」
「洗脳されればハバリトスの一員になる来賓だろ」
流石にイラッときた。
この神経でなんで人見知りなのか理解ができない。
「あんたもフランちゃんも話してると調子が狂う」
フランちゃんは箱入りのお嬢様だからあの空気なのも理解できるけど、この人はなんでこんななのかな……。
旅に出てからは結構真面目な気がしてたんだけどな……。
「フランは元気か?」
「元気だよ。少なくともあんたがここで大人しくしている間はね」
看守は私が話している間に食器の片付けと手枷を切り替える。
そして食器を引っ込めるため私に一言声をかけ牢の前を離れる。
「フランはお前の説得を頑張ってるか?」
「ノーコメント」
「それなら大丈夫だな」
私の答えに満足したらしく心地いいくらいの笑顔を浮かべた。
なんでこうもこの二人は似た笑顔を浮かべるのか。
私やハバリトスの人が浮かべない透明な笑顔。
日陰者の私には眩しすぎる笑顔に目を反らしてしまう。
「俺を洗脳するって魔族はいつ来るんだ?」
「知ってても教えないけど、聞いてどうするの?」
看守が戻ってきたため私を説得する話をやめごく普通の話を始めた。
私としても説得されているなんて知られたくはないので、そこを追及はしない。
「魔王を倒す旅の終わりくらい知りたいだろ」
「魔王様ね、前から聞きたかったんだけど魔王様っているの?」
世間一般の常識として魔族は魔王様が存在して初めて生まれることができる。
ハバリトスも魔王様が居ることは前提として魔王様を神の存在に位置付けている。
しかし今まで生きてきて魔王が動いたという情報は一度たりとも入ってきていない。
「ランスグライスさん、その質問はあまりにも背信的かと思いますが……」
「言い方が悪かったですね。魔王様は地上に実在しているのか、天上存在しているのかを確認したいのです」
天上で私達を操り世界を望む世界に作り替える存在なのか、それとも地上で自らの手で世界を変えるのか。
そこだけがどうしてもわからなかった。
「天上の世界なんてないし、魔王は地上に居る。だからこそ俺がこうして地上に居るわけだしな」
やっぱりこの人は何かを知っている。
記憶喪失も嘘だったみたいだし、キックスに居たのも何かに気が付いたからやってきたのかもしれない。
「あなたは魔王様にお会いしたことがあるの?」
私の言葉に看守もこの男を見る。
そして何かを考え言葉を選んでいる。
「会ったことはないかな。だけどこの地上に居るっていうのは知っているって感じだ」
嘘ではないらしいが、何かは隠しているという感じかな。
会ってはいないけど知っている。
妙な引っかかりを覚えるが、深く聞き出すためにはこの看守が邪魔だな。
邪魔だけど無下に扱って背信を疑われるのは都合が悪い。
「わかった。もうあなたに聞くことはない。後はよろしくお願いしますね」
看守と挨拶をして私は再び司祭様の元に向かった。
「ノーナアルヴェルス何かあったのか?」
「あの男は魔王様の事を知っているとの事でした」
「本当か……?」
司祭様はその言葉に驚いた。
「あの男は魔王様が現在地上に居ると言っておりました。だから自分が同じ地上に居るとも」
「わかった、有益な情報をありがとう。私はあの男の洗脳が完了し次第少し出てくる、その際の指揮役を君に任せる」
「わかりました、報告は以上です」
司祭様の顔は何かに喜んでいた。
魔王様がいる場所の見当がついているのかもしれない。
それか勇者を利用してハバリトスを自分の手に収めるつもりなのかもしれない。
どっちでもいいか、どっちにしても情報を与えた代わりに私の地位は向上する。
司祭様の家を出ると私は自分の家に戻った。
途中何人かと会ったが、全員がイラつくほどにおべっかを使って来たので適当にあしらった。
「ただいま」
「どうかしたの? 疲れた顔してるけど」
「そうかな? うんそうかもしれない」
フランちゃんの前ではいつも通りの笑顔でいようと思ったのにな。
「あの男が相変わらず変だったからかも」
「タクト様も元気なんだね」
「うん。たぶんあの人は自分が捕まっていることを忘れてるよ。普通あの状況でお替りしないでしょ」
大道芸の様な食事を思い出して少し面白くなってしまった。
「タクト様は自由だからね」
「あれは我がままと言ってもいいと思うけどね」
捕まっているのにいびきをかいて眠り、食事が足りないと文句を言い、暇だと駄々をこねる。
本当に馬鹿みたいだ。
「そのほかには何が嫌だったの?」
他の信者に絡まれているなんてここで愚痴ってもいいんだろうか。
まあいいか、どうせフランちゃんも明日にはいなくなるんだし。
「私があの人とフランちゃんを捕まえた功績で司祭になるのが決まったら、他の人達が私に取り入ろうとしてきてちょっと疲れてるかも」
「司祭になるんだおめでとう」
本当にこの子は大丈夫なのだろうか……。
私が司祭になった時自分はもうこの世にいないかもとかは思わないのかな?
「私からそういう時のアドバイスとしてはダメさのアピールが必要だね。私も貴族の娘だからってたくさんの人が寄ってきたけど、魔法もろくに使えないポンコツだと思われてから誰も寄ってこなくなったよ」
フランちゃんは胸を張っているが、それは自信満々で言っていいのかな?
「フランちゃん余計なお世話だろうけどそれは誇っていいことじゃないよ」
「うん、そうなんだけどね。それも私だからいいの。私はイクシル家の長女じゃなくて、フラン・イクシルだからこれでいいの。魔力は高いけど緊張して魔法が上手に使えないそんな私でもいいの」
そうはっきりとフランちゃんは言った。
鈴の音の様に澄み切った声でそう言った。
自分の欠点を諦めではなく受け入れている。
それを私は悔しいと思ってしまった。
「そんな私でもいいってタクト様を見てて思ったから。自由って自分を受け入れてからだと思うよ」
「そうなのかもね」
二人を見ていてそうかもしれないと思った。
何があっても楽しかったと話し合えたこの二人なら。
「それがフランちゃんが言ってた不自由じゃないってことは自由ってことじゃないってことかな?」
「違うよ。それはもっと簡単な意味。貴族は不自由じゃないけどおこぼれを貰おうと色々な人が寄ってきて結局自由じゃないんだよ。今のノノちゃんと同じだね」
そんなことだったんだな。
確かにその通りだ。
地位があってもお金を好きに使えて生活は自由でも、他の所で自由が奪われる。
そんな簡単なことに気が付かないなんて私は本当に馬鹿だな。
「私は結局不自由なままみたいだ。でもねもう私は引けないんだよ」




