もう限界なのです。
ウィルさんに匿ってもらって数時間、日は完全に沈み俺は本宅に忍び込んだ。
爺さんがこっそりと屋根裏にある窓の鍵を開けてくれた。
一階のどこかの鍵を開けてくれればいいのだが、ウィルさん曰く、ここから楽に忍び込めないと孫娘は守り切れんと無茶苦茶なことを言っていた。
四階まで飛ぶのは簡単だし別にいいんだが、あの爺さんは俺の事そんなに好きじゃないんじゃないだろうか。
もしかすると捕まればいいのに位は思っているのかもしれない。
そんなわけで侵入した俺はウィルさんに言われた通り、三階にあるフランの部屋を目指す。
四階はほとんど物置になっているらしく、警備は居ないとのことで安心して移動する。
三階の警備はフランが逃げ出さないように巡回の頻度が高いらしい。
「【トランスペアレント】」
足元から魔法陣が浮き上がり俺の体を透明に変えていく。
体を透明にする魔法だが、残念なことに見えなくするだけで音や痕跡は残ってしまう。
音を出さないように慎重に三階に降り、フランの部屋へ向かう。
フランの部屋は突き当りから二番目の部屋に軟禁状態になっているらしい。
巡回の警備員に気をつけながら廊下を歩くが、やはり扉の前に警備員が二人待機していた。
ウィルさんの言う通りだけどどうしたものか。
気絶させるのは問題ないけど音もなくってなると少し危ないよな。
「すいません、トイレに行かせていただけますか?」
「わかりました。少々お待ちください」
トイレか、トイレならフランと二人になれるな。
そうすればフランの奪還も簡単だし、奪還しちゃえばウィルさんの頼みごとに集中できる。
そのまま待っていると一人のメイドが現れ、フランの部屋に入りフランを連れ部屋から出てきた。
見張りの一人が隣の部屋にメイドを呼びに行き、そこで初めてフランは部屋から出ることを許された。
本当に自分の家に監禁されてるみたいだな。
歩き出した二人の後をついて行きメイドがトイレのドアを開ける。
フランが入ったすぐ後に続いて入る。
人がニ三人入っても問題ない位の広さのトイレに驚いているうちにフランがパジャマを脱ぎ始めてしまう。
「あっ……」
突然のことに声を上げてしまうがすぐに口を手でふさぐ。
仕方ないじゃないか。
目の前で女子がパンツを脱ごうとしてたら咄嗟に声も出てしまう。
「どうかしましたか?」
「私ではないですけど」
その言葉にメイドがトイレに入り中を確認した。
気をつけよう。メイドが外に出たらフランがまたパンツを脱ぐ前に急いで口を塞ぎ、魔法を解除しMPを使い空中に文字を書く。
無駄にMPだけを消費する魔法とは呼べない技術だが、こういう時に役に立つ。
『俺だ 静かにしてくれ フランを助けにきた』
文字を見たフランが頷いたので俺は続けて文字を書く。
『今から魔法を使う 声が漏れないように使用人に話しかけてくれ』
「私はいつまでこんな暮らしをすればいいんでしょうか」
再び頷いたフランはなるべく大きな声で外に居るメイドに声をかけた。
「それは旦那様にしかわかりません」
「そうですよね……」
話をしてくれている間に魔法は発動する。
俺とフランを魔法陣が通過し二人は透明になる。
互いにも見えないため、俺はフランの手を握る。
そして換気用の窓を思いっきり割砕く。
「お嬢様今の音は何ですか!」
メイドが急いで中に入ってくるが、向こうにはこちらは視認できておらず、窓に向かって駆け寄るが当然そこにもフランの姿はない。
「お嬢様が逃げた! 窓から外に逃げたようだ急いで追跡しろ!」
廊下で大声を上げ巡回の警備員と共に急いで階段を下りていく音にひとまず安堵する。
「タクト様、助けに来てくれたのですか?」
「友達が囚われてるんだから当然だ。こんなやり方納得できないしな」
友達という言葉が少しだけ恥ずかしくて透明でお互いが見えていないのに目を反らしてしまう。
「助けに来ていただいて申し訳ありませんが、少し一人にしていただけますか?」
「今一人にするのはまずいだろ。何かあったら対処できないし」
「いえ、外に出ていただけますか? お願いしますから」
なにやら唇をかみしめて何かを我慢している様に見える。
もしかして感動のあまり泣くのを我慢しているのか? だとしたら今は見えないんだし泣いても大丈夫のはずだ。
「今は見えないから大丈夫。だから俺の事は気にしないでくれ」
「もう限界なのです。漏れてしまいそうなのでトイレから出て行ってください」
「すぐ出て行きます」
ここがトイレなのを忘れていた。
我ながら少しカッコいいことを言った気がするのに、全てが台無しで水の泡になってしまった。
「タクト様は凄いですけど、デリカシーがありません」
「ごめんなさい」
周りに声は聞こえてしまうので小声での会話だ。
お互いに離れてしまうため再度【トランスペアレント】をかけなおして手を繋いで歩いている。
それにしても今度からトイレに行くたびに、さっきのフランのパンツを脱ぐ動きを思い出してしまいそうだ。
可愛いパジャマが下ろされ露出する白い足、純白のパンツに覆われたその先は残念ながら見えなかったが、トイレをする一部始終が頭から離れない。
「タクト様、これからどこに向かうのですか? こっちはエントランスですけど」
「ちょっと用事があるんだよ」
一時的に邪念を追い払いながらフランの質問に答える。
ウィルさんからの頼まれごとのために俺はエントランスを目指している。
沢山の警備の連中が本館の中をせわしなく走り回っており、エントランスの近辺は普通に会話しても気づかれないほどに騒がしい。
「フランが逃げたというのは本当なのか? 警備の連中は一体何をしているんだ。何のために高い金を払って雇っていると思っている!」
怒鳴り声の先には、高そうな衣服で着飾っているいかにも貴族という壮年の男が居た。
「あれがフランの父親のガーフィール・イクシルで合ってるよな」
「はい、その隣に立っているのが、母のバノ、その隣が兄のルードです」
全員いるな。
これで問題なく始められるな。
「フランは少しここに居てくれ」
「何をするおつもりですか?」
「フランを連れて行く許可を貰いに行く」




