嫌に決まってる……
俺はどこかの地下で退屈の余り死にそうになっていた。
監視役の人はいくら話しかけても無視するし、カビと血の臭いで気持ち悪いしで最悪の環境だ。
今すぐに外の空気を吸いたい。
思いっきり新鮮な空気を吸って大声で叫びたい。
「おーい、暇なんだけど俺にも本貸してくれない!?」
知ってはいたけど完全に無視。
こういう時ノノならなんて言うんだろうな。
ノノならこんな状況でも仲良くなれるんだろうな。
「なんなら読み聞かせてくれてもいいんだけど」
もう本当に暴れたい。
暴れて全部壊してしまいたいほどにフラストレーションが溜まりに溜まっている。
少しでも気を抜くとこの鎖を天井から引き抜きそうだしな。
何度かガチャガチャと鎖を引っ張てみると簡単に壊れそうだった。
ここの牢自体も古いせいか一発で壊れそうだし、フランの場所がわかればすぐに逃げ出せそうだ。
だけどノノはどうしよう。
ここに置いて行ったらどうなるかわからないし、そもそもノノはなんでこんなところにいるんだろう。
「何か企んでいるみたいだね」
「ノノかよかった、暇で暇で本当にどうしようもなかったんだよ」
「今回は連絡事項を伝えに来た」
挨拶は無いらしい。
今回はってことはまだ日は跨いでいないらしい。
ここに居ると昼夜の感覚がないせいでどのくらいここに居たかわかりにくいんだよな。
「タクト・キサラギあなたはハバリトスの仲間に入る気はない?」
「断る」
ノノの問いに即答した。
俺がここに居るのは魔王を消滅させるためだ。
そんな俺が邪教に与するわけにはいかない。
「そういうとは思ってた。あなたはそういう人だから」
そう言ったノノの表情は寂しそうに見えた気がした。
しかしそれは一瞬ですぐに仏頂面に戻る。
「今から三日以内に魔族がクルトにやってくる」
「それを教えられて俺はどうすればいいんだ? 魔族様万歳、魔王様万歳って言えばいいのか?」
「洗脳の魔法に長けた魔族だと言ったら意味は伝わるよね」
俺に洗脳をかけて仲間に引き込むつもりか。
確かに俺を洗脳したらその辺の魔族よりも戦力になる。
それに人間だし対魔族の警戒もすり抜けられるし、俺を王国軍とぶつけ相打ちになってもハバリトスに不利益はない。
ハバリトスにとっては良い事尽くしだな
「流石勇者様、理解が早くて助かるね。まあこれからは人類の敵になるんだけどね」
「俺がそうなったとしたらフランはどうなる?」
「それは司祭様次第かな。でもたぶん殺されるんじゃないかな?」
ノノは笑顔を作った。
「それでいいのか?」
「良い悪いは私の決める事じゃない。司祭様や大司祭様だ」
「俺はノーナアルヴェルス・ランスグライスに聞いているだ」
名前を呼びノノの目をにらみつける。
「嫌に決まってる……フランちゃんは私の友達なんだから嫌に決まってる! それでも司祭様の決定は絶対で逆らったらダメなんだ!」
檻を壊す勢いで俺に叫ぶ。
「逆らったらどうなるかあんたは知らない。私達はあんたみたいに強くも無い! 一人では生きていけない弱者だ、強い何かに守ってもらって生きていくしかないんだよ!」
ひとしきり叫んだノノは荒くなった呼吸を整え、俺を鋭くにらみつける。
傷つけてしまったが、これでノノの心はわかった。
やっぱりノノはノノだ。
「連絡事項は以上。残りの数日を好きに楽しめ」
「ところでフランは元気か?」
「私も頑張るからタクト様も負けないで。そう伝えてくれってさ」
「それなら俺からも一言伝言だ。お互い頑張ろうって伝えてくれ」
ノノは俺の返事を聞いてくれたのか振り向くことなく去って行った。
「また話し相手がいなくなってしまった……」
さて、これからどうするかだな。
とりあえずノノのあの感じから俺達を裏切りたくて裏切ったって感じじゃないよな。
慣れたくはないが、こういうことは慣れている。
強くなってからは一度の転生で少なくとも一度こういう事態に巻き込まれている。
俺の強さを知った権力者が仲間にするために牢に入れたり、魔族の命令で俺を殺そうとしてきたり嫌になるほど捕まっている。
そしてそのほとんどの場合がノノと同じ状況だ。
生きるために裏切って死にたくないから誰かを犠牲にする。
ノノはフランが死ぬのは嫌だと叫んでくれた。
弱者で生き残るために俺を捕まえたと言った。
それだけで十分だ。
ノノは俺達の仲間。それがわかれば堂々とノノを連れて行くことができる。
そのためにはノノを縛る何かを壊さないといけないんだけど……、俺今地下なんだよな……。
フランの伝言にかけてみるか。
フランはノノを説得するつもりなんだろう。
だから俺がすることはここを潰すことか。
これで読み間違えてたら俺最低にカッコ悪いな……。
洗脳ができる魔族が来るまで三日それまでに色々準備ができていないといけないってことか。
知りたいのは現在地、それとノノが言っていた司祭がどこにいるか、フランとノノがどこにいるのか。
色々思い出せ。
この町の地図、ノノの言葉、ここに運ばれてからの周囲の会話を全部思い出せ。
「看守さん、ハバリトスに教皇っていないのか?」
看守は俺を一瞥しただけで再び読書に戻る。
俺には何も伝えてはいけないらしい。
「看守さんも知らないんだ、ここには司祭しかいない小さな所だししょうがないか。こんな廃れた町で俺しかいない牢屋の看守なんかさせられているくらいだし仕方がないよな」
「いい加減に口を閉じろ。今のお前には口を開く権限もないんだぞ」
「ただの雑談だろ? わかったよ、明日もノノが来るだろうしその時に聞いてみるよ」
言い過ぎたらしい。
我ながら煽りもへたくそだ、会話にならないくらい相手を怒らせてしまう。
そのせいで俺は情報を得るのにノノが来るのを待たないといけなくなってしまった。
†
そして準備が整いきる前に魔族が到着したという連絡を看守は意気揚々と俺に伝えてきた。
「これでお前はハバリトスの従順な戦士になるわけだ。せいぜい敵の戦力と一緒に死んでくれ」
大笑いした看守は階段を降りてくる音に気が付きすかさず膝を着いた。
現れたのは魔族というよりも悪魔だった。
ヤギの頭部を持つ巨漢。
大きく太いねじれた角、鼻先が口元が伸び両眼が顔の側面につき広い視野を持っている。
ローブを着てもなお隠しきれていない分厚い肉体。
ヤギの獣人の魔族か。
俺が魔族の姿を見ていると袖から見える強固な蹄が牢を叩く。
「こいつが、自称勇者か。これほどの素材をよく捕まえたな」
「はい。人質を使いここに閉じ込めております」
「では洗脳した後の最初の仕事は人質の首を跳ねさせるとしよう」
魔族は薄気味悪く笑い、檻を壊し俺の目の前にやってくる。
醜悪な見た目に濁った瞳。
こいつは魔族としてそれなりに強い。
少なくともヴェルモンドよりは強いだろう。
「あんた名前は?」
蹄が俺の頬を殴りつける。
致命傷にはならないが俺にそれなりのダメージを与えられるレベルらしい。
「不遜だぞ人間。格の違いを思い知れ」
「それなら不遜なのはお前だろ」
「生意気だな。下等な種族が付け上がりやがって」
魔族は俺の体を何度も打ちのめす。
蹄で、角で、頭突きで何度も俺を痛めつける。
「おい、そこの人間来い」
俺を殴ることに飽きたのか、魔族は看守を呼びつけるとその頭部を蹄で殴りつける。
トマトの様に弾けた看守を見下ろし付き添いの男に片づけを命令する。
「普通は一撃でこうなるのにお前は中々に頑丈だな。実に使えそうだ、お前をこれから我が配下にしてやろう光栄に思え【ブレーンウォッシング】」
魔族の手から魔法陣が現れ俺の頭を通過した。




