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第十二話『火蓋を切る、とはよく言ったもので』

 大統領府、会議室。俺たちはアイヴィーさんに率いられ、バルアダン共和国の行く末を左右するその場所へと足を踏み入れた。既にシビュラやデイヴィッドを始めとした軍に関係があるお偉いさん、アイヴィーさん以外のギア使いたち、そして異世界から呼び出された、俺と同じ学園の生徒達が集まっている。結構な人数要るけど、スペース的には余裕あるなぁ。流石は共和国最大クラスの建築物。部屋のサイズの格がちげーや。

 げっ、萩野たちもいるじゃねぇか。態度悪く椅子に腰かけ、なにやら異世界たばこめいたものを吸っている。おいおい、健康に悪いぞ健康に。お兄さん流石に中学生でたばこは色々アウトだと思うんだ。


「来たか、レアレント中尉」

「状況は? 動きがあった、って聞いたけど」

「つい先ほど偵察部隊が『陣』に到着した。今、映像付き魔力通信の接続をしているところだ」


 どうやら主だった士官クラスではアイヴィーさんが最後にして最強らしく、俺たちが会議室に入ると、すぐにドアとそのカギが閉まった。ひえっ……これ、内容を外に漏らしたら軍法会議とかそういう審問にかけられんのかな……かけられるんだろうなぁ……。

 まずいなぁ……確固とした『戦争』の気配に、手足が震えてきちまった。頭の中では分かっていたけど、本質的には理解できてなかったんだな。覚悟が決まっていなかった、と言い換えてもいいかもしれん。


「先輩、右足と右手が同時に前に出ていますよ。調整をミスしたロボットか何かのつもりですか?」

「えっ、あぁ……わりぃ。ち、ちょっと緊張しちまって」

「もう……しっかりしてください」


 芽音はため息をひとつつくと、俺の左手をぎゅっと握ってくれる。うわーやわらけぇ……めっちゃ落ち着く……。

 すげぇなぁ。俺の不安を一発で全部消し飛ばしちまった。それだけでも充分凄いし、何よりそれを思いつくだけの余裕があるのが凄い。緊張しねぇんだな、芽音は……。

 と、思ったところで。ふと、芽音の右手が随分汗ばんでいることに気が付く。どうやら、彼女も彼女で結構気を張っているらしい。顔に出ない、あるいは出さないように我慢しているだけのようだ。なんだ、無理すんなよな。

 俺は自分自身と一緒に彼女も安心させたくて、握ったその手に力をこめる。びくっ、と一瞬震えた後、芽音は同じくらい強く、握りしめ返してくれた。


「おっ、繋がったみたいですぞー」


 後ろの方から身を乗り出してきた綾鷹が、ぼてっとした眼鏡の向こうで目を細める。結構視力弱いみたいだな……そういやこっちの世界、眼鏡はあるのかな? 中世頃にはもうあったって聞くし、明らかに文明レベルがいびつなノインローカなら簡単に増産できそうなもんだけど。

 そう、いびつだ。

 この世界の文明は色々とおかしい。芽音ほど博識じゃないから、実際の人類発達史的観点からそれに言及できるわけじゃぁないけれど……常識的に考えて、『これが生まれるならこれもあるだろ』みたいなものが無かったりするのだ。

 映像付き魔力通信もそういったいびつな存在の一つである。エンブレーマギアのオプションである、大気中の魔力を伝った長距離通話システム……『魔力通信』。大昔に存在したテレパシー系の魔法技術の応用らしいが、今目の前で展開している奴はそこに映像までくっついてくる。所謂テレビ電話、というやつだ。にもかかわらず、家庭用の映像機械や、映画を映すようなアイテムは存在しない。まぁ、これに関しては需要がないのかな、と思わんでもないが……それにしたって、上流階級の娯楽にすらなっていないのはちょっと首を捻る。


 っと、ホロウィンドウに何か映り始めたな。暗く生い茂る木々と、背の低い山が連なる様子は、中等部の校舎を置いてきたあの森ともよく似ている。多分偵察部隊っていうのが確認してる、魔族が出没した共和国北方領の映像なんだろうけど……バルアダン共和国は案外、こういう森に囲まれた立地なのかもしれない。

 直後、画面が鋭く切り替わる。森の中だ。実際に撮影・送信されている画像に切り替わったのだろう。先程とは逆で、こちらから空を見上げるアングルとなっている。


 その青い空に、人影が浮いていた。何か探しているのだろうか……周囲をきょろきょろ見渡すその様子から、直感的に悟った。多分、あれが『魔族』だ。


「なんーじゃありゃ……」


 思わずつぶやいてしまう。ちょっと……というかかなり、想像したのと違ったからだ。画面に写された魔族の姿が。


 俺個人としてはこう、魔族の見た目は、角が生えてるとか耳が長いとか、多少人間と異なる容姿をしていて、元の所は同一種族、みたいなオチが待っているとか、完全に悪魔っぽいデザインをした怪物グラフィックのあたりだと思っていたのだ。だが実際に見た魔族の姿は、そのどちらとも大きく異なっていた。


 一言で表すならば――そう、『機械の鬼』。オーガ族とは別、日本の能とかでみるような『鬼』を、メカニカルに表現した様な存在だった。

 ダークヴァイオレットの装甲が、妖しく陽光を反射し、ギラリ、と煌めく。スラスターから漏れる魔力の光は赤。明らかに、人間種のそれではない。


 しかし動きには機械らしさはない。アンドロイドとかそういうものの類ではなく、ちゃんとした生命体のようだ。となると、あの機械っぽい見た目は装甲、っていうことになるよな……エンブレーマギア、だろうか……? 

 

 いや、違う。それにしては体とフィットし過ぎだ。ギアは骨格型のパワードスーツ。某女性にしか動かせないマルチウェアとかと一緒で、身体の外側に展開する方式だ。そこから伸びるコネクトパーツがラバースーツに貼り付くことで、肉体とも接触・自在に動かせる、という寸法。

 だが魔族たちの『鎧』は違う。まるで日本の戦国武者が装備するような、完全な甲冑型なのだ。エンブレーマギアよりもはるかに、『機械鎧』という言葉がよく似合う、全く別種の設計思想から成り立った強化鎧(パワードスーツ)


 装備してるフルフェイスマスクがやたら威圧的なのも気になるんだよな……歪んだ人面っぽいというか、じっと見てると背筋が泡立つような恐怖を感じる。本能的に、って言えばいいんだろうか。敵対勢力の戦意を削ぐために、わざとああいう造形をしているのかもしれない。

 丁度こめかみのあたりから伸びる金属の『角』も、きっとその一環だろう。これのせいで『機械の鬼』というイメージが余計に際立って、彼らから現実味を奪っていく。生きとし生けるものを抹消するべく、幽世から送り込まれた虐殺者……そんな印象を抱いてしまう。それは多分、正体不明の第十種族、という背景と相まって、戦場に立つギア使いたちの戦意を大きく砕いてきたことだろう。

 でも、なんだろう……全体的なシルエットは、そんなおどろおどろしい顔に反してやたらとヒロイックなんだよな。さっき鎧武者の甲冑みたい、って言ったけど、エッジの利いた装甲はむしろ騎士鎧っぽい。


 画面には最初、一人だけが映されていた。が、時を経るごとにその人数は徐々に、徐々に増えていく。何だ……? どこから出て来てるんだ、こいつら。飛来してくる、というよりは、何かのゲートみたいなものを通って、直接転移してきてるように見える。

 あ、ほらやっぱりそうだ。変な空間のひずみができて、そこから一人、また一人と姿を現す方式らしい。うーん、これも武者鎧の効果なのだろうか……? お、今度のは歪みがでかいな。隊長格とかそういうのが出てくるのかしら。


 その予想は半分当たりで半分外れだった。まず正解だった部分は、ひずみから出てきたのは本当に隊長格らしい、ということ。明らかに一人だけ装備が違う。細身で小柄、鎧もよりライトアーマーっぽいシンプルな造形なんだけど……なんかこう、凄く『効率的』なシルエットに見えるんだよな。モデラーとしての俺が囁いてくる。あれは極限まで戦いにおける無駄を省いた結果なのだ、と。

 装備は多くの魔族が魔導砲なのに対し、大ぶりの儀式剣が一つ。これを腰のジョイントパーツに装填しているに留まっていた。近接特化、ということか……?


 で、正解じゃなかった部分。それは、この細身の魔族が姿を見せた瞬間、会議室の空気が一斉に変わったことだ。警戒を通り越して戦慄、驚愕を通り越して叫喚。悲鳴混じりの絶叫が、そこかしこから上がってくる。


「馬鹿な……『暗黒騎士』だと!?」

「で、では第六世界樹連盟は魔族の手に落ちた、と……!?」


 動揺の程が尋常じゃない。奴さんの名前……っつーか称号? からして大分普通じゃないぞ。こりゃ相当マズい状況ってことなんじゃないか?


「アイヴィーさん、『暗黒騎士』って……?」

「……まぁ、見方は色々あるけど……単純にいうなら『魔族最強の戦士』っていうのが一番合ってるかも。共和国軍のエース格も、十何人単位であいつにやられたわ。最近は第六世界樹連盟……ダークエルフの国を攻めてた、って聞いたのに」


 最強の魔族。その言葉を聴きつけ、俺だけでなく異世界人全体に動揺が奔る。無理もあるまい、今回が事実上の初陣になるというのに、そこへいきなりボス格のご登場。能力的な強さの程は不明だが……彼または彼女との戦闘は、少なくとも以前、萩野が言っていたような「一方的な虐殺」には絶対ならない。多少なりともこちら側に損害を与えるはずだ。なんせアイヴィーさんと同格、もしくはそれ以上に強力なギア使いたちを葬ってきた戦士なのだ。真正面から戦って、簡単に倒させてもらえるとは思えない。

 つまり今は、えっダークエルフの国あるの!? とか欲望に身を任せたようなことを考えている場合ではない、ということだ。想像以上に状況はよろしくないと見える。


 会議室がざわついている間に、魔族たちは次の行動に入る。『暗黒騎士』が何か激励の言葉でも口にしたのか。彼らは一様に鬨の声らしきものを上げ、何処かへと散開していったのだ。以前聞いた、魔族による侵略の常とう手段……彼らは少数人数で行動し、侵略するエリアの数を可能な限り増やそうとするのだという。ってことは今この瞬間にも、どこかの村や街が魔族に狙われてる可能性があるのか……。

 

 ふと、画面の中の暗黒騎士が、こちらを見ていることに気付く。ゾッ、と背筋が逆立つような感覚。なんだ、なんだこの違和感。見られている? 向こうから? まさか。彼我の距離は相応に離れているし、なにより偵察部隊のカメラ越し――あっ、いや違う、見つかったのは俺じゃなくて斥候の方か!

 

 ほぼ同時に上層部も気付いた。デイヴィッドが魔力通信に警告の叫びを入れるが、時すでに遅し。暗黒騎士の腕から、魔力の刃のようなものが飛び出す。舞い散る鮮血。直後、画面はブラックアウトした。エンブレーマギアが、撃墜されたのだ。


「ちっ……」


 アイヴィーさんが軽く舌打ちをする。隣では芽音が蒼い顔。俺もちょっと気分が悪くなってきた。顔も名前も知らなかったけど、今確かに、誰か一人死んだか、あるいは死ぬほどの大怪我を負ったのだ。それなりに真っ当な感性を備えたままの俺たちには、少々刺激が強すぎたかもわからん……。


「既に魔族軍の攻勢は始まっていると見てよさそうだ」

「反撃開始と参りますかな……勝算は?」

「此度の侵攻軍は幸いなことに数が少ない。十人単位で異界人部隊を組織し、数とスキルランクの差で押し切りましょう」

「スマートではないな……だが現状、最も被害を抑える方法でもある」


 交わされる議論は、この世界に飛ばされたとき、危惧していた状況が今まさに怒っているのだと悟らせるには十分すぎた。迫りくる『戦争』の感触。ぞっとする。この世界のギア使いたちは、みんないつもこれを味わってたってのか? とんでもねぇな。


 作戦がまとまったのだろう。デイヴィッドが士官クラスを集める。アイヴィーさんは……なんだ、やたら嫌そうな顔をしてるな。あ、帰ってきた。まだ会議、続いてるっぽいんだが。


「ったく、胸糞悪いわね……」

「どうしました?」

「今回は金級以上のスキルを持った異世界人部隊のロールアウトだから、アタシたち正規軍はお留守番と補給支援だってさ。暗黒騎士まで出張って来てるのに、悠長ですこと」


 えぇ、マジで?

 さっきまでの怖れ具合と、作戦内容の綿密さが圧倒的に釣り合っていない。あれだけ暗黒騎士を警戒しているなら、ある程度戦い慣れた共和国のギア使いを入れるべきだろうに……いや、逆か。暗黒騎士と戦って死んでも惜しくない駒として、地球人を送りだそうっていう心づもりなんだ。ハイランクのスキルとエンブレーマギアの、実戦におけるデータ収集。ついでに魔族の将を墜とせたならなお良し、といったところなんだろう。つくづく最悪な思考してんな、この国の軍部は……。


 中坊どもも中坊どもで、デイヴィッドやシビュラの指事を随分熱心に聞いていやがる。ガチだぜあれ。本気でこの国を救う英雄になろうとしてる目だ。とてもじゃないけど、俺にはできん。芽音を守れればそれで十分だし……正直、戦場には行きたくない。


「ああ、ちなみにあんたらはアタシが預かってる扱いだから、中隊と一緒に補給係ね」


 あ、出なくていいらしい。良かった……流石にそのくらいの温情はあった……。

 

 こうして、俺たちの戦争が始まった。

 後にバルアダン共和国の、ひいてはこの世界(ノインローカ)そのものの運命を変えたと語られる戦争が。



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