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第十三話『考えていることと考えていそうなことは想定外に違う』

 余裕だ、と思っていた。

 だがいざ開戦してみると、その判断は迂闊であったと思い知らされた。


「……っがは」


 口に溜まった赤い唾液と、張り詰めていた吐息が一緒になって床に零れる。だばだばと流れる酷い量の汗が、すぐさまそれを、薄く溶かしていく。荒い息と共にその光景を見つめながら、萩野(はぎの)克樹(かつき)は内心に悪態をぶちまけた。畜生、どうなってやがる、どういうことだ、俺たちと魔族には圧倒的な戦力差があって、だから何の問題もなく、一方的に蹴散らせる、というはなしではなかったのか。

 克樹たちが向かったとき、魔族たちはまだ行軍の最中だった。陣を敷き、破壊活動を開始する前。今ならより一方的に、より楽に倒せる、と判断した。思えばそれがミスだったのだ。常に相手の実力を、予測したよりも上だと考えろ……話半分に聞き流していた部の先輩からの説教を、今更ながらに思い出す。


 戦闘は、魔族たちの優勢で進んだのだ。確かにスキルの力やギアのパワーには絶大な差があった。克樹の率いる部隊には、もうこの世界では封印され、存在しないという魔法――それを模した力を発揮するスキルを持った、いわば『魔法戦士』が何人もいる。埒外の力を以てすれば、確かに攻撃力、という面では比べるのも馬鹿らしくなるような開きを見せつけることができた。

 だが問題だったのは技術だ。

 魔族たちは戦闘慣れしていた。複数人数で、性能の勝る相手を囲む戦術。一対一で強大なスキルを持った存在と対峙した時の対処方法。奴らの纏ったメタルパープルの機械鎧が、最初から自分たちよりも強い相手と戦うことを前提とする……そういう設計思想をしているように見えたのも面白くない。まともに戦うつもりがないのだ、あいつらには、一方的に虐殺される諦観も、逆に、自分たちよりも劣った相手を圧殺していく快感も。

 ただ生き残って、次の戦場でも役に立つ――そういう意図を携え行動しているように、克樹には思えてしかたがない。腰抜けの感性とは違う、もっと何か別の……そう、()()()()()()()()()()やつの価値観。

 

 なにより克樹をイラつかせるのはあの目だ。鬼を思わすフルフェイスマスク、そのツインアイの向こうから除く冷ややかな目。

 まるでこちらを、大型獣か何かのように捉え、観察しているような視線――ああ、今思い出してもはらわたが煮えくり返りそうだ。あんな目で見られるほど、自分は安い男じゃない。


「くそっ……ムカつくぜ……」


 ガンッ、とハンガーを殴りつける。驚いたのか、整備兵がびくり、と肩を震わせた。年若い少女だ。女性の整備兵は珍しくない。コッカソウドウイン、というやつだろうか。その姿が、戦う力を持たない姿が、つい先日の嫌な記憶を呼び起こす。

 

 春風逢間と言ったはずだ。高等部一年。所属を聞いてから思い出した話だが、克樹の仲間内では一時期有名な名前だった男である。何でも学年、いや学園でもトップクラスの美少女の心を射止めた、何の変哲もない上級生がいる、とかなんだとかで。克樹は色恋の類にさして興味がないためすぐにその話は記憶から締め出したが、仲間内ではあの女……凍月芽音だったか? 彼女を狙っていたものも何人かいたらしく、随分と荒れていたことを覚えている。結局どう進展があったのか知らないが……この間、その春風と凍月が仲良く木陰でディープキスを交わす姿が見えた。それはつまり、噂通りデキていた、ということなのだろう。

 ――が、そんなことはどうでもいい。

 ああ、本当にどうでもいい。心の底から関係ない。

 

 問題なのは春風逢間の目だ。あいつもそうだ。あの魔族たちと同じだ。克樹との戦い、それとは別の場所を見ている目。目の前の相手に勝つとか、生き残るとか、そういう闘争本能・生存本能とは全く違うところに、思考の到達点を置いている奴の顔だった。

 克樹の好きな、『生き残りたい』『勝ち残りたい』と抗う人間の表情ではない。そんなものを潰したところで、何も面白くはなりはしない。戦闘中はハイになるタイプと己を分析しているため、確かに暴力をふるっているうちは楽しいだろう。実際あのリンチが中断されたときは、己の一撃がもうこいつの腹に吸い込まれることはないのだという事実に憤っていた気がする。

 だが一度、争いが中断されれば別だ。後に残るのはいいようのない不完全燃焼感。虐殺し足りない、という、嫌な不満足感。もっと殴りたい、もっと斬り付けたい、これからこいつが見せるだろう、悲痛で必死な生存欲求に満ち溢れた顔を、間近で見ていたかったのに、という渇望だけ。


 その楽しみを、最初から享受させるつもりのないまま戦いに挑んだ挙句、おかしなところで中断させた春風逢間を、克樹はどうにも許せない。

 聞けばあの腹立たしい上級生は女共を侍らせて、後方支援に回っているというではないか。自分たちが身を粉にして、魔族と刃を交えているというのに。あいつはのうのうと、安全な場所で乳繰り合っている。生存本能の欠片もない、ぬるま湯の中で生きている。


 ――もっと戦えよ。お前もその身で、『生きている』実感を味わえよ。


 ぎり、と奥歯を噛みしめる。がしゃん、と装甲が取り外されたギア・フレームが、耐久値の限界を超えて展開解除されるのを後目に、克樹はもう一度、強くハンガーの柱をぶん殴った。返ってくる痛みのお蔭で、少しだけ思考がクリアになる。その分、ふつふつと燃える黒い焔はより一層火力を増してしまったが。

 忌々しい感情をどうにか振り払いたくて、クレーンで大地に下ろされるやいなや、克樹は視線を彷徨わせた。何か憂さ晴らしになるモノ。八つ当たり対象でも、気を紛らわせるようなモノでもいい。兎に角何でもいいから、今はこのイライラをどこかへやってしまいたかった。


 ふと、オペレーターと思しき男性が、仲間に呼ばれてどこかへ去っていくのを捉える。テーブルの上に荷物を広げっぱなしだ。どうやら作戦指示書や、小さな伝令器具を寄せ集めて持ってきたらしい。

 その中に、克樹は妙なものを発見した。タッチパネルといくつかのアナログボタンを持った、長方形の箱だ。克樹の両親が子供の頃に流行ったという……ポケベル? そういうのと、スマートフォンを足して二で割ればこういう姿になる気がする。だが使われている金属は、エンブレーマギアの装甲を構築している魔導鋼と同一だろう。どうやらこれでも、軍事アイテムのようだ。


「んだ、これ……」

 

 ぴこぴことボタンを押していると、ふいにタッチパネルに光がともる。ステータス・クリスタルと同じように、起動者に分かる言葉で表記されるようだ。日本語が書いてあった。傍らにはRPGで画面の右上に表示されるような、小さなマップが描かれている。

 それを見た瞬間、克樹は危うく叫びそうになってしまった。これだ、と。これを使えば、あいつにも『生への執着』を全開にした表情を、取らせることができるかもしれない。

 

「あぁーチクショウっ、いてぇよぉ、何で最前線なんだよ俺らの担当」

「この間のリンチ騒ぎの罰扱いらしいぜ」

「はぁー? ふざけんなよな。春風だっけ? あの上級生が割り込んだ上に上官呼ばなけりゃ、ワンチャン凍月のことボコれたのによぉ……それで……へへ、ボロボロになった凍月を……」

「うわっ、お前リョナラーかよ」

「何だよ悪いのかよ」

「いや別に。でも俺とは分かり合えないかなぁ」

「んだとこの野郎」


 帰港・装備の取り外しが完了したと思しきグループの仲間が、格納庫の隅でだべっている。その声がさらに、克樹の計画を堅実なものへと固めていく。後腐れも残るまい。我ながら何と良い事を思いついたのだろうか。


「でもお前ユニコーンじゃなかった? 凍月、もう春風先輩とヤってるらしいぞ」

「はぁっ!? マジかよそれ」

「マジマジ、大マジよ。昨晩シャワー室から二人の喘ぎ声聞こえたって噂だぜ」

「うせやろ? クソっ、どこまでも腹立つやつだな春風逢間……」


 どうやら二人とも、春風にはそれなりに恨みのある方と見える。特に悔し気に地団駄を踏んでいる方。こいつは使える。


「ああ、本当に腹の立つ奴だ」


 克樹は二人に近づきながら、悔し気な風を装って舌打ちをしてみせる。結構大変なのだと後から気付いた。にやけそうになる顔を抑えるのが、意外と難しい。

 話しかけられるとは思っていなかったのだろうか。彼らは驚いたような顔で克樹を見る。僅かな怯えが混じっていた。ああ、こいつらは良い。自分の顔を見ただけで、生存本能をむき出しにしてくれるのだから。


「なぁお前、確か電子戦得意だったよな?」

「お、おう。親父の影響で一応」


 返ってくる震え気味の声に、より一層笑みを強くして。


「俺と一緒に、あのムカつくセンパイに嫌がらせしねぇか」


 克樹は、予想外の拾い物――支援物資要求用の通信機を、がしゃりと鳴らした。


 ***



 装甲版にビスを留めていたら、飛び散る火花を遮るように、ぴこんとライムグリーンのアイコンが視界に表示された。ギア・スケールを応用して作られた工業用バイザー、そこに搭載された通信ユニットが、魔力回線によるメールを受信したらしい。全く、ファンタジー全開の異世界なのに随分便利にできているものだ。

 ちなみにギア・スケールというのは、エンブレーマギアに装備することを前提とした、特殊な装甲のことだ。対義語はギア・フレームである。要するに『ドラゴニック・クロウ』とか、綾鷹が作ってた蜘蛛型装甲……なんつったか……ああそうそう、『タランチュラ・クロス』とか。ああいうやつ。


「およ、仕事か」


 とりあえずメッセージを開くと、高機動用の拡張ユニットが欲しいから運送してほしい、という内容だった。どうやら運搬部隊であるところの俺に対して、出番を告げる鐘が鳴ったらしい。うへぇ。


「アイヴィーさんすんません、ちょっと行ってきます」

「はいよー……ってあれ? 指示出てたっけ?」

「何か直接来ましたよ。運搬らしいです」

「ふーん。ま、気を付けていってらっしゃいな」


 うぃっす、と軽めの返事をして、俺はその場を離れる。腰のスラスターが小さな青い火を噴いて、ぽーんと中空へと押し出してくれた。そう、今朝なんだがついに俺のスラスターが仕事をし始めたのだ! いやぁ、やっぱり反復練習あるのみだったな! スキル制MMOの要領ってことと見える。なんつーかあれだよな、やっぱりこういうタイプの異世界は変にゲーム的だ。後方支援に徹してるのもあって、戦場の緊迫感みたいなのが前ほど強くなくなった。良いような、良くないような。


「あ、そうだ。今日の夕飯だけど、余裕があったらアタシの分はこっちに運んできてもらえない? ちょっと今日中に終わらせたい仕事があって、食堂までいけそうにないのよ」

「了解です」

「頼んだわよー」


 なんというか、アイヴィーさんとこういう会話をしていると、彼女は実に『お母さん』って感じのする人だなぁ、と思うんだな。年齢的にも見た目的にも、年の近い姉、っていう立ち位置が正しいんだろうけど……なんというか、所謂『親代わり属性』持ちのお姉ちゃんヒロインとか、丁度こんな感じの印象。いえ、俺のヒロインは芽音であってアイヴィーさんではないんですけども。顔好みじゃないらしいし余計に……そういえばアイヴィーさん、どういうタイプの顔が好みなんだろうな? 失礼とは分かっているのだが、純粋な好奇心を抱いてしまうな……おっと、噂をすれば影とはよく言ったものだ。

 運搬用の長距離飛行のため、ブースターを装備しに格納庫へ向かうと、丁度別の作業から帰投したと思しき芽音が汗をぬぐっていた。動作のどこをとっても恐ろしく絵になる……今日も異様に可愛いなこいつ。


 ラバースーツの表面を流れる汗の水滴と、淡いピンクに染まった肩口が妙になまめかしい。うっ、シャワー室で一発かました昨夜の記憶が蘇ってきてしまった。いかん……あのなんというか、いつ誰に聴かれてバレるか分からないスリル感が絶妙にクセになってしまったらしく、これまでのピンク色な記憶の中で一番鮮烈に残っちまって……。

 というか一部の生徒にはバレてるっぽいんだよな。今朝ひそひそ話で話題になってるのを聞いてしまった。穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。芽音には大分申し訳ないことをした……っていうか夜の俺、芽音に迷惑しかかけてなくね?


 その芽音がこっちに気付いた。ふわり、と愛らしく笑顔を見せてくれる。駆け寄ってくる姿はまさしく天使か女神の類。ぐぉお。


「先輩」

「おう、お帰り芽音」

「ただいま帰りました……って、何言ってるんですか、全くもう」

「え? あ……お、おう」


 何か急に恥ずかしがり出したな、と不思議になって思索してみれば、多分あれだ、今の会話がこう、同棲中のカップルがするようなそれだったからだろう。うん。こいつ変なところで妙にロマンチストというか、恋愛小説で見るような展開に憧れてる節があるんだよな……いやまぁ俺もそういうの嫌いじゃないけど。


 装備の運搬をしにいく、という話をしたら、「じゃぁ私もついて行きます」と言われてしまった。今帰還したばかりの芽音は大分疲れてるだろうし、本当は休んでいて欲しかったのだが……開戦からこっち、一緒に居られる時間は夜くらいだからかな。二人の時間が欲しいとかなんだとか。なんでこいつそうぽんぽんと男を殺すような台詞を吐けるの? 天使かと思ったら小悪魔の類なの?


 なーんて思いながら装備箱に詰められた高機動パッケージを探しに倉庫へ赴くと、見知った顔が、クレーンで箱詰め作業をしていた。


「綾鷹じゃん」

「おや、誰かと思えば春風パイセンと凍月氏じゃありませんか。本日もお熱いですね!」

「からかうなよ恥ずかしいだろうが」


 こいつ自身がやたらと距離を詰める速度が速いのもあって、もうだいぶ遠慮のないモノ言いが互いにできるようになった。芽音の他に女の子の友達っていなかったから、結構新鮮だ。特に彼女との間柄が『友人』から『恋人』になった今、余計に貴重な存在である。


「高機動ユニット一個くれ。運搬する」

「あいあいさー。なら折角ですし、新しいやつ持っていきます?」


 ほう、新しいやつとな?

 綾鷹が手元のタブレットを操作し、設計図らしきものを見せてくれる。覗き込んだ俺と芽音は、ほぼ全く同じタイミングでお互いの方を見た。目が合う。驚きの表情だ。やっぱりそう思うよな?

 提示された新装備は、結構予想外の形をしていたのだ。俺たちが……いや、俺は今朝からなんだけど……普段使っている標準的なスラスト・ブースターは、一種の鳥の尾のようにすらりと長い形をしている。だがこれはまるで形状が違う。そもそも腰のスラスターじゃなくて、もっと別の部分のフレームに装着するらしい。


「これが……新型の推進器、ですか? ブースターにしては随分不格好に見えますが」

「エネルギージェネレーター……いや、これは」


 見たことがある。某人気リアルロボットシリーズ、ジャ〇ーズ系と呼ばれた作品に登場した機体、そのリファインデザインが背負っていたような『翼』だ。目的はあれとはまた違うんだろうが……。

 綾鷹はふふん、と得意げに胸を反らす。意外とあるな……ってそうじゃなくて! くそ、手遅れだった。隣の芽音からの視線が冷たく、かつひどく痛い。


「ドラゴニック・クロウのスラスター部分を改良し、単品で利用できるようにしたものです! 名付けて『ドラゴニック・ウィング』。テスト結果によれば安全性はそのままに、推進力は従来型の三倍」

「三倍!? ほぉーん」


 変な驚愕の声が漏れた。

 なんかこう、装備したら赤くて角つきになりそうだな。いや、あれは木馬に近づく速度が三倍だっただけで、性能が三倍だったわけではないらしいけど……。


 取りあえずそいつを受け取り、ガレージへと向かう。ハンガーに吊るされていた長距離移動型ブースターを装備する。


「輸送部隊長オウマ・ハルカゼ、出撃します!」


 装備箱を抱えたまま、射出される。くぅー、一回言ってみたかったんだよなこれ。メカアニメ好きなら誰でも持つ感情だと思う。え、俺だけ? そんなー。

 

 後ろから芽音も追いついて来る。まだちょっとふらついているが、彼女の方もだいぶ慣れてきた。レアレント隊の輸送艦に乗った時、「先輩がいるから怖くない……」とか言ってたのを思い出す。あれもしかしてガチだったのか……?


 とにかく、ちゃっちゃとパッケージを運んでしまおう。高機動兵装が必要になるってことは乱戦か、もしくは追撃の必要があるのかもしれない。どちらにせよ時間を争うタイプの戦況だ。


「さて、んじゃぁこれを……ん?」

「どうしました?」

「いや、指定座標が変なところでな」


 なんだろう、最近見かける輸送先、つまりは激戦区とは随分違う場所だ。でもどっかで見たことがある気がするんだよな、このマップ……。まぁ、今は考えていても仕方ない、と、二人そろって思考からその疑問を追い出す。

 

 そのまま飛行すること数十分。

 いけどもいけども目的地が見えてこない。


「いやホントに変なところだな!?」

「凄いですね……国土がここまで広いとは思いませんでした。あれだけ追い詰められている様子なのに、食糧に困っている様子がないのはこのせいだった、と」


 芽音は相変わらず目の付け所がクレバーだなぁ。俺なんか魔族は補給路を断つ系列の作戦をしてこないのかな、程度の考察で終わりにしちゃったよ。

 でも今俺たちが飛んでる辺りは、あんまり作農とか遊牧みたいなのには適しそうにないよな……ごつごつした山と、それを被う様に生い茂るモスグリーンの森林地帯。流れる川は意外と穏やかだけれど、全体の雰囲気が不気味すぎて、あんまり水浴びとかはしたくない。


「ほんとにこんなところにいるのかな、追加装備必要な人。魔族はおろか共和国軍すらみかけねぇぞ」

「確かに妙ですね。友軍信号も見当たりませんし……」


 それなんだよなぁ。

 例の工業用バイザー、そのまま借りて来てるんだけど、実はいくつか操作をするとエンブレーマギアのバイザータイプ頭部フレームの代わりになってくれる優れものなのだ。無論、実際のフレームと比べると色々劣ってるし、防御力も半分だけど……。

 話を戻す。その工業用バイザー、ギア代役モードではオリジナルの頭部フレームと同じく、索敵機能が使用できるようになっているのだ。それによれば近くに救難信号や、友軍を示すアイコンは見当たらない。代わりに遠くの方、魔族反応と思しきものが一つ。状況は攻性(アグロ)、攻撃予備動作中……って、ぇえ!?


「芽音危ない避けろ!!」

「えっ……!?」

「ちっ!」


 なんでまたこんなところに魔族が! などと思っている暇はなかった。余裕が喪われた、と言った方がいいかもしれない。

 なぜなら、俺が芽音を抱えてスラスターを噴かすのとほぼ同時に、つい一瞬前まで俺の立っていた場所を、すみれ色の燐光が奔り抜けたからだ。


 バンッ! という何かが破裂するような音と共に、燐光が形を取り戻す。急停止したのだ、と理解するのは、そのメタリックヴァイオレットの装甲が、極めて強力な姿勢制御機能を有するのだと知った後。


「Muf……Gaaduoyoniatubnpanu、Rookotatim?」

「な……!?」


 意味を理解できるような、全く理解できないような……奇妙な音、いや言葉をその口から発しながら、襲撃者はゆらりとこちらを振り向いた。

 紅い魔力光の尾を引きながら、銀の大剣を構えたその姿は。

 丁度開戦の日、通信映像で見たモノだった。


「『暗黒騎士』……!?」


 芽音の喘ぐような、悲鳴混じりの声が耳朶を打つ。


 魔族軍最強と噂される機械鎧の鬼が、そこにいた。


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