クルトの悲劇と言われる惨劇だ
当時この辺り一帯はクルトという町のネヴェル・ヴェルモンドという公爵が治めていた。
別段優れた一族ということはなかったが民を大事にしているというわけでも、逆にないがしろにしているわけでもない。
しかし和を重んじる領主だった。
下克上を許さず、重税を認めない。
貴族は貴族として、平民は平民として生きることを求める様な領主だ。
治めている町の人々もそれで文句はなかった。もちろんイクシル家もな。
そんなある日、事件は起きた。
一人の行商人が慌てた様子で隣町のパルリレッシにやってきたそうだ。
パルリレッシの警備隊はなぜそんなに暴れていたのかを聞くと商人は答えた。
「クルトに人がいない。モンスターに襲われたのかもしれない」
それを聞いたパルリレッシの貴族たちは、クルトに捜索隊を送り出したらしい。
町の人間を消してしまう程のモンスターがいるかもしれないと、腕利きを集め急いでクルトに向かった。
そこで捜索隊が見たのは無人のクルトだった。
家にも広場にも施設にも本当に無人だった。
何者かに襲われた形跡もなく、突如人間だけが消えた様な状態だったらしい。
捜索隊も何かがあったのはわかるが何があったのかわからず、最後の希望を持ってヴェルモンド邸に向かった。
もしかしたら何かの緊急事態が起こり、ヴェルモンド邸にみんなが避難しているかもしれないと思ったからだ。
そしてヴェルモンド邸には人がいた。
捜索隊を待っているかのようにネヴェル・ヴェルモンドがエントランスで立っていた。
ネヴェル・ヴェルモンドの無事に安堵した捜索隊の体長は何があったのかと声をかけた。
「ネヴェル様、一体何があったのですか?」
その直後、声をかけた者の首が宙を舞った。
突然の出来事に動きが止まる捜索隊の首も次々に飛び、エントランスはすぐに血に染まった。
異常事態に他の隊員は剣を抜くが、一人の隊員はその場から逃げ出した。
命からがら逃げ出した一人はパルリレッシにたどり着くと、すぐさま討伐隊の編成を求めた。
「ヴェルモンド卿がご乱心なされた。至急討伐隊を編成して欲しい」
ヴェルモンドは先に行った通り下克上を許さない領主だ。
そんな領主に刃向かうなんてと普段なら取り合わないが、その時は違った。
駆け込んできた隊員は他の隊員の血で真っ赤に染まっていた。
恐怖に震え血に塗れたその姿に嘘はないと判断され、近隣の町も含めヴェルモンドの討伐隊が結成された。
討伐隊が編成され、ヴェルモンド邸に向かうと地獄絵図だった。
目を覆わずにはいられない悲惨さ、鼻を抑えずにはいられないほどの悪臭の中ヴェルモンドは血の池に立っていた。
門を開けた音に反応して討伐隊を見つめる目は虚ろでとても正気とは思えなかった。
そして三日三晩の戦闘の末、力尽きたのかヴェルモンドは打ち滅ぼされた。
「これが、クルトの悲劇と言われる惨劇だ」
話を終えたウィルさんは温くなった紅茶を飲む。
ネヴェル・ヴェルモンドはおそらく魔族に魔法をかけられている。
禁忌の魔法【リザレクション】蘇生魔法とされているが、実態は大きく違う。
あれは死者を生き返らせる魔法ではなく、死体に命を吹き込む魔法。
ようはゾンビを作り出す魔法だ。
過去の転生で使ったことはあるが、あれは最低の魔法だ。
言葉も話せず記憶もない。本能のままに動くだけのゾンビだ。
「何か心当たりがあるみたいだな」
「はい、昔聞いたことがあります。ネヴェル・ヴェルモンドと同じ姿になった人の話です」
「どこも同じというわけか」
ウィルさんは苦々しい表情を浮かべた。
「閉鎖された出入り口で一番新しいのはどこですか?」
「隣町のパルリレッシ方面の穴だな。それがどうかしたのか?」
「予感ですが、クルトと同じことをしようとしている奴がいます」
おそらく地下の牢獄に来ていたのは魔族だ。
ガーフィールはイミュニティーの事を聞いた時、そんな奴らと言ったイミュニティー複数連れているのは魔族以外にはいない。
ポイズンドラゴンにイミュニティー、それに魔族。
最悪の事態を想像して動かないと対応が遅れてしまう。
「そうか。ワシらにできることはあるか?」
「町をお願いします。不審な人物は中に入れないように。それと無理だとわかった時点で撤退をしてください。なので撤退用の避難場所を街の外に作っておいてください」
「わかった。すぐに始めよう」
これでキックスが無くなるような事態にはならないだろう。
「それでは俺はすぐにパルリレッシに向かいますので失礼します」
「待ってくれ」
俺が出て行こうとするとウィルさんに呼び止められる。
何があるのかと待っていると、部屋の奥から一本の剣と一枚の紙が渡された。
剣は業物というわけでも宝物というわけでもなさそうなシンプルな剣、もう一枚の紙には男の肖像が描かれていた。
「名剣という程ではないが鍛冶師が作ってくれているから、店で売っている量産品よりはマシなはずだ。それとこれがネヴェル・ヴェルモンドの肖像画だ。相手がヴェルモンドと名乗っている以上持っていて損はないだろう」
「ありがとうございます。謹んで頂戴いたします」
肖像画を小さく折り懐にしまい剣を手に取る。
買った剣よりも重量がありよく手に馴染む。
その場で軽く振ってみるとそこまで重さは感じず凄く扱いやすい。
良い物を貰い俺は旅の準備のために自分の家に戻った。




