いつもの”日常” 6
今日は話の組み立てで凄く悩んで遅くなりました。
ー◆ー
しばらくして、ゴルさんは燃え尽きたように腕と首を下げて、念仏を唱えるように、嫌い⋯っとブツブツと連呼していた。
「これがなかったらなぁ⋯⋯」
メルがため息を吐いている。メル自身、明るく裏表がないので人として好ましいのに俺がここに来たくないのは、このやり取りが多発して気疲れするからだ。
ゴルさんは優秀だ。親バカがなければ優秀すぎるのだ。
ゴルさんは一応、自身の世界の頂点にいる存在だ。
幼い頃から神童、希代の天才と呼ばれているらしく、確かに転移してきたどの異世界よりも優れた魔導具を作ってくれる。
技術力だけではない。政治力、話術、人望、他の様々なことも卒なくこなす、もの凄くステータスが高い人なのだ。
ゴルさんのやってきた事の一例だが、どれも凄まじい。
魔導ゴーレムで産業、食糧供給の自動化。
その技術を狙いに来た他国を新しく作った魔導具で蹂躙。
他国との技術提供による協力関係の強化。ならびに自国の技術独占による世界からの孤立、脅威国になることを回避。
飛空挺による新しいインフラと運搬の革命。
まだ、色々とあるが、上げるとキリがない。その時の最善の策を選んで、実行し、成功を収めてきたのだ。なに、この完璧超人。
最終的には“世界の意思”——つまりは神々との会合を果たそうと魔導具を作成して会いに行く。
(削除)
初めて会った時は、どんな話ができるかワクワクしたそうだ。
だが、大体の神様は我儘なのだ。
そのあまりの傍若無人さにキレたゴルさんは一旦戻って、対神用魔導具を作成。超冷静。
お前に世界を任せられるかぁ!っと殴り込みをかけて“理の座”⋯⋯“世界の頂点である証” を取り上げたのだ。そして、
「お父さん神様になったよぉ、すごいだろぉ!」
娘に自慢。
「あの頃は怖いもの知らずだったなぁ⋯⋯ハッハッハ」
親バカパワーを炸裂させていたゴルさんだった。
「あ、そうだ」
メルが燃え尽きている親の横を過ぎて部屋を出て行く。
少しして、部屋へ戻ってきたメルは両手で色々な魔導具が入った箱を持ってきて作業台へ置いた。
「はいこれ!」
メルが箱の中から一枚の黒い布を取り出す。
「これは?」
「“どこでも転移くん改良型”!」
「(なんかネーミングが危ない⋯⋯)そ、それで前の転移くんとどう違うんだ?」
「えっとなぁ⋯⋯」
手に持っていた布を作業台に置いて、箱の中から何やら謎の筒と、角がない正方形が付いたキーホルダーを箱から取り出す。
「前までは、紙を消費して女神が持っている、転移受信機のところまで転移してただろ?」
「これですね」
アネムが手に、メルの持つ角のない正方形よりも大きな同じ形のそれ——転移受信機を取り出す。
「そうそれ!でな!」
嬉しそうに声が弾んでいる。
「紙を消費してたら、また紙に魔法陣書かないといけないだろ? 非効率だし面倒じゃん? だから何度も使えるようにしよう!って考えて出来たのがこの”どこでも転移くん改良版”なのだぜ!」
なるほど⋯⋯。
「それでどう使うんだ?」
「前までと使い方はそこまで変わらない! 魔力を流して転移受信機のところに転移するだけ!」
キーホルダーを摘んでプラプラさせる。
「今まで転移した後は紙を燃やして、証拠が残らないようにしてただろ?だけど、その紙自体も転移者の元に転移させて再利用すればと思って考えたのがこの筒!」
筒を前にグイッと突き出す。
「転移した後の紙の移動先として考えて、学校の卒業式の時に見た卒業証書を入れる筒を参考にしてみた!
⋯⋯まぁ、転移魔法陣は紙じゃぁなくなっちゃったんだけどな⋯⋯」
両手のものを箱に戻して、先ほど机に置いた布を手に持つ。
「そして、これが!新しい転移魔法陣を描いて、縫い付けた“布”になる!」
「布にした理由はなんだ?」
「えっとな!前までは転移した後に燃やすような術式だったから簡単にすんでいたんだけど、“転移させた後に自身も転移する”って描いちゃうと凄く魔法陣がおっきくなっちゃうんだよ」
転移は、座標の設定や空間に干渉する術式やらで、かなり複雑化してしまうため難易度が非常に高い部類の魔術だ。
実際この布一枚に纏めている技術の高さは凄い。
「だから、2枚重ねて、術を起動した人を転移させる術式を起動した後、数秒後に自身を筒に転移させる術式を起動させる。
つまり、転移魔法陣の術式を二つに分けてそれぞれ別にした方が、魔法陣をコンパクトにする事ができて術式を簡単にすることが出来ました!
そして、なにより紙より丈夫!2枚重ねても縫い付けることで離れにくいし!」
メルから転移魔法陣の布を受け取り眺める。
黒い布地に、基調に白、赤、青、緑など様々な色で陣が描かれている。
眺めていると、以前とは違うところに目がいく。
転移魔法陣から下に少し線が伸び、その先に小さな円状の魔法陣が書かれており、さらにその円状の魔法陣から四本の線が伸びて、その先にも四角を基本とした魔法陣が繋がっていた。
「メル、これは?」
「あぁ、それはな!」
ポケットから自身のスマホを取り出し、様々なキーホルダーが付いた中から、角の無い正方形を見せてくる。
「そこの四角の魔法陣のどれかに触って、魔力を流すと、この受信機を持っている人のところに行けるんだ!」
四つの魔法陣がある⋯⋯四つ?
「はい!コレ!」っと俺に角の無い正方形のキーホルダーを渡してくる。
「今まではケンしか“転移くん”を使って来なかったけど、今回で何回でも使用可能になったからついでにみんなのところにも転移できるように改良してみたんだ!」
ブイ!っと明るい笑顔にピースを見せてくるメイに驚く俺なのであった。
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