フランちゃんのお引越しです
家に戻ると家の前には家具らしき荷物が大量に置かれていた。
不法投棄かとも思ったが家の中はバタバタと騒がしい。
「お兄さんお帰りなさい。お話は終わりましたか?」
「終わったけど、この騒ぎは何の騒ぎなんだ? 知らない人が入るのは正直怖いんだけど」
家の中に入るとノノはリビングで大人しく座っていた。
そんなノノの前を沢山の荷物を抱えた見知らぬ人達が階段を上り下りしていく。
知らない人達が闊歩する家は全くと言っていいほど落ち着けない……。
「フランちゃんのお引越しらしいです。この人達はイクシル家の使用人らしくて邪険にもできません」
「引っ越しって……」
ただ旅に行くだけなのになぜこっちに引っ越しをしないといけないのか……。
箪笥にベッドに化粧台などの家具が次々と手際よく家の中に運び込まれ引っ越しは一時間ほどで完了した。
そしてそれぞれが一礼しそのまま帰って行った。
「タクト様お帰りなさい。申し訳ありません騒がしくしてしまい」
「それはいいんだけど、その後ろの人は誰?」
フランの後ろに背後霊の様に付き従っているメイドが一人。
身長も高く傍から見れば美人だが、目が怖くじっとこちらをにらみつけている気がする。
正直苦手なタイプだ。
「私はトーラ・クオルトと申します。フランお嬢様の専属メイドで、皆さんが留守の間ここの管理を担当いたします」
そう言って丁寧に頭を下げた。
目つきは怖いけど、しっかりしてそうで有能なのがわかる。
「待ってくださいトーラさん。この家の管理は私がすることになっているんですが」
「当主様よりタクト様、お嬢様そしてノノ様の三人が旅に出るので、その間この家を守る様に仰せつかっていますが」
ウィルさんの中では俺達三人がワンセットなのだろう。
そうしてくれると確かに助かるのは事実だ。
コミュ障二人の旅よりはコミュ力の高いノノが参加してくれるのは助かる。
「俺は三人でもいいぞ。俺とフランだけだとノノを仲間外れにしてるみたいだしな」
「お兄さんがそういうなら私はそれでもいいんですが、フランちゃんは私が一緒でもいいの?」
ノノはなぜかパーティリーダーの俺ではなくフランに話を振った。
どうやらノノの中ではリーダーはフランのようだ。
「私はいいよ。ノノさんが一緒の方が楽しいから」
「わかりました。私も準備しますから待っててください」
「出発は明日にするからゆっくりでいいぞ」
ノノが準備を終えた翌日。
全員の忘れ物を確認し、改めてイクシル邸の地下に向かう。
まず旅で最優先するのは地下で実験をしていた魔族の追跡。
ノノが準備している間にもう一度この収容所を捜索してみたが痕跡は何一つ残っていなかった。
なので最後の手掛かりはこの収容所で一番最後に壊された道だけだ。
この道を進んで行けば魔族が隠れているであろう場所の目星をつけられるはずだ。
「地下にこんな場所があったなんて初めて知りました」
フランは初めて足を踏み入れる地下に感動してはしゃいでいるため、ここが現在何に使われているかは教えていない。
そのまま地下を進み、崩れた場所に向かう。
道の塞がり方を見るとどうもここの道は破壊されたのではなく魔法で埋められたらしい。
天然の岩や土ではなく、魔法で土砂を作り埋められている。
「この道をどうやって開通させるつもりですか? 変に壊したらここがそのまま壊れてしまいそうですけど」
「だろうな。所々に魔法があるみたいだ。これを無理に壊して行ったら崩壊するだろうな」
魔力を走らせてみると、どうやら魔法を地雷の様に使っているらしく、地雷を崩せば爆発し痕跡を消す算段のようだ。
ここを使っていた魔族は中々に用意周到だ。
「タクト様、それだとここから進むのはむずかしいんですか?」
「その魔法も一緒に喰わせるから問題ない【グラトニー】」
魔力を魔法の元まで張り巡らせ【グラトニー】を発動させる範囲を指定し発動させる。
魔法陣が目の前に現れ、指定した範囲を闇が覆い闇が消えるとそこには何も残ってはいない。
「お兄さんは相変わらずデタラメですね。そんな魔法を平気で使ってますけど」
「私もいつかタクト様みたいな魔法が使えるでしょうか?」
「ここまでの範囲じゃなきゃ使えると思うぞ」
本来この魔法はここまで大規模に使う魔法ではない。
手の平サイズで発動し物質を抉り取る魔法だ。
この規模で使うとなると結構なMPを消費する。
それから何度か【グラトニー】を使い道を掘り進めていくとやがて階段に行きついた。
「俺は先に地上に出るけど、二人は合図を出すまで待機していてくれ。いきなり敵と戦うことになるかもしれない」
二人が頷いたのを確認してから階段を上ると、そこは建物の中だった。
ログハウスの様な小さな小屋で窓はないが、外からは何の気配も感じない。
窓もないこの小屋からは外の様子も見えない。
何か魔法がかけられているのかと調べてみても何の反応もなく、この小屋はただ出入りを見られなくするための出入り口のようだ。
それも封鎖してからは使われていないらしく足跡も無い。
「二人とも上がってきて大丈夫だぞ」
大丈夫と言っても怖い物は怖いらしく、二人は慎重に階段を上ってくる。
「ここってどこでしょうか? 外に出てみてもいいでしょうか?」
「近くに気配も無いし大丈夫だ」
ノノとフランはそのまま小屋の外に出たので一緒について行くことにした。
小屋は森の中にあった。
小屋の前にある大きな湖は底が見えるほどに澄んでおり、周囲を囲う木々も伸び伸びと育っていて理想の森という感じだ。
俺は最初に湖の水を掬い口に含む。
スキル【比濁分析】を行い汚染されているかを確認するが、汚染どころか飲み水として何の問題もない。
念のため土も口に入れてみるがこちらも異常なし。畑を作れば良質な野菜が取れそうだ。
「タクト様は何をしているんですか?」
「水が飲めるかと土壌が汚染されているかを確認してた。両方とも問題なかったよ」
「そんなことまでわかるんですね。でもなぜそんなことを気にしてるんですか?」
「魔族が関わっているみたいだしな。どんな罠があるかわからないからな」
イクシル邸の地下で実験をしていた内容によるが、湖や土壌を汚染すればそれだけ人間の体力を奪うことができる。
これほどの湖なら近隣の町で水を汲みに来る可能性もある。
だからこそこういう場所は魔族に狙われやすい。
「タクト様、もしかして追っているのって魔族なんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ? 魔族を追ってるからこそこの道を来たんだよ。手がかりを探すためにさ」
「…………あはは――」
俺の言葉を聞いたフランは乾いた笑いをしたと思った瞬間後ろに倒れ込んだ。