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探偵(ではない)  作者: 裃白沙
2/5

事の発端

 始まりは夏。この暑っ苦しい海水浴場。事件(それ)まではただの海水浴。天気も良く、空は見渡す限りの快晴。遠く向こうには何十トンって貨物船が浮かんでいる。平和そのものの湘南海岸。人が多いことを除くなら、まあまあ楽しい海水浴。女子部員の水着も見れたし……、おっと、それは目的じゃあないぜ。断っとくけど。

 俺は夏が嫌いだ。年中冬と秋でいい。夏は着る服がない。夏でもオーバーコートを羽織ってる。暑いが風さえ吹けば案外気持ちいい。そんな俺が意を決して海水浴に行ったのは、このサークル、ミス研で海水浴に行こうってことになったからだ。言い出したのは部長の東雲。東雲晴美。相変わらず人を振り回す奴だ。でもって他の部員もそれに追従しやがった。結局俺は慣れない水着姿。パラソルの中に寝転んで煙草をふかした。午前を過ごした。それでも目の保養にはなったが。

 そうやって俺が暇を持て余していると、突然向こうの方から叫び声が聞こえたんだ。この面倒臭がり屋の俺でも、悲鳴や怒号は大好きだ。そこには何かの事件があるはずだ。俺はすっくと立ち上がると、焼けた砂浜を二、三歩飛び跳ね、野次馬根性を発揮した。その結果俺が見たのは……。

 男が死んでいた。哀れに表情は苦悶の色で真っ青だった。

 手元にスプーン。足元はひっくり返ったかき氷、砂の上に溶けている。周りに居るのは二、三の男女。まず口を押さえた女が一人。横には怯えた男が一人。おまけに失神して倒れた女が一人。みんな銅像のように固まっていた。滑稽な光景。格好の対象。気づけばミス研の連中も、東雲部長も集まっていた。すぐさま俺は脈をとった、ああ、死んでいる。いよいよ俺の出番が回ってくるぞと思ったわけだよ。

 そこから先をうだうだ言っても仕方ないだろう。とにかく警察を呼んだ。奴らはすぐやってきて、捜査を始めた。そこで俺は、俺の輝かしき探偵歴を披露した。地元の警察連中は恐れをなして、捜査に加わってもらうよう俺に懇願したってわけよ。

 取り調べだってくだくだしくは語る必要もないだろう。ただ一人一人の印象はあんまり良くなかった。俺の顔色を伺う男。失神した女はバカ丸出しで「自分がE・F・B(相手は死ぬ)を唱えたからユウ君死んじゃったのー」なんて、お花畑なことを抜かして泣きじゃくる。最後の一人、三橋柚里香は俺の癇に障る女。口を押えて固まっていた女。ああ、こいつ犯人だなって思った。

 諸君、天才と呼ばれる探偵はそんじょそこいらのボンクラ共とは()()が違うのだ。論理的に誰が犯人かというのを突き詰めることでしか犯人を割り出せない人間はただの経験主義者だ。自分が経験したことのない事件に対しては無能。情報が出て来るまで、犯人の検討すらつかない虚構の中の天才探偵だ。

 真の天才というものは()()が違う。見た瞬間直感するのだ、こいつが犯人だ。こいつが犯人だとしたら、どういう論理的な壁がある? それを突き崩して、こいつが犯人だと()()()()()()ことができるのが真の天才というものだ。

 もう一度言う。 (天才) は直感した。この女が、犯人だと。

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